12:00
「何食べたい?」
と、嬉しそうな笑顔でナナさんは沙樹にメニューを開いて渡す。
沙樹はナナさんに会ってからずっと油汗をかきながら、俺の側から離れないようにずっと俺のズボンを握っている。
「ナナさーん、なんで私呼ばれたんですか?」
沙樹と俺のナナさんへ対する不信感が雰囲気で出ているのか、ナナさんの事務所の後輩であるエミリさんが困り顔で質問する。
ナナ「1対2なんて沙樹の友達が可哀想じゃない?だったら2対2で楽しんだ方がよくない?」
エミリ「そうですけどー…。この子たちずっと2人でいるから話しかけにくいです…。」
ナナ「じゃあ、席替えする?」
その言葉に沙樹の握っていたズボンの布がきつく握られる。
夏「…俺、人見知りなんで沙樹の隣がいいです。」
ナナ「…そうなの?じゃあしょうがないね。」
ナナさんは少し残念そうにしながら隣にいるエミリさんとメニュー表を見始める。
俺は早く食べ終えられそうな品物を選び、店員さんを呼ぶ。
夏「旬の冷製パスタ2つお願いします。」
ナナ「あと、オムライスとビーフシチュー1つずつ。」
俺たちは注文を終えて、届いたドリンクを飲み火照った体を冷やす。
ナナ「沙樹くんとこうやってまたゆっくりお話出来るの嬉しいな。」
ナナさんはずっと沙樹を見て俺のことは全く見ない。
その一心な視線が沙樹を追い詰めてしまっているが、助けられない。
エミリ「夏くんだっけ?沙樹くんとはどういう関係?」
夏「俺と…」
と、俺が答えようとすると沙樹がズボンを引っ張り止めた。
沙樹「僕たちは仕事場の同僚です。」
ね!っと心配になるくらいの作り笑顔で沙樹は俺に聞く。
夏「うん。仕事場で知り合った仲です。」
エミリ「へー!じゃあ高卒で働いてるんだ?」
夏「はい。」
ナナ「沙樹くんの家、色々大変なんだもんね。長男はいつまでも大変だね。」
沙樹「…まあ、そうですね。」
沙樹は俯きがちに目線をテーブルに向けて時間が過ぎるのを待つ。
どうしたら早くこの時間を終わらせてあげられるのか、必死に考えたけれどナナさんとエミリさんの質問責めに俺が沙樹の代わりに答えるのに頭を回すので全く思いつかない。
ナナ「沙樹くんと付き合える彼女さんはきっと幸せなんだろうなぁー。」
エミリ「毎日ご飯作ってるんだよね?私たちはいつも外食ですませちゃいますよね。」
ナナ「そうそう。作れるのカップ麺くらいだもん。」
エミリ「ナナさん生活力なさすぎです。」
と、勝手に2人の会話が始めてくれたところで注文していた料理が届き、みんなで食べ始める。
沙樹は利き手の右手をずっと俺のズボンに掴んだまま、慣れない左手でうまくフォークを使ってパスタを食べ進める。
ナナ「ご飯食べたらみんなで海行こっか。」
エミリ「んー!いいですね!」
夏「え…っと、俺たちこのあと用事あるので。」
ナナ「沙樹くん。用事あるの?」
沙樹「…。」
沙樹は口にパスタをずっと含んで噛み砕き続けるだけで答えるつもりはないらしい。
夏「この後は…」
ナナ「君には聞いてない。沙樹くんに聞いてるの。」
俺を脅すように少し怒ったような口調で言い放つナナさん。
さっきから沙樹をかばいすぎて怒らせてしまったみたいだ。
沙樹「……海、行きたくないです。」
と、沙樹は声を振り絞ってナナさんの出した案を拒否した。
ナナ「そっか。じゃあ、ドライブ行こうよ。車出してもらおっかな。」
沙樹「…ドライブ、行きたくないです。」
ナナ「…カラオケは?」
沙樹「…行きたくないです。」
ナナ「私の家は?」
沙樹「行きたく…、ないです。」
沙樹は後2口ほどで終わるパスタを残し、フォークを静かに置く。
ナナ「沙樹くん。」
ナナさんが沙樹の事を呼び、沙樹が恐る恐るゆっくりと顔を上げる。
ナナ「300。」
と、笑顔で数字を言うナナさん。
その言葉に俺のズボンを裂けそうになるくらい力強く握り締める沙樹。
ナナ「誰が沙樹くんが辛い時に一緒にいてくれた?」
ナナさんは笑顔のままだけれど、言葉には怒りしかこもっていない。
その様子を見ている俺とエミリさんは体が固まってしまう。
ナナ「誰が沙樹くんの問題、解決してくれた?」
沙樹は涙が溢れそうなのを堪えるために、目を強く瞑りナナさんの言葉に耐える。
ナナ「誰が沙樹くんのこと、1番知ってるかな?」
カン!っとテーブルの下からヒールの音が聞こえ、見ると沙樹の足を踏みつけているナナさんの足があった。
沙樹「な…」
ナナ「うん?」
沙樹「な、なっ…」
沙樹は目をゆっくり開けてナナさんを見る。
