ドラゴンは誰も見ていない
村長の家の前にはすぐに広場がある。村長が先に行き、ソムナリア、ベルンハルトが続いた。
広場には数人の男が立っていた。
「こちらがハンス。こちらがフランツ。それからこちらがペーター……」
ソムナリアとベルンハルトの前に、村長の紹介を受けた男が代わる代わる立った。そのたびお互いに会釈をした。
「あとはお任せしました」
村長は自宅に戻った。ソムナリアは村長がある程度離れたら、村人たちの方を向いた。
村人たちの表情は険しくはないが、村長ほどの柔らかさもない。
「いろいろお伺いしたいことがあります。ドラゴンの谷の話について聞きたいと考えているのは、お聞き及びでしょうか?」
居合わせた村人全員がうなずいた。
「おそらく何度か同じことを尋ねられて辟易しているとは思いますが、よろしくお願いします」
ソムナリアがお辞儀をした。ベルンハルトがそれに続いた。顔を上げると、村人の表情が少しだけ和らいでいた。
「ドラゴンの谷にドラゴンがいるとのことですが……」
そう言って、ソムナリアは村人の顔を見回した。みなそろってうなずいている。
「ドラゴンはどれぐらいの大きさだったんでしょうか?」
ソムナリアが顔を見ながら言う。村人はソムナリアと視線が合うと逸らせた。
「では、現に見たという方はいらっしゃいませんか?」
挙手を促すようにソムナリアは右手を挙げた。
ハンスも、フランツも、ペーターも、誰も手を上げなかった。
「どうですか、ハンスさん?」
「あ?……ああ」
ハンスは言い淀んでいた。
「……俺はフランツが見たと聞いたぞ」
「そうなんですかフランツさん?」
「ああ、うん……まあ……」
フランツも首をひねったりしているだけだった。
「誰かから聞いたとか?」
ソムナリアに言われて、何かに気づいたようだった。
「俺はペーターから聞いたんだった」
ソムナリアはペーターを見た。眉をしかめて腕を組んでいた。
「ペーターさんは誰から聞きましたか?」
ソムナリアの近くに寄り辺りを見回してから、呟いた。
「ハンスから聞いた……」
ソムナリアとベルンハルトは顔を見合わせた。
「ちょ……」
口を開いたベルンハルトを、ソムナリアは手で制した。そして、村人たちに身体を向けた。
「やはり具体的な大きさとか色とか、そういった情報が無いと報告書が出しにくいのです。見たことがあると言ってる人がいれば教えてください。お願いします」
村人たちはソムナリアをぼんやりと見ているが、誰も何も言わない。
強めの風が広場を通り抜けた。
ソムナリアが話し始めた。
「お話ありがとうございました。もう少し調べてみたいと思います。ドラゴンの谷に行きます。案内を……」
ソムナリアが口を止めた。村人の表情が変わった。村長よりも厳しくなった。
「ドラゴンの谷には行かせられない」
ハンスが言った。
「俺たちも案内なんてできない」
フランツが続いた。
「いい加減気づけよ!」
ペーターがソムナリアに詰め寄った。
「止まって!」
ベルンハルトが叫んで、ペーターとソムナリアの間に自分の身体を入れた。
ペーターは歩を止めた。
ソムナリアが再び話し始めた。
「改めて伺いますが、ドラゴンの谷は絶対に近寄りたくないですか?」
全員が力を込めてうなずいた。
「そうですか……。では、行けるギリギリまで連れて行って欲しいのです。私たちは全くの不案内ですから」
ソムナリアが言い終わったところで、ベルンハルトが言った。
「どうですか?ペーターさん?」
ベルンハルトに尋ねられたペーターは、浅く何度かうなずいた。
「ドラゴンの碑までなら……」
ペーターだけでなく、他の村人からも「あそこまでなら」との呟きが聞こえた。
「では、それでお願いします」
ソムナリアとベルンハルトは声を合わせた。
「分かりました」
ペーターが広場を出た。ソムナリアとベルンハルトが後に続いた。




