67、フラグが立ったよ!
「いやぁ、大変申し訳ございませんでしたぁ〜!」
彼は私たちをその場所に案内した後、謝罪の言葉を口にした男性。彼はバツが悪いと感じたのか、頭を掻いていた。目には疲れの色が滲んでいる。
「助けられて良かったです!」
コニーくんが男性の言葉ににっこりと微笑む。すると、彼に同調するようにマチルダちゃんも言葉を続けた。
「むしろ私たちがあの場にいたことが、あなたにとって幸運でしたね」
「本当に仰る通りですよ〜! 私、あの時死を覚悟していましたからねぇ」
そう話してからまたお礼を告げる彼に、ユウくんは言った。
「もうお礼はいい。助けられて良かったと思う。ちなみにひとつ聞いて良いだろうか?」
「何なりと〜!」
「名前を教えてくれないか?」
ユウくんの言葉に男性は、自分の名前を言っていなかったことに気がついたらしい。あんぐりと口を開ける。そして隠すかのように、手を口の前へとかざす。
「いやぁ、大変申し訳ございません! 恩人様方になんてご無礼を! 私はローズルと申します。職業は先ほどもお話ししましたが、商会を運営しています〜」
「商人にしては、面白い喋り方をしますね」
マチルダちゃんは興味深そうにローズルさんに話しかけた。面白い喋り方とは、語尾を伸ばすことだろう。そう訊ねられて、彼は「ああっ」と額に手を置いた。
「いやぁ、大変申し訳ございません! こちらが素の話し方でして……普段は語尾を伸ばさず話しますが、気が緩むとこうなってしまうのです〜」
「今日は魔物に襲われてしまったから、緊張の糸が切れてしまったのね」
私がそう告げると、ローズルさんは目を輝かせて私を見つめてきた。
「ああ〜! そうなのです! そう言っていただけて、嬉しいです〜!」
「……近づきすぎだろ」
ずいっと私に近づいてきたローズルさんは、ユウくんによって後ろへ引きずられていく。まるで漫才のような流れに、私は思わず笑い声が漏れてしまう。
マチルダちゃんも面白かったのか、ニヤニヤと笑っている。
コニーくんだけは、笑っている私とマチルダちゃんを見て、首を傾げていたのだった。
普段のように私たちは野営の準備を始めた。
ローズルさんも手慣れたもので、ユウくんと同じくらい手際良くテントを設置している。
その後は私に調味料を譲ってくれたり、コニーくんと一緒に薪拾いをしたり、マチルダちゃんの解体の美しさに感動してお店に勧誘したり……マチルダちゃんの困っている表情を見たのは、今回が初めてかもしれないわ。
ついでに幾つかの魔物の素材と調味料や食べ物などを交換したりして、有意義な時間を得ることができた気がする。もちろん、魔力が切れていた魔除けにも、私の魔力を目一杯込めておいた。
翌朝。
私たちは野営の片付けを終える。朝だからだろうか、冷たい風が頬を撫でた。
ローズルさんもリュックを背負う。これからローズルさんは辺境伯領へ向かうのだ。
「そうだ、ローズル。教えてほしいことがあるんだが」
「なんでしょうか、ユウ様!」
「いや、できたらヘンリクでお願いしたい……」
昨日沢山会話したからか、何故かユウくんのことをユウ様と呼んでいるローズルさん。ユウくんは私に呼ばれる分には反応できるらしいのだけれど、他の人からユウと呼ばれると違和感があるみたい。
まあ、ローズルさんは呼び方を変える気はないらしく、ニコニコ笑っている。それを見たユウくんは肩をすくめた後、地図を取り出した。
「今この場所がどの辺りにいるか教えてほしいんだが」
地図を広げると、ローズルさんがそれを覗き込む。そしていきなり動いたと思ったら、背中に背負っているカバンの中から地図を取り出した。
「これは古い型の地図でございます。こちらをお使いくださいませ」
そう言って渡されたのは、辺境伯様から戴いた地図よりも詳細な内容が描かれている地図だった。魔境の森の内部の調査が行われたのか、記入されているモノが増えている。
「現在はここにおります」
そう言って指されたのは、辺境伯領から三分の二ほど来た場所にある空き地だった。地図を見る限り、この空き地を真っ直ぐに進むと魔族領があるらしいのだが……どうやらそう簡単にはいかないらしい。
「ここを直進する道が一番早いのですが、ここに崖がありまして……その下は魔物の巣窟となっております。もし可能であれば、右に迂回する形を取ったほうが安全かと思われます」
「なるほど」
魔物を倒すのは良いけれど……あまり体力を消耗するのもどうなのだろうか。
「なら迂回する道を取ろう」
「それが良いと思います」
「ただ、この道の先には偏屈な魔族が一人で暮らしていると言われています。私もお会いしたことがありませんから、なんとも言えないのですが……お気をつけて」
二人の言葉の後、なんとも複雑そうな表情で告げるローズルさん。森の中に住んでるって……何をしている人なのかしら。山や森の中にひっそりと暮らす人って、魔女のイメージが強いのだけれど。
魔女様なら会ってみたいな、なんて思ったり。まあ、無理だと思うけれどね。
「いや、『フラグ』立てるなって!」
どうやら言葉が口に出ていたらしい。ユウくんに怒られながらも、私たちはローズルさんに手を振り、歩き出した。
「ふふふ、頑張ってくださいね……勇者御一行様」




