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夜の家系ラーメン
夜十時。
駅前のネオンがぼんやりと滲む。仕事帰りの俺は、まっすぐ帰ればいいのに、気づけばあの店の前に立っていた。
「家系ラーメン ○○家」。
背脂の香りが鼻をくすぐる。
胃が悲鳴をあげるのを無視して、ドアを開けた。
カウンターの奥から、湯気の中に店主の声が響く。
「いつものでいい?」
俺は少し間を置いてから、うなずいた。
「濃いめ、多め、固めで」
湯がく音。チャーシューを炙る香り。
丼が目の前に置かれた瞬間、理性は敗北する。
麺をすする。脂が舌の上で暴れる。スープが喉を焼く。
あぁ、これだ。
これが一日の終わりを告げる幸福の味。
けれど、幸福は長くは続かない。
食べ終わる頃には、胸の奥に重たい影が沈みはじめていた。
「やってしまったな……」
明日の朝、顔がむくむ。胃がもたれる。それでも、また来るのだろう。
帰り道、冷たい風が頬を撫でる。
口の中には、まだ塩の余韻が残っている。
後悔という名のスープを、俺は静かにすすった。




