酒場で聞いた話
ベルンハルトはまっすぐ酒場に向かった。ソムナリアも付いて歩いた。
酒場には、仕事着のままで来た者や、無頼漢など様々な種類の人が集まり、日が暮れる前にしては客が多い。
「……遅かったか」
ベルンハルトが肩をすくめて小さく笑った。
「別にいいんじゃない?」
ソムナリアは構わず中に入った。ベルンハルトが続く。
中に入ると、熱心に話を聞く者もいるが、多くはビールを飲んで顔を赤くしている。ときどき黙って席を立つ者が現れるが、空いた席には外から入った者が座っている。
「どこにいるんだ…?」
ベルンハルトは周りを見回した。特に大きい声の出元の方を中心に見ているが、聴衆に視線が阻まれてよく見えていない。
ソムナリアは、周囲の声に耳をそばだて、周囲の顔を見ていた。
「誰でもなれるんだってよ」
「才能は本当は要らないものらしいな」
口々に言っている。
奥の方から声が聞こえる。
「そこのご老人、こちらに来なさい」
ソムナリアは声のする方に向かおうとするが聴衆に阻まれている。
「ごめんなさい!」
ソムナリアが大きめの声を出して隙間に入り込んだ。
奥には老人が立って指を前に差し出している。その後ろに人の影が見える。人影が手で何かを放ったように見えた。瞬間おいて、指から炎がほとばしるように見えた。
老人は驚いている。周りからも感嘆の声が上がっている。ここまで見て、ソムナリアは後ろに戻った。
ソムナリアはベルンハルトの脇腹を肘でつついた。気づいて、ベルンハルトはソムナリアの方に顔を向ける。
ベルンハルトはうなずいた。
ソムナリアは聴衆から離れた場所の椅子に座った。この近くでも話し声が聞こえる。
「それでも時間とカネがかかるらしいな」
「じゃあ俺たちは無理だな」
ため息も聞こえる。
「魔術士に簡単になれるなら苦労しねえよな」
ソムナリアが「魔術士」と言った者に視線を向けたが、すぐに戻した。その言った者は酒場を出て行った。
「そもそも無許可で魔術を教えるんだったら、魔術規則違反とか言ったっけか、それはどうでもいいが、とにかくお仕置きを受けるらしいぞ」
ソムナリアが周囲に目を向けた。彼女の周囲には無表情で席を立つ者が多くいた。
奥の方ではまだ声がする。ベルンハルトとソムナリアが目を合わせた。そして二人ほぼ同時にうなずいた。
ベルンハルトが奥の方を指さした。ソムナリアは反対に店の外の方向に指をさした。ベルンハルトがうなずいて、二人は店を出た。
酒場を出た途端にベルンハルトが尋ねた。
「あの呪術師の印象を聞かせて」
ソムナリアはうなずいた。
「あそこまであからさまに野良魔術教室をしますって言うのは。かなり珍しいのよね」
ソムナリアの口元がわずかに上がっている。
「ある意味新鮮だったよ。あきれたけど」
「そうなんだ」
ベルンハルトが相づちを打った。
「それと、あいつ、実力はどう思う?」
ソムナリアは前を向いたまま口を開いた。
「あの人は、技術的には民間魔術士の資格は取れると思う。でもそれ以上じゃない。つまり魔術学校入学レベル」
「ずいぶんと辛辣だね」
ベルンハルトが言う。
「見たままを言っただけよ」
ソムナリアがベルンハルトに少し視線を向けて、また前を向いた。
「さっき老人が炎を出してたのは何だったの?」
ソムナリアは表情も顔の向きも変えない。
「後ろから呪術師がマナを漂わせて、自分でウェラを出しただけ。老人は何もしてない」
「なるほど……」
ここでベルンハルトは立ち止った。ソムナリアも立ち止る。
「捕縛はできる?」
ソムナリアは再び歩き出した。
「私は魔術では負けないよ。殴り合いだとベルンハルトが勝つでしょ?」
「うん」
「あとこの街の中でシンパシーを感じる人がいたらややこしくなるけど、いないからね。三人いたら十分じゃないかな」
二人は広場についた。ヨーゼフが待っていた。
「帰ろう。そして次のことを考えよう」
ソムナリアが振り返ってベルンハルトに言った。




