76、決着がつい……言わせないよ?
『消火布』は便利よね。私も以前娘に教えてもらって、常備していたのよ。これなら爆発もしなさそうだし、何回も使えていいわよね!
まだまだ魔力は大量にある。ここまでの魔法対戦はスタンピート以来。意外と楽しいのよね、魔法を操るのが。
延々と続くように感じた時間。けれども残念ながら終わりが来てしまった。
「……くっ、魔法ではやはり敵わないのね」
シェラさんがいきなり地面に膝と手を付く。彼の額からは汗がいくつも垂れている。そんな様子を見て、マチルダちゃんは静かに告げた。
「あなた様も充分に健闘されたと思いますが」
「マチルダ、やめろ。傷を抉るな」
「アンタも抉ってるわよ!」
ユウくんがシェラさんの叱責で、やっちまった! って表情を浮かべている。
「シェラさん、またやりましょう?」
「おい、アイツ楽しんでるぞ?」
「お嬢様が一番辛辣ですねぇ」
「僕もあれくらい……!」
あれ、私の言葉、まずかったかしら……? そう思った矢先、シェラさんは身体を震わせながら笑い始めた。その声の不気味さと言ったら。まるで悪代官のような笑い方。
ユウくんやマチルダちゃん、コニーくんまで雰囲気の変わったシェラさんに、警戒している。
シェラさんは立ち上がり、空に向かって高笑いする。そしてこちらを見ると、ニヤリとした。
「もし次の勝負に勝ったら、また一緒に魔法勝負しようじゃない?」
彼は右手を高く挙げる。そして指を鳴らした。
巨大な地響きが辺りを包み込む。
まるで地震のように地面が揺れ、私は立っていられず倒れ込む。ユウくんが私を気遣い、マチルダちゃんとラーネはワトくんとコニーくんを守っていた。
揺れが収まると、不意に私たちの頭上が暗くなる。無意識に顔を上げると、そこにいたのは……。
「なに、あれ……?」
ライオンのような身体に羽が生えている。けれども顔は竜のよう。見たこともない魔物だ。
「あれは……キメラか?」
「キメラ?」
そう訊ねると、ユウくんが教えてくれた。キメラはいくつもの種類の動物を、融合して作られた魔物なのだとか。
「この子は私の最高傑作! カイメラ、いきなさい!」
「GAAAA!!」
「まずは一撃をお見舞いしなさい!」
カ(イ)メラと呼ばれる魔物は、シェラさんの声に反応すると高く飛び上がった。そして閉じていた口を大きく開ける。開いた口の中に現れたのは……火。どうやら火を吐こうとしているらしいことに気づく。
私とユウくんは、マチルダちゃんたちの元へ急ぎ、防御結界を張る。私がそれを展開したのと同時に、カメラは火を放った。
「……思った以上に威力が強いわ!」
この攻撃であれば、数回……下手すれば、二回当たるだけで防御魔法は消えてしまう可能性がある。そう思った私は、先ほど見たシェラさんの氷の矢をいくつも繰り出した。
翼が厄介なのだ。まずは翼をどうにかしなければ……そう思った私だったが、私の魔法はカメラが翼を動かすだけで、風に煽られ地面に落ちてしまう。どうやらその風も魔力のようだ。
「クリス、胴体を狙ってみてくれ!」
「わかった!」
再度氷の矢を放ち、カメラの胴体に向けて放出する。その魔法がカメラの身体に当たったと思いきや、その瞬間光となって消えていく。他の魔法で試そうと、今まで放ってきた魔法を打つが……同じように光となってしまう。
「え?! なんで?!」
そう叫ぶと、シェラさんは私が苦戦しているのがわかったからか、後ろで胸を張っている。私が何度も攻撃していると、後ろから声が聞こえた。
「お嬢様! あの魔物は魔法無効の特性を持っているかもしれません!」
「魔法無効?!」
「魔法が効かないってことだ!」
「ユウくん?!」
私の隣からユウくんが飛び出していく。
「クリス、俺を飛ばしてくれ!」
「わかった!」
「僕は補助魔法を……!」
コニーくんがユウくんとマチルダちゃんに声をかけ、詠唱を始める。
その間に本が現れ、パラパラと捲られていく。そしていつものように一箇所で止まる。そこにあったのは、背中に羽が生えている人の姿だった。その下に書かれていた詠唱を口に出す。
「飛翔」
するとユウくんの背に、天使のような白く美しい羽が現れる。すぐに慣れたのか、羽を使いこなしているユウくんは、空中でカメラと衝突している。しかしなかなか丈夫なのか、カメラに傷がつかないようだ。
「悔しいですけれど、勇者様は羽が似合いますわね」
そう告げたマチルダちゃんも参戦し、地上からクナイを投擲する。しかし、厚い身体に阻まれ傷ひとつつかないようだ。こちらを向いたマチルダちゃんにユウくんと同じ飛翔の魔法を掛けたけれど、二人がかりでも苦戦していた。
魔法が完全に使えない……攻撃魔法も、拘束魔法も使えない。私に今できるのはラーネとワトくん、二人を防御魔法で守ることだった。何かできないか、と唇を噛んでいると、カメラの咆哮が聞こえる。
そちらを見ると、丁度ユウくんたちが地面へと振り落とされていた。私は二人に防御魔法を纏わせ、地面の衝撃を和らげる。
「大丈夫?!」
そう訊ねると、二人は私の方を向いて問題ないと頷いた。けれども、渋い表情を浮かべている。
「あれは厳しいな。硬すぎて傷ひとつつかない」
「正確にいえば、勇者様の剣筋で傷は付いていますが……」
「あんな細かい傷、つけてないと一緒だろ?」
「いえ、私は傷一つつきませんから。さすがですわ」
素直に褒めているマチルダちゃんを、何か不思議なものを見るような目を向けているユウくん。私は目端に捉えていたカメラの動きを見て、二人に防御魔法を掛けた。
ユウくんが舌打ちする。
「無駄口を叩いている暇はないな」
ユウくんの言葉に、マチルダちゃんも同意する。そして二人はまた飛んでいき、カメラに相対した。
「どうしたらいいのかしら……」
私はひとりごちる。
本も反応しない。こういう時に限って……きっと私が解決策を見つけなければ、この本は動かないのだろう。
ユウくんとマチルダちゃんが再度カメラと戦うも、二人は何度も地面に叩きつけられそうになる。手詰まりだ……。
奥でシェラさんは苦戦している私たちの様子を見て笑っている。どうしようもない空気が漂い始めた頃、私は誰かに肩を叩かれた。