その沙樹の顔は怯えていて支配で言葉を言わされてるとしか考えられない表情。
俺は沙樹が俺のズボンを握っていた手を取り、一緒に立ち上がる。
夏「俺らしいです。すみません、そろそろ時間なんで帰ります。」
俺はレシート混じりの1000円札を6枚置いて店を出ようとすると、ナナさんがテーブルを叩いて立ち上がった。
ナナ「君、なんなの?沙樹くんが話してる途中じゃん。それとも私たちのこと知ってるの?」
夏「…あなたこそなんなんですか?沙樹の事、追い詰めて楽しんですか。」
俺はナナさんの目力に倒されないよう必死で睨み返す。
エミリ「え、えっと…。とりあえず、お店に迷惑かかりますし外で話しましょうか。」
エミリさんの言葉で俺は意識を店内に戻すと、ランチタイムで満席に近い人たちの中で1番に視線を集めていることに気づく。
俺たちは無言のままレジに向かい、ナナさんがクレジットカードで会計をして外に出るとレストランがあったビル裏の路地にまわった。
エミリ「ふ、2人は時間大丈夫?」
エミリさんはこの尖った空気をなんとか和ませようとするがもうムダだ。
さっきから取り繕ってた空気がただ剥がれただけ。
こっちが本当のナナさんで俺だ。
夏「ナナさんがお話あるようなので少しだけだったら。」
ナナ「本当は用事も何もないでしょ?あの時の料理教室も嘘臭かったし、本当に君は嘘つくの下手だよね。」
夏「下手でもその場の状況が変わるなら俺の嘘が本当になります。」
ナナ「じゃあ、沙樹くんの嘘話してあげようか?」
沙樹「や、やめてください…。」
ナナ「なんで嘘話だよ?どんな内容かも分からないでしょ?」
沙樹「…。」
完全に沙樹は萎縮してしまっている。
まだ俺が知らないことがあるんだろうけど、このやり方で沙樹を手玉にしようとするナナさんの性格の悪さに嫌気がさす。
これを高校時代1人で背負っていた沙樹はよく耐え抜いたなと思う。
夏「嘘でも本当でも俺は沙樹の言葉を信じますよ。」
ナナ「沙樹くんが売春しててもそう言うの?」
さらっとナナさんは嘘を吐いた。
けれどその嘘を聞いて沙樹は声を出さず泣き崩れ、しゃがみこんだ。
ナナ「それで稼いだお金でお母さんと妹ちゃんの暮らしと学費を支えてたの。だって、そうしないとまともにバイトしてても足りないんだもんね?」
ナナさんはかがんで膝に顔を埋めている沙樹の頭を撫でようとするのを俺はとっさに止める。
ナナ「…なに?」
夏「体使って稼いでなにか悪いんですか?」
ナナ「汚いじゃん。」
その言葉に俺の中に溜まった膿が溢れ出す。
夏「汚い?誰だって体使って仕事してるだろ。なんにも変わらない。」
ナナ「いろんな人と交わって自分の体を買われてるのに?」
夏「それも1つの仕事のあり方だ。お前みたいに人を支配して操ろうとする方が汚いし、気持ち悪い。」
俺は沙樹を立たせて手を引き、表通りに戻りに行く。
ナナ「今から私たち、襲われてますって叫ぶけどいい?」
エミリ「…え?」
夏「それで?」
俺が後ろを振り向くと、ナナさんが俺の目の前に顔を寄せる。
ナナ「この国は女性に優しい法律がいっぱいなの。しかも、ちょこぉっと有名なモデルのNinaが男に襲われたって週刊誌にでも載せられたら沙樹くんと君の人生どうなるかな。」
Nina…?
この間、BIBIのモデルに選ばれたって永海が言ってたような…。
ナナ「これから人生終わらせたいなら行けば?私はどっちでもいいけど、2人の人生終わらせちゃうのは可哀想だなぁって思うの。」
夏「…ナナさんはなにを求めてるんですか?」
ナナ「んー、沙樹くん。」
夏「…それ以外は?」
ナナ「沙樹くんに投資した300万。」
さっき言ってた数字はそのことだったのか。
沙樹「夏は…、帰っていいよ。」
沙樹は気のない声で俺を帰らそうとする。
夏「帰らないし、今日は沙樹の家まで送るって決めてる。」
ナナ「BLは興味ないから辞めて。で、君は私が求めてるものを提出できるの?」
夏「…1週間待ってもらえれば。」
ナナ「明日。」
夏「5日。」
ナナ「3日。それ以上は無理。」
夏「分かりました。今日は俺たち帰ります。」
ナナ「はぁーい。今日入れて3日後、この間出会った場所に8時ね。」
夏「…はい。」
俺は沙樹の手を引き表通りに走ってナナさんの元から強制的に沙樹を離した。
自分の貯金とあと3日もない時間でどう金を作るか考えながら沙樹を家に送り、とりあえずまずは俺の貯金をかき集めることにした。
→ Strawberry Shortcake




