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魔法少女おばあちゃん 〜78歳のおばあちゃん、16歳の侯爵令嬢に転生?!〜  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@書籍発売中
第五章 魔境の森

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75、賢者の称号をかけて! いや、どんなノリ?

「まあいいわ。クリス、アタシと勝負よ! 賢者の称号をかけて!」

 

 私は目を輝かせる。だって、すっごいかっこいいじゃない?! 賢者の称号をかけて、なんて!


 一瞬そう考えたけれど、私は思い直した。私はハルちゃんに『賢者として』世界を救ってくれって頼まれている。そうおめおめと……簡単に称号を渡すわけには、いかないのだ。

 私だって、意地がある。それにクリスちゃんの身体を借り受けているのだから、無様な負け方はできないわ。

 

 左側に先代賢者の本が現れる。まるで私の想いに呼応しているかのよう。私の姿を見たシェラさんは、息を呑んだようだったけれど……ニヤリ、と口角を上げた。


「ふふ、いいじゃない。私はどんな手を使ってでも、賢者の称号を手に入れるわ!」

「賢者の称号は渡さない!」


 私たちの間に火花が散っていく。それを遠くから見ていたコニーくんは、ユウくんに訊ねていた。

 

「……賢者の称号って、そんな簡単に受け渡しできるものですか?」

「……」 



 勝負が始まった。

 

「小手調べね。氷の矢(アイス・アロー)」

「ハンディクラフト・スクリュー!」


 シェラさんの攻撃を、私は白の毛糸玉で防ぎながら黒いかぎ針で攻撃する。白の毛糸玉といくつかの黒いかぎ針は氷の矢と相殺され、残ったかぎ針がシェラさんへと向かう。

 もちろん、シェラさんからすれば予想内の魔法だったらしく、彼女の周囲にある防御魔法に阻まれた。


「防御と攻撃を同時に行うなんて……最初から見せつけてくれるじゃない」

「いや、クリスの覚えている魔法がそれだっただけじゃないか……?」


 後ろから聞こえる声に反論したい! さすがにそれ以外の魔法だって覚えてるよ?!

 当たり前だけれどシェラさんは待ってくれない。私の魔法の力を調べようとしているのか、氷の矢の数がどんどん増えていく。それに合わせて私も魔法を増やしていき、シェラさんのように防御魔法を張り巡らせておく。

 ついでにユウくんたちの周りにも、防御魔法を作っておく。万が一、魔法の軌道がそれた可能性も考えてね。


 先ほども魔力は使ったが、まだまだ問題なく魔法は使えそうだ。そう思っていた私の目に入ってきたのは、こちらを睨みつけながら魔法を展開するシェラさんだった。


「クリス! アンタどんだけ魔力あるのよ! さっきも私の魔道具に魔力を入れていたじゃない!」

「え……? まだまだ問題ないわねぇ」


 思わずそう答えると、シェラさんは驚愕の表情を浮かべてから、地面を何度か踏み締めた。


「マジかよ?! あんだけ入れたのに、まだまだ問題ない?!」

「だから言ったじゃありませんか……お嬢様ですから」

 

 マチルダちゃんが憐れみの目でシェラさんを見つめている。彼は私をキッと睨みつけた……ん、私、何もしてないと思うんだけど? 時々そんな会話を挟みながらも、攻撃は激しくなっていく。

 

 氷の矢が三桁に届き始めた頃。

 終わりそうもない魔法合戦に、終止符を打ちたいと思った私は、シェラさんに声をかけた。


「これを何度も繰り返すのは、野暮じゃない? お互い全力を出してみましょうよ」

「……それもそうね。じゃあいくわよ?」


 シェラさんは氷の矢以外にも、土の塊や火など多くの魔法を繰り出している。鼻高々に魔法の数を増やしていくシェラさん。一方で私は考え込んでいた。


 ——火が草に当たってしまったら、大火事になるわよね。どうにかして鎮火させる方法はないかしら?


