二日後の敗北
二日前に、俺は誓った。
「もう二度と夜の家系には手を出さない」と。
朝、胃薬を飲みながら誓ったその決意は、正午にはもう曖昧になり、夕方には完全に消えていた。
人間とは、愚かで、そしてラーメンに弱い生き物だ。
夜九時。
駅を出ると、風が冷たい。
「今日は野菜スープで済ませよう」
そう思って歩いていたはずなのに、気づけばまたあの赤い看板の前に立っていた。
“○○家”の暖簾が、俺の意志をあざ笑うように揺れている。
ドアを開ける。
「おっ、兄ちゃん、また来たね!」
店主の声が炸裂した。
俺は気まずく笑いながら、口が勝手に動く。
「濃いめ、多め、固めで」
背後で誰かが「それ同じやつだ」と呟いた。
湯気がもうもうと立ちのぼる。
スープが注がれ、麺が沈む。
まるで、俺の理性がゆっくりと沈んでいくようだった。
一口。
――ああ、やっぱり、うまい。
罪悪感と幸福が同時に押し寄せてくる。
舌が覚えている。体が求めている。
後悔は未来の自分に押しつけて、今はただ味わう。
食べ終えた丼を見つめながら、俺は思う。
「結局、後悔ってやつも、うまいスープの一部なのかもしれない」
外に出ると、冷たい風が心地よかった。
次こそ控えよう――
そう呟きながら、ポケットの中でポイントカードをそっと撫でた。
あと一杯で、トッピング無料。




