その後の魔術教室
ノアルコの魔術教室に着いたときには、夕暮れ間近であった。
ソムナリアが馬車から降りると、ベルンハルトが荷台の上から声をかけてきた。
「近いうちに行くからね」
ソムナリアは黙ってうなずいて、手を振った。
ソムナリアだけが馬車を見送った。馬車が角を曲がったら、すぐに魔術教室に入った。
* * *
二日後の夕方。魔術教室のドアの前ににベルンハルトが立っている。
コンコン。
ノックしても内側から応答がない。
ガチャ。
ベルンハルトはドアを開けて、ソムナリアが寝転がっている脇に立った。
「ソムナリア、報酬を持ってきたよ」
ソムナリアは眼を擦りながら、ゆっくりと起き上がった。
「あの呪術師のことは聞きたくない?」
ベルンハルトが尋ねると、ソムナリアは少しだけ笑みを見せた。
「無理に聞くほどでもないけど、言いたいんでしょ?」
「……うん」
「どうぞ」
ソムナリアは椅子に座った。ベルンハルトはソムナリアの前に立った。
「呪術師は無許可魔術指導予備は有罪だったよ」
「そうでしょうね」
「取調の最中は、ずっと『誰でも魔術はできる』とか言ってたらしいよ」
「それだとベルンハルトも魔術士になれたよね?」
「俺はもう魔術学校で諦めたからな……」
ベルンハルトは窓の外に視線を遣った。
「それであの呪術師って、魔術禁止処分になったんじゃない?」
ソムナリアが尋ねた。
「うん」
ベルンハルトがうなずいた。
「二の腕に刻印が施されるのよね」
「それをされると、どうなるの?」
「二度とマナが入手できないの。マナの譲渡の際は二の腕の確認が絶対なの」
「なるほどね……」
教室が静まり返った。少し経って、ベルンハルトが口を開いた。
「そういえば、呪術師の後ろには野良魔術士がいたそうだよ」
ソムナリアは全く表情を変えずに聞いている。
「そいつに魔術も呪術師も教えてもらってたってわけね。呪術師も捨てたんだろうね」
「そうなんだ。居場所を突き止めたときにはもう居なかったって」
「ふうん……」
ソムナリアは立ち上がった。
「まあどうせどこかで、魔術士になれそうにない人から授業料を巻き上げるんでしょうね」
「そうなんだろうね」
ベルンハルトは、そう言うと魔術教室を出た。
* * *
次の日の魔術教室。ソムナリアは試験資格課程の少女の練習を見ていた。
「右上段の構え、練習した?」
「はい!」
少女が大きな声で答える。
「じゃあ、ちょっとやってみて。肩幅に足を広げて直立」
「はい!」
「そこから右上段の構え、構えて」
少女はまっすぐな直立姿勢から、左足を引き、右手を肩の高さに差し出した。右の掌は肩の高さまで上げられた。
「静止。いち、に、さん……じゅう。うん、きれいだね。次はウェラ生成、やってみる?」
「はい!やります!」
そういうと少女はじっと右掌の箱を見つめた。
「ウェラ生成用意、さん、に、いち、生成」
少女が右掌の上にのせている箱から光が発せられた。
「うん、よく出てるね。いいよ。止め」
ソムナリアが言った。
「どうですか?」
「ずいぶんと良くなったね。一杯練習した?」
「はい!」
ソムナリアが口元を緩めた。
「基本が大事だからね」
少女に低い声でゆっくりと伝えた。
第二話はここまでです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次は単独エピソードのこぼれ話です。よろしければお付き合いください。