 毛糸玉をぶつけたところで、火で燃えてしまう可能性が高いと判断した。もしかしたら毛糸玉と相殺することができないかもしれない。そのために、私も毛糸とかぎ針以外増やした方がいい。

 何がいいだろうか、と悩んでいると、ひとつ思い浮かんだことがあった。すると目の前にある本が自然にパラパラと捲られていく。

 本があるところで止まると、そこに私の思い描いていたものが書かれていた。


 

**


 シェラとクリスが魔法勝負をしている頃。勇者一行は飛び交う魔法を呆れながら見ていた。


「クリスは元々すごいが……シェラもすごくないか?」

「あのお嬢様に付いていけるとは……驚きですね。魔族は比較的魔力が多いと聞きますが、シェラという男は魔族の中でも別格でしょう」


 珍しくマチルダもヘンリクの言葉に同意している。コニーも二人に注目している中、不意にワトがクリスを指差した。


「ワト、お嬢様がどうしました?」


 彼は何かを伝えようとしているようだ。ヘンリクとマチルダはワトの様子を静かに見守る。そして……。


「うーん、わからん……」

「完璧侍女の私も、わかりませんわ……ごめんなさい」


 マチルダがは困惑してコニーを見る。けれど、彼も頭を左右に振っていた。そんな中、ヘンリクが彼女の言葉に突っ込んでくる。

 

「料理以外は、の間違いじゃね?」

「おほほほほ」


 マチルダの目が座りだし……どうやら墓穴を掘ったらしい、と判断したヘンリク。その後は何も言うことなく、クリスたちへと視線を送ると、シェラが大量の魔法を浮かべていた。

 そして対抗しているクリスは——

 

「……なんだあれ?」


 以前使った毛糸とかぎ針。それはわかるのだが、何故かそこにはもうひとつ……四角くひらひらしたものが何十個も浮かんでいた。

 コニーと、落ち着いたマチルダも首を横に傾げている。


「しかしあれだけ大量に出すとなると、そろそろ決着がつくのか……あっ?!」


 クリスとシェラが手を前に出す。すると、浮かんでいた魔法たちが相手に向けて飛んでいく。三人と一匹は息を呑んだ。

 そして魔法同士が衝突し始め、新しく現れたひらひらしたものも動き出す。


 ひらひらしたものはシェラの火魔法に向かっていく。そして火魔法とぶつかると、それは大きくなり……火を包み込んでしまう。

 再度開いた時には、火が消えていた。


「はぁ?!」


 シェラの驚いた叫びが、ヘンリクたちのところまで聞こえる。ヘンリクもマチルダもコニーも、瞬きすることなく……穴が空きそうなほど、その様子を一心に見つめた。

 そして何度かそれを見ていたヘンリクが、「あ」と声を上げる。


「勇者様。そんな間抜けな声を出されてどうしたのですか?」

「間抜けとは失礼な。アレの正体が分かっただけだ。あれは『消火布《ファイヤーブランケット》』というやつだ」


 マチルダはヘンリクの言葉に目を瞬かせる。話が聞こえていたのか、ワトとラーネも彼に顔を向けていた。


「火は、大気中にある酸素というものと結びつくことで燃え続けるんだ。あの消火布は火を包むことで酸素を遮断し、火を消している」

「……なるほど。なんとなく理解しました」


 コニーの言葉に、ヘンリクは静かに頷いた。

 

「しかもアレの恐ろしいところは、一個消火してもまた使えるところだ……」


 ヘンリクの視線の先には、丸い形の消火布が。それは消火を終えたのか、またひらひらと次の火の元へと向かっていく。

 その消火布を見ていたマチルダは、ポツリと呟いた。

 

「水の魔法を当てたらダメなのでしょうか……?」

「まあ、この世界はわからないが、同程度の魔法だと爆発する可能性もあるからじゃないか……?」

 

 そうクリスをフォローするようにヘンリクも答えていたが、彼は思っていた。


 ——多分考えすぎて、水魔法で相殺すればいいことを忘れているだけだろうな。

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