ドラゴンの谷を調査せよ
ドラゴンが出てくる話です。
ファンタジーらしくなってきましたが、そのまま行くのでしょうか。
よろしければお付き合いください。
「ドラゴンの出る谷があるそうなんだ」
ベルンハルトは真剣な表情で、うつろな眼のソムナリアを見つめながら言った。ソムナリアは椅子に座って壁に体を預けていた。
夕方の魔術教室では、夕日を浴びて、ソムナリアもベルンハルトも、机も椅子も床も壁も、みな茜色に見える。
生徒はみな帰った。教室の中にはソムナリアとベルンハルトしかいない。
「ドラゴンが出るんだよ?興味湧かない?」
ベルンハルトはソムナリアの返事を待った。
数十秒経った。
「ソムナリアさん、寝てない?」
「うん……寝てないよ……ムラエネは油で揚げるべきではない……」
「やっぱり寝てる……」
ベルンハルトが肩を落とした。
ベルンハルトが改めてソムナリアを見た。よく寝ている。しばらくソムナリアの寝顔を見てから首を小刻みに振った。
「おーい」
ベルンハルトがソムナリアの耳元に声をかける。ソムナリアは動かない。ベルンハルトは待つほかなかった。
ソムナリアが目を覚ますと、空の天頂付近は深い紺色になっていた。
「ベルンハルト……どうしたの?」
ソムナリアのゆっくりとした質問に、ベルンハルトは苦笑するほかなかった。
「じゃあ最初から説明するね」
ベルンハルトは淡々と説明を始めた。
「ここから南方のネバーベントに向かう途中に、マナバッグとかを保存する倉庫を設置しようとしているんだ」
「それで?」
「建設に反対されたんだ」
「暴発の危険があるもの。あんまり気分のいいものじゃないよね」
ソムナリアは壁を見つめながら言った。
「ただ、反対理由が『ドラゴンがいるから』なんだ」
「え……ドラゴン?」
ソムナリアの声に、ベルンハルトは静かにうなずいた。
「そうなんだよ。魔術顧問事務所の担当官が説明に行ったときに、村人全員が『ドラゴンがいるから止めた方がいい』と言い切ってたんだそうだよ」
「全員が?ドラゴンがいるって?しかも『止めろ』じゃなくて『止めた方がいい』って?」
「そう。危ないからやめておきなさいと説得するみたいな言い方だったって」
ベルンハルトが言うが、ソムナリアがすぐに口を挟んだ。
「でも『止めた方がいい』ぐらいだったら、倉庫を作っても大丈夫な気がするんだけど……」
「いや。担当官は恐怖に思ったそうだよ」
「恐怖に?」
「うん。柔らかい言い方だし、掴みかかってくることもなかったらしいよ。受け答えも普通。質問をしたら普通に答えてくれたって。でも必ず最後は『ドラゴンがいるから止めた方がいい』になるんだって」
「それは面倒そうね……」
「しかも全員が同じような反応になるから怖くなってきたって」
「怖くもなるよね……」
ソムナリアがぽつりと言った。そして続けて呟いた。
「でもなんでそんなことになるのかな……?」
ソムナリアは口を手で覆った。彼女が考えごとを始めた合図だ。それを見てベルンハルトは気づかれない程度に微笑んだ。
「優しい口調で言ってたのよね?」
「うん」
ソムナリアの質問にベルンハルトはうなずいた。
「でも絶対に倉庫は作らせないと」
「そう」
「優しい猛反発……」
ソムナリアが呟き始めた。
「親切心……よね……」
「落着き……」
「絶対に譲らない……」
さらにぶつぶつと言っているが、考えがまとまりそうな気配がないまま時間が過ぎて行った。
「なんだろう、分からない……」
最後に、ソムナリアが絞り出すように言った。そして口を覆っていた手を離して、軽く握った。
「これは行ってみるしかないかな……」
ソムナリアが言った。
「だよね?」
ベルンハルトが口元を少しだけほころばせながら言った。




