ドラゴンはいた
ソムナリアとベルンハルトは、昼過ぎには村に戻っていた。 ペーターは簡単に挨拶をすると家に戻った。
「さて……どうしようか?」
ベルンハルトが尋ねた。
「どうしようか?」
ソムナリアは広場の隅にあるベンチに腰掛けた。ベルンハルトがすぐ横に立った。
「夜まで時間はあるよね?」
ベルンハルトが言った。
「……そうねえ……」
ソムナリアが遅い口調で答えた。
「どうしたの?」
「うん……なんでも……」
ソムナリアがうつむいた。
「まだ何も分かってないよね……?」
「……」
ソムナリアは答えない。ベルンハルトはソムナリアの方を見た。
ソムナリアは目を閉じている。
「……おーい」
ベルンハルトは小声でソムナリアに呼び掛けた。
「……」
ベルンハルトは、もう一度声をかけようとしたが、すぐに手を下ろして空を見上げた。
大きな雲が見えた。ベルンハルトは目で追った。その雲の作る影が広場を横切ろうとしていた。ソムナリアが影に覆われた。少し経つと影が通り過ぎて行った。
ベルンハルトはソムナリアを見下ろした。目を閉じているが眉が動いている。厳しそうな表情にも見える。
「エーミール……」
ソムナリアが目を閉じたまま口走った。
「ソムナリア?」
ベルンハルトが呼び掛ける。ソムナリアが瞼に力を入れてから、ゆっくりと目を開いた。
「あ……」
ソムナリアは眠たげな目で周囲をゆっくり見まわした。
「…私……ねてたよね?」
ベルンハルトがうなずいた。
「うん。寝てた」
ソムナリアは大きく伸びをした。
「どれぐらい寝てた?」
「そんなには寝てないよ」
「良かった」
ソムナリアは勢いよく立ち上がった。
「これからもう一回ドラゴンの谷に行く」
「え?今から?もう一回?」
ベルンハルトが目を見開いた。ソムナリアはすました表情でベルンハルトに向いた。
「うん。……どうする?」
ベルンハルトはソムナリアに手を差し出した。
「行くしかないよね」
ソムナリアは独りで立ち上がり、ドラゴンの谷の方に歩を進めた。
「そうだよね。独りで立てるよね……」
ベルンハルトはソムナリアの背中を追いかけた。すぐに追いつき、二人は並んで歩き始めた。
二つの谷を横切って、再びドラゴンの谷に到着した。途切れた道も、何も書かれていない碑も、朝と変わったところはない。
「追加で調べるものがあるの?」
ベルンハルトが尋ねると、ソムナリアはうなずいて、道の途切れた先に視線を向けた。
「はいるんだよね?」
ソムナリアはうなずいた。
「そうくると思った……」
ベルンハルトは途切れた地点に立って茂みを凝視した。
「ここ。獣道だよ」
そう言うと、ベルンハルトが獣道に分け入った。ソムナリアが後に続いた。
がさがさと音を立てながら、二人は丈高の草の中を進んでいった。
「できるだけ上に上がって。できる?」
ソムナリアが大きい声でベルンハルトの背中に言った。
「上だね。分かった」
ベルンハルトも大きい声で答えた。
さらに進んでいく。顔にも擦り傷が多くできるようになった頃、ベルンハルトが止まった。
「崖に出たよ」
ベルンハルトの足先に崖が見えている。眼下にはドラゴンの谷が見渡せた。
「そう!ここ!」
ソムナリアが大きな声で言った。
ソムナリアが崖のすぐ近くに立ってドラゴンの谷を見た。
「うん……。そうだよね……」
ソムナリアが独り言を述べていた。ほどなくして羊皮紙を取り出し、その上にペンを走らせた。
「……この地形は……そうだよね……あれ?……いや、やっぱり間違ってない……」
ソムナリアは独り言をしゃべり続けていた。ベルンハルトは少し離れてソムナリアを眺めていた。
「いい目してるね……」
ベルンハルトが口走った。
「ん?なに?」
ソムナリアが気づいて、ベルンハルトに顔を向けて尋ねた。
「なんでもないよ。続けて」
ベルンハルトが言った。しかしソムナリアは羊皮紙を片付けた。
「ありがとうね。見取り図は描けたよ」
ソムナリアはドラゴンの谷を背に言った。
「ありがとうね。独りじゃここまで来られなかったから」
ベルンハルトは遠慮がちにうなずいた。
「それはいいけど……何か分かった?」
ソムナリアが満面の笑顔でうなずいた。
「分かったんだ」
ソムナリアはそう言うと、反転してドラゴンの谷を見た。再び羊皮紙を取り出して、見取り図と実物を見比べた。
「見取り図を描いて正解だった。水の進み方が見えてきたんだ」
ソムナリアはベルンハルトに顔を向けて、続けた。
「それでね……ドラゴンがいたんだ」




