ドラゴンの碑
ペーターを先頭にソムナリア、ベルンハルトが続いて山道を歩いた。
「結構遠いね……」
ソムナリアが口走った。
「これぐらいで根を上げたらだめだよ」
ベルンハルトの足取りは軽い。
ペーターは二人の会話を全く聞かずに黙って進んでいた。
二つほど谷を横切ったところで、道が途切れていた。その直前でペーターが立ち止まった。
「これがドラゴンの碑です」
ペーターが視線を向けた先に、人の高さを超える石が立っていた。苔の緑色と地肌の灰色からなる斑模様を全体にまとわせている。ソムナリアとベルンハルトも、その石を見上げた。
「ドラゴンの形はしてないよね」
ソムナリアが呟いた。
「何か書いてあるかな……」
ソムナリアが石の周りを廻り、様々な角度から石を見た。
「何も書いてない……」
ソムナリアはペーターの方を見た。
「これは、いつ建てられましたか?」
「確か……五十年は経っていると思います」
ペーターは周囲を見ながら答えた。
「そうですか……。なぜ建てられたのでしょうか?」
「前の石が割れたので建替えたと聞いてます」
ペーターの答を聞いて、ソムナリアは首を縦に振った。
「うんうん。それなら五十年どころか、ずっと前から建替え続けてたんでしょうね」
ソムナリアとペーターが話している時、ベルンハルトは道の端に立っていた。
「ここでバサッと切れてるね……」
ベルンハルトが呟いた。ベルンハルトが立っている場所までは道が整備されているが、そこから先は茂みになっている。
「ペーターさん、ここから先は行けますか?」
「行くな!」
ペーターが叫んだ。
ベルンハルトは反転してペーターのいる方向に近寄った。
「すみません、つい怒鳴ってしまって……」
ペーターがベルンハルトに言った。
「問題ありませんよ」
ベルンハルトが微笑みを作った。
「むしろ行ってはいけないところを教えてくれたのですから、叫んでいいんです」
ソムナリアが言った。
「ペーターさん、やはりこの先は危ないでしょうか?」
ソムナリアが尋ねると、ペーターはうなずいた。
「はい。ドラゴンが出たらもうおしまいです」
ペーターが周囲の気配を気にしながら言った。
「ところで、ドラゴンの碑のほかに、ここで見ておいた方がいいものはありますか?」
「いいえ。特には……」
「分かりました」
ソムナリアはベルンハルトの方を向いた。
「そろそろ帰ろうか?」
「分かった」
ソムナリアはすぐにペーターの方に身体を向けた。
「ペーターさん……」
「はい……」
ソムナリアは一つ咳払いをしてから尋ねた。
「ドラゴンは本当にいるのでしょうか?」
ソムナリアがペーターの目を見つめている。ペーターは、いちど目を逸らしたが、もういちどソムナリアと視線を合わせた。
「います」
「本物は見てないですよね?」
「見てません」
「それでもいる?」
ペーターは一拍置いて口を開いた。
「います」
ソムナリアは微笑みながら頷いた。
「分かりました。今日は案内して下さってありがとうございました」
ソムナリアとベルンハルトに感謝され、ペーターは少し照れたように見えた。
「帰りましょう」
ソムナリアが言うと、ペーターはすぐさま帰途に就いた。
「急いでるね……」
ベルンハルトが呟いた。その隣でソムナリアはうなずいた。




