68、今度は何に変身しようかしら?
新たな地図を手に、私たちは方向を確認しながら歩き続ける。
そしてローズルさんと別れてから数日後。いきなりマチルダちゃんがピタッと歩みを止めた。それに気づいた私は、彼女に声を掛ける。
「マチルダちゃん、どうしたの?」
「……方向感覚が少々狂わされているような気がします。勇者様、地図を見せていただけますか?」
彼女に言われて地図を差し出したユウくん。マチルダちゃんは、魔法袋の中から時計のようなものを取り出した。よく見ると、日本の方位磁石に似ている。
「これは?」
「これは私たちの位置を測るものですね方位確認具と呼ばれています」
マチルダちゃんの言葉で私は完全に理解した。これは方位磁石だと。
ただ、仕組みは方位磁石とは違い、この確認具は魔力を測っているらしい。森の中は魔力が豊富なので、魔力の薄い方向を指し示すのだとか。
魔の森は広いので今までは役に立たなかったが、ここまで来れば使用できるはず。けれど――。
皆でその確認具を見ていると、針がぐるぐると回り続けている。
「これは周囲の魔力が異常に濃い、もしくは魔法による影響ですね」
「クリス、変身して俯瞰することはできないか?」
「うん、やってみる!」
私は頭に浮かんだピーコ一世の姿をとり、上へ上へと上がっていく。木の上にたどり着いて周囲を確認するが、その光景は異様という一言だった。
以前確認した時は遠くまで見通すことができた森だったのに、何かモヤのようなものに囲まれて、先を見ることができない。森の様子を確認しようとしても、今度は霧がかかったように白くなってしまう。
それならば! と、とにかく高所へと登っていくが……ある場所にたどり着くと、何かの幕に跳ね返されてそれ以上高く飛ぶことができない。
やはり何らかの魔法が使われているようだ、そう判断した私はユウくんたちの元へ降りていく。そしてピーコ一世の姿から元に戻ると、今見たことを皆に話した。
「やはり魔法の影響ですね」
話を聞いたマチルダちゃんは開口一番に告げる。まあ、そうだよね、と皆が頷く。そして一斉に私へと視線を向けられる。
「魔法に関してはクリスにお願いするしかないな」
「お願いします……!」
「おねがい……します……」
コニーくんとワトくんにもお願いされた私は、二つ返事で了承する。けれど、一つ大事なことがあった。今回はどうやって魔法を破ろうか、ということだ。
この魔法は多分先代賢者様の時と違って、ふたつの魔法が使われていると予測できる。ひとつ目がぶつかった幕。あれによって外からの侵入はできても、中から出ることができない仕様担っている可能性が高い。
ふたつ目、この幕の中で使われているのが多分幻影魔法系。まずは幕を消してから、幻影魔法を相殺する必要がある。
ここまで考えて、私は閃いたのだが……うまくイメージができない。
しばらく考えた後、ふと私は幼い頃息子と見た図鑑を思い出した。
――きっとあんな感じよね?
イメージを固めた私は、皆に振り返ってから口角を上げた。
「まずは幕消ししてくるわね! ダイノプル ダイノプル ガバポップン!」
杖を胸に抱いて一度呪文を唱えた後、私は杖をバトンのように回しながらくるりと回転した。すると……私の身体が光に包まれ、段々と大きくなっていく。
目を開けると、ユウくんたちがまるで米粒のようだった。
そういえば、有名な映画で「まるで人が――」なんて笑いながら叫ぶ大佐がいたけれど、確かにこう見ると言いたいこともわかる気がする。
なんて思っていると、下からユウくんの声が聞こえた。
「クリス……何に変身したんだ?」
「え? この前の骨ドラゴンが生きてたら、こんなかな? と思ったの」
「いや、どう見てもティラノサウルスにプテラノドンの羽を生やしたキメラにしか見えないんだが……?」
『え、キメラ? キメラって名前のドラゴンがいるの?』
ユウくんに訊ねようとしたけれど、実際の声は「GYAGYA」というようなアルバードに似た声しか出なかった。きっとこの姿はキメラって名前の恐竜に似ているのかもしれないわ! そう思った私は、羽を使って飛び上がる。飛ぶのに苦労しそうだ……なんて考えていたのだけれど、思った以上にすんなりと身体が持ち上がった。
私は魔法で作られた幕までたどり着くと、キメラの体をそのままぶつける。しかし、残念ながらこの巨体でも幕は破れないらしい。ヒビひとつ入っていなかった。
『えー。体当たりすればヒビくらい入るかと思ったのにぃ』
幕と睨めっこする私。その後も何度か体当たりしてみるも、割れそうな様子はない。他に何か手立てはないか、と考えた時……ふと頭を過ったものがあった。
『そういえば前の骨ドラゴン、ブレスを吐いていたわね。キメラもブレスいけそうじゃない?』
そう思った瞬間、体内から魔力を感じた。骨ドラゴンは、きっとこの湧き上がる魔力をブレスに変えていたようだ。そのことに気がついた私は、少量の魔力を口元へと持っていく。そして魔力を口から出してみた。
すると、どういう仕組みかは分からないけれど、口から火が出てきたのだ。今回は着火ライターみたいな火が現れたのよ。魔力が少ないと、可愛らしい火が出てくるのね。
つまり、魔力を大量に使ったら……すごいビームが出そうじゃない?!
私は顎に手を触れながら考える。
ほら、青い火だと格好いいわよね。えっと、確か青い火になる温度は1,500℃からだったかしら? ガスバーナーみたいな火が理想だわ。
理想を叶えるため、少しずつ魔力を口の中に溜めていく。
そしてその魔力が拡散せず、一定の幅を保てるよう、魔力を放出したい大きさに凝縮する。そこそこの魔力が溜まった頃、私は口からそれを放った。
理想通りの青色ブレスが何もないように見える空へと伸びていく。
途中、魔法で作られた幕にブレスがぶつかる。最初は拮抗していたようだったが、しばらく当てていると……ガラスにヒビが入ったような音が耳に届く。そこからすぐにパリン、と何かが割れる音が聞こえる。
どうやら幕が割れたようだ。
私は満足げな表情で、悠々と下に降りていく。
地面に降り立った私は変身を解くと、ユウくんたちに声をかけた。
「魔法で作られた幕を割ってきたよ!」
にっこりと笑う私。その一方でユウくんたちは唖然と私を見つめていた。




