74、まさかの敵?! お約束!
「シェラさん……?」
雰囲気が変わったことで、ユウくんも臨戦体勢をとって警戒し始めた。シェラさんは大きくため息をついてから、ぶつぶつと呟き続ける。
「これでも教団の幹部だからな」
「まさか! オルドという幹部のいる……アークペイン教団……」
そういえばユウくんとマチルダちゃんが言っていたっけ。辺境領での魔物襲撃事件は、そのアーク……なんちゃら教団の人が起こしたと。
まさか私たちは敵の懐に入っていた上に、物を壊したからと魔力も提供していたなんて……!
そう考えた私の頭に、ふと疑問符が浮かび上がった。
「そもそもそのアークペリー教団? ってなあに?」
「……お前ら、敵の教団の名前くらい覚えろよ。アークへインだ」
シェラさんが呆れたように頭を抱える。
私はユウくんが間違っているなんて珍しい、と驚いていると、ユウくんはバツが悪そうな表情を浮かべていた。小声で「マチルダのせいだ……」と呪詛を吐いている。
私はシェラさんに顔を向けると、頭を下げた。
「ご丁寧にどうもありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ……ってちがーう!」
シェラさんは額に手を向いて俯きながら話す。
「お前ら、勇者と賢者だろう……? 勇者であるヘンリクはともかく……賢者のクリス! お前はなんで賢者なんだ?!」
「へぇ?!」
私を名指しするシェラさん。一方でそれを聞いていたユウくんも、なぜかシェラさんに同意している。あれれ? おかしいなぁ……なんでユウくんは敵であるシェラさんと同意見なのかなぁ?
「賢者ってもっと頭が良さそうなイメージなんだが?! 私の夢を壊さないでくれるか?! むしろ私に賢者の称号をくれよ!」
「えー、い、や、だ!」
まるで蒸気機関車のように、顔から煙が出そうになる。えー、だって私、ハルちゃんから頼まれただけよ? ハルちゃんが困ってたから、「手伝うね!」の結果がこれなんだって!
……なんてシェラさんには言えない。
眉間に皺を寄せて黙っていると、シェラさんは何を思ったのか、肩を落とした。
「まあ……分かってはいるんだよ。クリスに魔力で敵わないのは」
あれ……、シェラさんしんみりし始めちゃったよ? どうしたんだろう。そう思っていたら、シェラさんはキッと私を睨みつけた。
「けどさぁ、どう見ても私の方が魔力を使いこなせそうじゃない? ねぇ、ヘンリク、そう思わない?」
いつの間にか元の口調に戻っているシェラさん。ユウくんは彼に同意を求められて、静かに視線を外す。まあ……答えられないわよね。なら私が言えばいいじゃない!
「それはその通りだと思うわ!」
自信満々に告げる私に、シェラさんは呆気に取られている。彼は頭を抱えてから、目を吊り上げた。
「なら……賢者。お前が私に負けたらその称号は私のものだ!」
「望むところよ!」
私とシェラさんの間に火花が散る。口を閉じて見守っていたユウくんは、ボソッと呟いた。
「……それをどうやって周知させるんだ……いや、そういう問題じゃないな……」
彼の呟きは私たちに聞こえなかった。
シェラさんが右手を高く上げる。そして親指と人差し指で音を鳴らしたと思ったら……私たち三人は玄関の前にいた。
「瞬間移動……」
ユウくんが呟くのを聞いて、私は理解した。一瞬で違う場所に移動するアレ! イメージとしては、青い猫型ロボットのどこでもドアの上位版でしょう?
「えー! 私も使ってみたい!」
そう叫ぶと、目の前のシェラさんはドヤ顔だ。だが、その話は長くは続かなかった。
「あれ、マチルダちゃん?」
そして何故かマチルダちゃんたちまでもが、私たちと共にいたからだ。
ワトくんは瞬きを何度もしながら、辺りをキョロキョロと見回している。ラーネとコニーくんはワトくんの周囲を警戒しながら、シェラさんを見ている。
マチルダちゃんは目の前に現れたユウくんに対して攻撃姿勢をとっている……あれ? ユウくんに対して?
「おい、マチルダ。俺だが」
ユウくんが不機嫌そうに告げると、マチルダちゃんは剣を下ろした。
「……どうやら敵ではないようですね」
「当たり前だろうが」
「いえ、もしかしたら敵に意識を操られている可能性もあると思いません?」
ユウくんが突っ込むが、マチルダちゃんは至極当然のように話す。
「クリスはいいのか?」
「お嬢様が……操られるタチだと思いますか?」
「……」
ユウくん?! なんで無言なの?! そう口を開く前に、シェラさんが二人の会話を遮った。
「ちょっと、私を抜きに話をしないでもらえるかしら?」
マチルダちゃんはユウくんの奥にいるシェラさんを再度睨みつけた。いつの間にか手に武器を持っている。彼はマチルダちゃんを見てから、肩をすくめた。
「私はね、賢者の称号をかけてクリスと一対一で戦うわ。あなたたちには手を出す予定がないから、静かに見ていて頂戴」
その言葉に目を丸くするマチルダちゃん。
「よくお嬢様と勝負しようと思いましたね……いえ、それでしたら素直に観戦させていただきますわ」
マチルダちゃんはそう言うと静かに後ろへと下がる。シェラさんは疲れたような表情を浮かべている。
「あんたたち……いつもこれなの? よく疲れないわね……」
「いや……疲れているぞ……」
ユウくんのしみじみとした声があたりに響いた。




