幕間 その頃の三人
「ちょっと、勇者様……あの子本当に竜ですか?」
クリスと赤竜が二人で遊ぶ中、マチルダはヘンリクにそう訊ねていた。
「いや、俺もわからないんだが」
まるでお手上げと言わんばかりに、肩をすくめてヘンリクは告げる。マチルダは遊んでいるクリスと一匹を見ながら、首を傾げていた。
「あの石ってピーコちゃんの石でしたよね? 本当に竜ですか?」
「あれは、竜よ」
マチルダの疑問を遮って声を掛けたのは、シェラだった。彼は右手で頭を掻き、左手は力が入らないのかダラリと垂れ下がっている。二人は最初彼に警戒するが……シェラが両手を上げると、すぐに武器を下ろした。
「アタシ、魔物系の魔力は把握しているのだけど、あれは炎竜の魔力よ。正真正銘、竜と言って間違いないわ」
「石から竜ってできるものなのですか?」
マチルダは言い切るシェラに疑問をぶつける。首を傾げる彼に、ヘンリクが軽く説明した。
「あれは元々、クリスが鳥に変身させた石だ。それをクリスが大切に持っていたんだが……」
「石を肌身離さず持っているなんて、変わり者ねぇ」
「それは同意する。で、そのあと炎竜と思われるアンデットドラゴンと戦ったんだ」
そう告げると、シェラは考え始めた。
「なるほどねぇ……多分クリスの魔力と、そのアンデットドラゴンの魂、そしてキメラの魔力が吸収されたことで、顕現したのかもしれないわねぇ。竜は魂と多量の魔力があれば、生き返るって仮説を立てているから」
「シェラ様は本当に研究者をされているのですね……!」
驚きながらそう話すマチルダを見たシェラは、眉間に皺を寄せた。
「ねぇ、ヘンリク。こいつ殴っていいかしら?」
「……面倒だからやめておいた方がいい。何十倍になって返ってくるぞ」
「そうねぇ……やめておくわ」
ヘンリクはふう、と息を吐いたあと、無意識に口を開いていた。
「なんか、どこかで似たような場面があったなと思ったが……アークヘイン教団のオルドというやつと戦った時か……」
「あら、オルドと会ったのね?」
「そうだ、辺境伯領のスタンピートはそいつの仕業だった……」
そう話してから、ヘンリクはシェラに勢いよく顔を向けた。
「知ってるのか?!」
「知ってるも何も、アタシだってアークヘイン教団の研究者の一人よぉ?」
「勇者様、考えれば分かることではありませんか」
「うぐ……」
二人に指摘されて、ヘンリクは声を詰まらせる。
そんなヘンリクを放置するように、二人は続きを話し始めた。
「じゃあ、研究者様であるシェラ様の見立てでは、あれは竜ということで良いのですね? ついでにアークヘイン教団? がどんな教団かも教えていただけませんか?」
「ええ。竜ね。教団についても良いわよ、ちょっと長くなるけど良いかしら?」
「良いのかよ」
あっさりと答えるシェラに、ヘンリクは思わず突っ込む。シェラは当たり前だ、というような表情でヘンリクを見ていた。
「正直言うと、私は研究ができれば良いのよ。良い寄生先だったから、言うことを聞いていたけれど……勇者パーティに負けたんだから仕方ないわ」
「寄生先言うな」
「素晴らしいほど清々しい、開き直りですね」
ヘンリクとマチルダの言葉に、鼻で笑うシェラ。
「と言っても、そんな詳しくは知らないけどねぇ。私の研究は、魔道具とパンドゥーラーについてだったし」
「パンドゥーラーについて研究していたのか?!」
ヘンリクが声を上げる。マチルダもシェラの言葉に興味津々なのか、目を輝かせていた。二人の圧に少しタジタジになるシェラ。
「研究といっても、過去の文献を漁るだけだけれど……元々パンドゥーラー自体が、消滅したある王国の負の遺産だったことが判明したくらいね」
「過去の遺産……あれは人が作ったものだったのか?」
シェラはヘンリクの言葉に頷く。
「ええ。文献によると……滅亡した文明の研究者が、ある時神の石と呼ばれる大量の魔力を内包していた石を見つけたらしいの。それを使用して、パンドゥーラーは作られた、と書かれていたわ。人間の負の感情をパンドゥーラーで吸収し、皆が幸せに暮らせる国家を目指したのよ」
「夢物語ですねぇ」
マチルダは鼻で笑う。それを見て、シェラも同意した。
「本当にアンタの言う通りよ。最初は問題なく負の感情を吸っていたけれど……負の感情を吸いすぎたパンドゥーラーは、それを厄災に変えてしまった。そしてパンドゥーラーを作り出した王国は、厄災によって消滅。このことに責任を感じた生き残りが、命をかけて封印した……という形かしらね」
「封印の仕方は、知っているか?」
「いえ、それは書かれていなかったわ」
シェラの言葉にヘンリクが考え込む。
「パンドゥーラーの詳細に関しては、多分王家しか伝わっていないわ。行くなら、王城を目指しなさい。私が守護魔法を解除してあげるわね。私の魔法を抜ければ、目の前に王城が現れるはずだから王城まで迷うことはないと思うの」
「恩にきます」
シェラの言葉にマチルダは頭を下げる。
「良いのよ。私も色々と勉強になったわ」
そう言ってシェラはにっこりと笑うと、釣られたように微笑んだマチルダが告げた。
「もう賢者を名乗ることは止めてくださいね?」
「……アンタ、私が良い風にまとめているのだから……黒歴史を掘り返すのはよしなさい?」




