境界線上の夜
離れにはベッドがいくつかあるが仕切られていない。
ソムナリアは、対人防御魔術装置の設置を始めた。
「それ、いつも設置してるよね?」
ベルンハルトがベッドに座りながら尋ねた。
「男女同室では女子のベッドを防御する規則だからね」
「知ってるよ」
「別にベルンハルトを信じられないわけではないからね」
「こうしてくれた方がいいんだよ」
ベルンハルトは足を宙に浮かせながら言った。
「そうなの?」
ベルンハルトは小さく振っていた脚を止めた。
「規則を規則として進めてもらった方がいいよ」
「そうでしょ?」
ソムナリアが手を止めて、ベルンハルトを見た。
「ベルンハルトの時は防御してなくて、たとえば……アドリアンだと防御するとか言うと、もめるでしょ?」
「アドリアンは信用できない?」
「そういう話じゃなくて、誰が一緒でも同じことをするだけ」
「そうだね。初めからソムナリアはそう言ってるよね。何言ってるんだろうね僕は……」
ベルンハルトは自分の頬を軽く叩いた。
「あんまり深く考えない方がいいよ。この話は」
ソムナリアが手を再び動かし始めた。
「信用するの?」
ベルンハルトが尋ねた。
「え?ベルンハルトを?」
「じゃなくて、村長を」
「ああ」
ソムナリアは作業を続けながら言った。
「信用するもしないも、見聞きした通りに判断するしかないよ」
ベルンハルトはソムナリアに向いて身を乗り出した。
「そうだけど、時間がかかるよ?ある程度目星をつけておいた方がいいと思う」
「それができればいいんだけど、本所は『分からない』しか言ってくれてないでしょ?」
「そうだけど……」
ベルンハルトはうめくような声で言いながら天井を見た。
「それに、いろいろ気味悪いのも分かるけど、村長の目は、嘘はついてないよ」
ソムナリアは作業を終えて両手をはたいた。
「さて、寝よう。明日から調査だよ?」
「何をどう調査するか決まってないけど」
「まずは寝ましょう」
ソムナリアは毛布をかぶった。ベルンハルトも、ゆっくり寝転がった。
* * *
--そうは言っても……寝られない……。
ソムナリアは、毛布の中で考えていた。
--村長はドラゴンが出るから予定地での建設に反対している。村長はドラゴンの谷に行きたがらない。ドラゴンの谷には何かはある。でも何だろう……?
「分からないな」
ソムナリアはつい口に出して言った。自分に驚いてベルンハルトの方を見る。よくは見えないが動いてはいない。
--目星はつけておくべきなんだよね、本当は。ベルンハルトの言う通り。でも、何も分からないから、先延ばしにしないといけない。
ソムナリアは寝返りを打って壁を見つめた。
--ドラゴンはいるの?いないの?それとも幻想?
「幻想!?」
独り言の範囲を超えるぐらいの声量でソムナリアが言った。上半身を起こしてベルンハルトの方を見る。起きてないように見える。
--幻想まで含めて考えないといけない……。
ソムナリアがため息をついた。
「継続調査になるかも……」
また声に出した。
「……ん……?」
ベルンハルトが低い力のない声で言った。
ソムナリアはベルンハルトに声をかけた。
「ごめん。独り言」
「ん……」
ソムナリアの一言に納得して、ベルンハルトは再び眠りについた。
「本当に大丈夫なんだろうか……?」
ソムナリアは上半身を横たえ、天井を見つめながら考えた。




