正午までの教室
ある都市の魔術教室で講師をしている女性魔術士ソムナリアは、ときどき「とりあえず呼ばれる魔術士」として外の仕事に同行することになる。
妖術師の捕縛の助力を依頼されたソムナリアは、「妖術師」という言葉に反応して、即答してしまった。
魔術教室でソムナリアは一人の少女に声をかけた。
「試験資格課程ね?」
「はい」
少女はうなずいた。ソムナリアは書面を眺める。
「まずは姿勢の確認ね」
書面を机に置いた。
「まずは、肩幅に足を広げて直立」
「はい」
ソムナリアは直立する少女を前から見て、後ろから見ている。
ときどき、肩をつかんで引いたり、背中を押したりする。
「じゃあ続いて……」
ソムナリアは少女から離れた。
「右上段の構え、構えて」
「はい!」
少女は左足を引き、右手を肩の高さに差し出した。右の掌には箱のようなものが乗っている。
「そのめま静止」
ソムナリアは腿をゆっくり叩いて拍子を取りながら「いち、に、さん……」と呟いた。
「……きゅう、じゅう。静止終了。楽にしていいよ」
ソムナリアがそう言った直後に外に目を遣ると見覚えのある男の姿が見えた。魔術教室を覗き込んでいた。ソムナリアが外に顔を向ける、その男は離れた。
「ベルンハルト……?」
ソムナリアが呟いた。
「ソムナリア先生?」
「あ、ごめんね」
ソムナリアは少女に向き直った。
「今度は右上段の構えだけをしてくれる?」
「はい」
少女は言われた通りの姿勢を取った。
「右腕が落ちてたよ。肩の高さまで上げて。脚はやや中腰」
ソムナリアは少女の右手を下から持ち上げたり、膝の裏を手で軽く押したりした。
「はい」
少女は指摘を受ける都度、返事をしていた。
「姿勢は基本だよ。基本に忠実にね」
「はい」
「じゃあ、この姿勢でじっとしてみて」
少女に指示をした後に、ソムナリアは壁を背に少女を見つめた。
目線の先には少女をとらえているが、時々外に目が行く。ずいぶん日が高くなっていて人の往来は多い。
少女は姿勢を維持し続けている。砂時計を見ると目標時間に達している。
「うん。姿勢を戻して……」
ソムナリアは、外を歩きながらこちらをチラチラ見るベルンハルトに視線が向いてしまった。
「どうしたんですか?」
少女も振り返る。すぐにソムナリアに向き直す。
「誰ですか?」
「知り合いだよ。……続けようか」
ソムナリアが少女に向いて言った。
「はい……」
「じゃあ次は左手の位置ね……」
しばらく姿勢の修正をしているうちに正午を迎えた。
ゴーン、ゴーン。
少女は姿勢を崩し、ソムナリアも身体を彼女から外した。
「今日はここまで」
「ありがとうございました」
少女は手早く帰り支度をして教室を出た。他の生徒も概ね出て行ったところで、ベルンハルトが魔術教室の入口に立った。
「入っていいかな?」
「……どうぞ」
ソムナリアは机を拭きながら答えた。




