79、むーり無理。アタシには無理よ
——ズドォォォォォォォン!!
辺り一帯に爆音が響き渡る。投げられたカメラは目を回しているのか、そのまま動かない。そしてその下敷きになったと思われたシェラさんは、もちろん無事だ。
「た、助かった……?」
目を丸くして不思議そうに自分の両手を見ている。そして周囲に張られている防御魔法に気づいたらしく、それを静かに観察した。
「これは……」
シェラさんは穴が開きそうなほど、こちらを見てくる。私は目を瞬かせたあと、首を左に傾げると……シェラさんは、大きなため息をついたあと、地面に寝っ転がった。
ユウくんや私がギョッとしていると、彼は大声で喚き始めたのだ。
「あーあ、やってらんない! 敵に助けられて、私の面目丸潰れじゃなーい」
そう言うと、シェラさんは上半身を起こしてから、私を細目で見た。
「あの防御魔法、クリスでしょう? ……助かったわ。ありがとう」
「……バレちゃいました?」
そう舌を出して言うと、シェラさんは呆れたような表情を浮かべている。
「あんな強固な防御魔法、魔力量が減った私にはむーり無理。あー、ここまで格の違いを見せつけられたら、完敗よ、完敗」
そう告げてから、再度地面に仰向けになるシェラさん。彼は空に向けて、続きを叫ぶ。
「そもそもあんだけ魔力を使ってるのに、どんだけ魔力があるのよ! これじゃあ賢者の称号を巡って戦いを挑んだ私が、阿呆じゃない!」
「……クリスだもんな……」
ユウくんはこちらを複雑な顔で見てくる。ちょっと待って、ユウくん。何、その表情……? マチルダちゃんも、ユウくんのため息混じりの言葉に、力強く頷いている。
「仕方ありません、お嬢様ですから」
「それで納得するアンタたちもアンタたちねぇ……まあ、わかる気がするわ」
何か通じ合っている三人。なんで私一人だけが、わかってないのー?! みんなずるくなーい?
……なんて思いながら、少し不貞腐れていた私。
すると、目の端でカメラがのそのそと動き出した。私は詠唱を唱えようとしたけれど、よく見るとどうやら様子がおかしい。うん、まるで先ほどのシェラさんみたい。
カメラは赤竜ちゃんの前にゆっくり歩いていくと、地面に寝そべった。まるでもう戦う意志はないと言っているようだ。
赤竜ちゃんはカメラの頭を尻尾で撫でる。
「あー、あれは降伏のポーズね」
シェラさんが教えてくれる。どうやらカメラも落ち着いたらしい。
「カイメラも強かったですが、赤竜は更に強かったですねぇ」
「属性は火か……やっぱり辺境伯のアンデットドラゴンの影響か?」
ユウくんたちが色々と話し合っているが、二人の会話は私の右耳から左耳に抜けていく。何故なら、赤竜ちゃんがこちらへ歩いてきたからだ。赤竜ちゃんは私の目の前に来ると、地面に寝そべった。
私たちが口をあんぐりと開けていると、赤竜ちゃんはチラチラとこちらを見てくる。
「もしかしてまた撫でてほしいの?」
そう訊ねると、赤竜ちゃんは嬉しそうに「グルゥ」と喉を鳴らしてから、目を閉じる。
「あらあら、甘えん坊さんね?」
「……甘えん坊?」
誰かの声が聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。私は赤竜ちゃんの前に立ち、何度も頭を撫でた。とっても頑張ってくれたものね。たくさん撫でていると、赤竜ちゃんの身体は少し冷たいことに気づいた。ひんやりして気持ちいい。
私は赤竜ちゃんに触れながら、ボソッと呟いた。
「大きいままの赤竜ちゃんも可愛いけど、小さい方が抱っこできそうねぇ……」
その言葉を聞いた赤竜ちゃんは、私の方へと顔を向ける。そして何かを考え込んだと思いきや、大きな雄叫びを上げた。すると……赤竜ちゃんの周りに煙が現れる。煙は赤竜ちゃんを隠すのと同時に音を立てた。
——ポンッ!!
私たちは音に驚きながらも、静かに煙が消えていくのを眺める。シェラさんも上半身を起こして、こちらを見ていたくらい。しばらくして煙が消えていくと、あれだけ大きかった赤竜ちゃんがいない。
「赤竜ちゃん?!」
私がそう声を上げた瞬間……目の前には可愛らしい……ラーネの胴体くらいの大きさの、デフォルメされた赤竜ちゃんが、嬉しそうに両手をバンザイしている。
「あら、可愛いわねぇ! 変身できるのね!」
「ガウッ♪」
楽しそうに鳴き声を上げる赤竜ちゃん。私はニコニコと赤竜ちゃんを見ていたけれど……そういえば赤竜ちゃんは石から生まれたのよね? どうやってあんなに大きな身体になったのかしら? 不思議ねぇ。
「まあ、いっか!」
私は、赤竜ちゃんを高い高いして遊んでいた。




