速やかな捕縛
ベルンハルトがある部屋の前に立ち止まり、後続の者に目で合図を送った。
ソムナリアらはうなずいて、ドアを見つめた。
コンコンコン。
「ニコラさーん!ちょっといいですか?」
ベルンハルトが明朗な声で呼び掛けた。
中から歩く音がして、錠を外す音が聞こえ、きしむ音ともにドアがわずかに開いた。
ガン!
ベルンハルトがドアの隙間に足を入れた。
ガタガタ!
妖術師がドアを閉めようとするが、ベルンハルトの足が邪魔で閉められない。
バン!
ベルンハルトがドアを大きく開いた。
呪術師は後退りした。腰のマナバッグホルダーに手を掛けた。ソムナリアはそれを見てベルンハルトの前に出た。
呪術師はマナバッグを取り出し、それを指ですりつぶして、マナをソムナリアに向かって飛ばす。
ソムナリアは右手を前に差し出した。
ボワッ!
ソムナリアの指先から火が立ち、呪術師に向かって火が進んだ。
呪術師の動きが止まった。そして目の前の火が消えた後も動かなかった。
「一昨日見せてた『手品』よね?」
ソムナリアは半歩前に出た。
「それで驚くと思った?」
呪術師が一歩下がった。ソムナリアがゆっくりと呪術師の正面に詰め寄る。ベルンハルトがすぐ横についている。
「無理だよ」
ソムナリアが呪術師に言った。
呪術師は手を伸ばしてマナバッグを取ろうとした。
その瞬間--
ヒュン!
ソムナリアの手から火の玉が飛び出して、呪術師の左頬をかすめた。
バチッ!
火の玉は土壁に当たって消えた。
ソムナリアは、左足を引き、右手を前に差し出した態勢で呪術師を見ている。
「速い……」
呪術師がつぶやいた。
「次は鼻を焼くよ?」
ソムナリアが低い声で言った。
呪術師は、その場に座り込んだ。
ベルンハルトがすぐに呪術師を抑え込んだ。
ベルンハルトの後ろから事務員が呪術師を覗き込んだ。
「えー、自称呪術師、ニコラ。無許可魔術指導……指導予備?……指導予備容疑で、捕縛する」
事務員が途中つまりながら、ぼそぼそと宣言した。
「……それでも」
ベルンハルトに縄をかけられながら呪術師が言う。
「立つんだ」
ベルンハルトが呪術師を引っ張り上げた。呪術師は立ち上がらされた。
「それでも魔術士は万民に……」
呪術師がなおつぶやく。ベルンハルトが背中を押した。
「行くんだ」
呪術師は部屋から突き出され、宿屋の中庭に連れていかれた。
中庭にはヨーゼフたちが先に戻っていた。
馬車の荷台には、最初にベルンハルトが乗った。
次に、縄をかけられている呪術師が荷台の前に立たされた。ヨーゼフらが押し上げ、ベルンハルトが引っ張って荷台に乗せた。
その後、ヨーゼフ、兵士、ソムナリア、そして最後に事務員が荷台に乗った。
「いきますよ」
御者が声をかけると馬車が動き始めた。
少しだけ日が傾いた空の下、馬車はゆっくりと進んだ。
荷台では、誰も何も言わずに、目的地に到着するのを待った。




