首都の朝
ある都市の魔術教室で講師をしている女性魔術士ソムナリアは、ときどき「とりあえず呼ばれる魔術士」として外の仕事に同行することになる。
無事「三色の光の矢」を出せたソムナリア。次の日は首都ノルダンセルの店を回って一日を過ごす。
私が二人がデートみたいなことして欲しいと思って書きました。いつも以上に山が無いですがご容赦ください。
翌日、ソムナリアは魔術顧問事務所の宿舎で朝を迎えた。
ソムナリアはベッドの上で上半身を起こした。陽の光が差し込み、ソムナリアの髪を通り抜けた。外からは人馬の往来の音が聞こえた。
起き抜けの薄い表情のままベッドから出て、ブラシで髪を整え、編んだ。編み目は整っているが、細い毛が朝日に照らされていた。
ソムナリアはスモーキーブルーのキルトルを見た。そのつもりはないけど口角が少し上がる。キルトルを頭からかぶった。手を袖から出して、襟ぐりから頭を出した。
キルトルの上から銀のベルトを着けた。腰よりやや高い。
顔を下に向け、キルトルを見た。次に肩越しに背中をみた。そして、うなずいた。
「じゃあ行こう」
自分に呼びかけて、荷物をもって部屋を出た。
宿舎の玄関前にベルンハルトがいた。壁にもたれ掛かって、街路の人の流れを眺めていた。
ベルンハルトはドアの軋みが聞こえるたびにドアを見た。出てきた人を見て、また街路に目を向けた。
ソムナリアが出てきた。ベルンハルトは彼女を確認すると壁から離れた。
馬車が一台、二人の脇を通りすぎた。
「その服……」
ベルンハルトがソムナリアに向かって言った。
「ノルダンセルに来たんだもの」
ソムナリアが言う。
「そうだよね」
ベルンハルトが返した。
「行こう」
ソムナリアは街中に歩き出した。
「あ、うん」
ベルンハルトが少し遅れてついていく。
「夕方よね?」
「うん」
ベルンハルトがソムナリアの隣についた。
ノルダンセルの宿舎から市場までは近い。ソムナリアは少し早足になりながら市場に向かった。
市場の区画に差し掛かる前から人が多い。人の声や履物が地を擦る音が聞こえる。ややほこりっぽいが、鼻や喉を刺激するほどでもない。
ソムナリアは左右を見回した。屋台のような店が通りの奥まで雑然と並んでいる。
豆を入れた麻袋を積み上げている店があった。
その隣では、店主がしつらえた棚に野菜を並べている。
その向かいでは、敷物の上にカゴを重ね置かれていた。
呼び込む店主の怒鳴り声が聞こえてくる。
別の店では、食材を買いに来た者が店主にコインを支払っているのが見えた。
反対方向に目を遣ると、店主と価格交渉をしている客がいた。
「さすが首都ね」
歩きながらソムナリアが言う。
「そうだね」
ベルンハルトが答える。
「香辛料屋さんもいるね」
「そうだね」
ところどころに武装した者がいるのをソムナリアは見た。
「首都だけあって、警備が結構出るよね」
市場の周りに警備兵がいる。甲冑をつけて槍を持ち、動かず無表情に直立して、市場でのトラブルに目を光らせている。
「警備は大変なんだよね。僕たちもよく呼び出されるんだ」
ベルンハルトが言った。
「あんなかんじで無表情で動かずにいるの?」
ソムナリアが警備兵を見ながらベルンハルトに尋ねた。
「そう。その方が恐く見えるでしょう?」
「確かにそうね」
ソムナリアが立ち止まった。ベルンハルトも止まる。ソムナリアはベルンハルトの全身を見ながら言った。
「ベルンハルトも何も言わずに立ってたら、結構恐い人だものね」
「そんなに恐いかな?」
「しっかりしてるってことだよ」
ソムナリアは微笑みながら言った。
「そう見えるのはいいんだけど、実際はしっかりしてないんだ。しっかり監視してるわけじゃないんだよね。叫び声を聞いたら動くけどね。あと明らかに怪しい人を見たら警戒する」
「それだけできれば上出来だと思う」
ソムナリアが言った。ベルンハルトは口元を緩めた。
「ありがとう」
ソムナリアはベルンハルトの声を耳に入れつつ街路の先を見ていた。
「じゃあ次行こう?」
ベルンハルトが追いかけた。




