77、ええええ?!
振り返ると、そこにいたのはワトくんだった。ワトくんは無言で私をじっと見つめてくる。私は二人の様子を横目で確認しながら、ワトくんへと声を掛けた。
「どうしたの? ワトくん」
すると、彼は私の腰を指差す。そこにあったのは、石だ。ピーコ一世に変えて、肌身離さず持っていた……石。ワトくんは何故かその石を指して、首を縦に振っている。
なんとなく彼の言いたいことがわかってきた。
「これ、貸して欲しいの? どうぞ」
そう言って袋ごと渡すと、ワトくんは目を輝かせながら石を取り出した。落ちそうになった袋はラーネが糸で持っていてくれる。ふと後ろでマチルダちゃんが飛ばされてきたので、私は防御魔法をかけようとそちらへ意識を向けた。
そして再度ワトくんへと視線を送ると……石がひとりでに震え出しているではないか。
「え、どういうこと……?」
ただの石が勝手に動いている。その事実に私はポカンとした。ワトくんの魔力が動いた形跡もない。それにもかかわらず、何が起きているのだろうか……。私はポカンと口を開けていると、ワトくんはラーネに何かを指示している。
ラーネはワトくんの考えを理解しているのか、糸で何かを作り始めた。どうやら網のようなものだ。
ラーネはそれを作り終えたあと、自分が網に乗って飛んでいる。そして石と自分を交互に指していた。
「もしかして、石をカメラに飛ばして欲しいの?」
そう訊ねると、ラーネはそうだ、というように元気に飛び跳ねている。その考えを受け取った私は、地面で受け身を取っているマチルダちゃんとユウくんに向けて叫んだ。
「お願い! これをカメラに飛ばして!」
「カメラ……カメイラのことか?!」
「そう! 理由はわからないけど、ワトくんとラーネがそうしろって」
私が告げると二人は眉間に皺を寄せたが、息をついた。
「藁にもすがってみるか」
「そうですわね」
ユウくんはラーネから渡された石を持って、飛び上がった。そしてカメラの前に立つと思い切り投げたのだ。
「正が出るか、邪が出るか……」
ユウくんの呟きは、空に消えていく。石を投げたユウくんに反応したのはシェラさんだった。
「あら、カイメラは物理にも強いのよ? 単なる石が勝てるわけないじゃない」
「まあ、その通りなんだけどさ」
お腹を抱えて笑うシェラさんに、頭を掻いているユウくん。カメラ自身も、痛くも痒くもないからだろうか……口角を上げている。その時、カメラの前足に石が当たった。
当たったことで勢いを無くしてそのまま落ちていく石。その行方を見守る私たち。
「やっぱりそうなりますよね……」
マチルダちゃんの言葉にシェラさんは、勝利を確信したようだった。
「石如きが勝てるわけないじゃない! 私の最高傑作に!」
お通屋のような空気が、私たちに漂う。負けを認めるか、そう考え始めたその時——
「ラーネ?」
私の肩を叩き続けるラーネ。彼女が示す足の先を見ると、先ほど投げた石が地面に転がっている。その石は割れることなく、そこにある。
「あれ、カメラに当たってたよね?」
「……当たっていましたね」
「当たってたぞ」
私たちはじっと石を見ている。それを不可解な表情で見つめるシェラさん。そしてカメラは私たちが向かってくる気配がないと察知したのか、取るに足らない者たちだと認識したのか、空を悠々自適に動いている。
ふと気づいた。石が振動していることに。
石が自然と持ち上がったと思えば、どんどんどんどん膨らんでいく。まるで大量の水を吸収して膨らむビーズのように。
石はいつの間にか、私の掛けた防御魔法と同じくらいの大きさになった。シェラさんもその異様な光景に、口を開けっぱなしだ。そして大量の魔力の流入が始まったと思ったら……石が光り出したのだ。
「カメイラ!」
シェラさんの声に反応したのか、大量の魔力に反応したのかはわからない。けれど、カメラも石に向けて火を放つ。けれども、その攻撃でさえも吸収し……それは周囲を光で覆っていく。
全員が眩しさを感じて目を瞑った。そして目を開けた次の瞬間、目の前に現れたのはカメラと同じくらいの大きさの魔物だった。




