昼の首都
「ねえ、これ」
ソムナリアが店の前で立ち止まって、紙の束を指差した。
「羊皮紙がどうしたの?」
ベルンハルトが尋ねた。ソムナリアは首を横に降った。
「これはね、植物からできた紙だよ」
ソムナリアが店主に顔を向けた。
「これ、輸入品よね?」
静かに立っていた店主がうなずいて、口を開いた。
「ああ。珍しいだろ?」
「ええ」
ソムナリアは紙束をそっと撫でた。繊維のざらつきを感じる。
紙を軽く曲げた。羊皮紙と比べて弾力が弱い。
「なかなか面白い手触りですね」
ソムナリアは店主に向かって行った。
「そうだろ?」
店主が言った。
「強さは羊皮紙の方が上だけどね」
ソムナリアは横にいるベルンハルトに顔を向けた。
「でも紙は羊皮紙より少し安いの」
ベルンハルトは紙束を眺めていた。
「そうなんだ。少し安いだけ?あんまりすごいことでもないように思わないこともないよ?」
ソムナリアは口角を上げた。
「だって、輸出元の国ではもっと安いってことよ」
「あ、そうか。そうだね」
ベルンハルトが紙束を見つめたままうなずいた。
ソムナリアは紙束に目を向け直した。
「これ実際に使ってみたいのよね……」
ソムナリアが動かずに、しばらく経った。
「もうちょっと考えよう」
顔を上げた。いちど視線を紙束に落とした。そしてまた顔を上げた。
「うん。やっぱりもうちょっと考える」
ソムナリアは店からさがった。
「ごめん。後で来るかも知れない」
ベルンハルトも店から離れた。
「次はどこに行くの?」
ベルンハルトがソムナリアの背中に尋ねた。ソムナリアは立ち止まった。そして振り返った。
「おなかがすいてこない?」
ベルンハルトがうなずいた。
「うん。確かに。しかもうまそうな匂いがするからね」
「なんか食べよう」
そう言うと、ソムナリアは匂いのする方に進んだ。
* * *
市場の一角には、食事の屋台が並んでいた。
「何もかも首都らしいわよね」
左右を見ながらソムナリアはつぶやいた。
ミートパイを売っている店がある。その隣では、アップルパイが売られている。
揚げ油の匂いや、フルーツの甘い香りが漂ってくる。
パイはずいぶん前に焼かれたものではあるが、買い求める者は多く、客が屋台の近くで黙々と食べている。
屋台の近くに酒場があった。建物の中で料理を食べることができそうだが、どちらかというとビールの消費の方が多そうである。放歌も聞こえる。
「ああいうところはどう?」
ベルンハルトが尋ねるが、ソムナリアは首を横に振った。
「酔っ払いはいいけど、屋台がいいかな」
ソムナリアが呟いた。
「酔っ払いはいいの?」
ベルンハルトが聞く。
「うん。酔っ払いも乱闘も見慣れてる」
「そうだよね、なんてことないよね」
ベルンハルトがうなずいた。
「でも今日は屋台のものを食べたいの」
「分かった。屋台で何か買おう」
二人は再び屋台を見た。
魚を焼く屋台があった。薄い煙に独特の匂いが乗って来る。
「あれ、ミッキスだね?」
ソムナリアが焼かれた魚を見て言った。
「そうだね。さっきの魚屋で見たね」
「そうね……これは候補よね?」
ソムナリアは焼きミッキスを見つめながら言った。
「まだ決めないんだね?」
「もうちょっと回ってからにしたいな」
ソムナリアは振り返って他の屋台を見た。焼きミッキスの煙が漂ってきた。焼きミッキスをもう一度見た。しかしまた他の屋台に身体を向けた。




