71、おまえんち、お化け屋敷!
建物内はどんよりとした雰囲気だった。
所々に壁掛けの明かりはあるけれど、どこかほんのりと暗い。わかりやすいイメージで言えば、あの有名なネズミのキャラがいるテーマパークのお化けアトラクションみたいな内装か。あちらよりはこちらの方がおどろおどろしいけれど……。
少し不気味に思っていると、ユウくんが声を掛けてきた。
「クリス、ここだったら魔法を使えないか?」
「……やってみる」
探索魔法辺りだったら使えるかもしれない。そう思った私は、魔法を発動する。一階は誰もいない、二階も誰もいない……一つ一つ確認をしてから、私は魔法を解除した。
「一階と二階は誰もいないようね。ただ……三階はわからなかったわ」
まるで何かに弾かれたような感覚があり、三階まで魔法を届けることができなかったのだ。そう伝えると、ユウくんは一度考え込む。
「それなら、直接行ってみるか」
「そうね」
私たちはまず三階へと足を運ぶことにする。ユウくん曰く、目の前にある階段は三階まで続いているようだ。まるで貴族の邸宅みたいな作り。そこにどんな人が住んでいるのだろうか、と私は心の中で少しだけワクワクしていた。
一歩ずつ階段を登っていく。私たちの歩く音だけが辺りに響き渡り、下手なお化け屋敷よりも恐怖を感じる。私はお化けが苦手、というわけではないけれど、なんとなく……背筋に冷たいものが走っているような気がした。
三階を目前とした時、ユウくんが立ち止まる。
「ユウくん、どうしたの?」
「……嫌な空気を感じる」
三階を睨みつけるユウくん。その視線は鋭い。ただ事ではない様子を感じた私も、目を瞑って魔力の流れを感じ取った。
「……魔力の淀み?」
「わからないが……行くぞ」
ユウくんの言葉に頷くと、二人は一歩一歩足を進めていく。そして……最後の一段となった時、先頭を歩いていたユウくんが呻き声を漏らした。
「ユウくん、大丈夫?!」
「俺は大丈夫だが……ここから先は入れないようだ……」
「えっ?」
どうやら見えない壁があるらしい。私も恐る恐る近づくが——
「あれ?」
「えっ」
二人同時に声が上がった。私はユウくんが言っていた、壁があるという場所を通り過ぎてしまう。私は意味がわからず、首をひねる。
「ユウくん、私、通れちゃったよ?」
「……何でだ?」
二人で疑問符を頭の上に浮かべると、私の目の前に本が現れる。そしてその中から現れたのは、彼だ。
「呼バレテ、飛ビ出テ、ジャジャジャーン! IPデ、アーリマス!」
「いや、呼んでねぇよ!」
IPとユウくんのお笑い芸人のようなノリツッコミに、私は吹き出してしまった。いやいやいや、これは予想外でしょう? IPはユウくんの言葉に心外だ、というように眉を寄せた。
「ソンナコト、アーリマセン! 私ハ、賢者様ガ困ッタ時ニ出ルヨウ設定サレテイルノデ、アーリマス」
「確かに困ってる時ね。それじゃあ、IP。これ、なんでかわかる?」
私はIPにユウくんが通れないことを告げると、彼はその場所をじっと観察している。そしてしばらくすると、まるで懐中電灯みたいに目を光らせた。驚きで最初は固まっていた私たちだったが、気づけばその光で薄らとシャボン玉のような幕みたいなものが張り巡らせていることに気づく。
「IP、これはなに?」
「コレハ防御魔法デ、アーリマス! 防御魔法ニ込メラレタ魔力以下ノ者ハ、入レナイ仕組ミデ、アーリマス! 賢者サマハ、防御魔法ヨリモ魔力ガ多イノデ、アーリマス!」
「……俺は魔力量が少ないから入れない、ということか」
「ソノ通リデ、アーリマス」
魔力量に応じて人を通さない防御魔法なんてあるのか、と私は驚く。私の知らない魔法が、この世界には沢山あるようだ。私は未知のものとの遭遇に、少しだけ心躍るが……いや、今は謝罪しないといけないじゃない!
気を引き締めているところに、ユウくんの声が聞こえた。
「なるほど、魔力が相当込められているようだな。大抵の魔導師はこの中に入ることすらできなさそうだな……だが……」
ユウくんは気不味そうに言い淀んだ。
「ユウくんどうしたの?」
「いや、多分この屋敷の持ち主の魔力量は多いのだろうが……クリスはそれ以上の魔力量の持ち主ってことだろう? 自分より魔力量が多い者の侵入があるなんて、屋敷の主は考えていなかったんだろうな、と思ってな」
「キット自分ガ一番! ト思ッテイタノデ、アーリマス」
「ああ、オブラートに包んだつもりが……」
ユウくんは眉間を揉んだ。
きっと屋敷の主は自信家なのかもしれない、ということね。確かにこの防御魔法の魔力量だけで見れば、辺境伯領に所属していた魔導師たちは入れないと思う。見てきた中で、一番の魔力量の人なのだろう。私を除外すれば。
「それよりも、だ……俺はどうやって入ったらいいんだ?」
「……あ」
そうだよね、魔力量が少ないユウくんはどうやって入ればいいのかしら? また魔法で壊す? でも何個も魔法を破壊されたら、良い気にはならないわよねぇ……。
二人でうんうん唸っていると、IPが不思議そうな顔で私たちを見てきた。
「入レルデ、アーリマスヨ?」
「「えっ?」」
二人の声が合わさる。私たちはキョトン、としているIPへと振り向いた。




