22:00
瑠愛くんの会社設立記念のお祝いをするために駅前で待ち合わせをしたけれど、瑠愛くんが今1番会いたいと言ういっくんは仕事が長引いてしまったらしく先に居酒屋に入って待つことにした。
瑠愛「一旦、かんぱいっ。」
夏「おめでとう、瑠愛くん。乾杯。」
俺は梅酒を呑みながら瑠愛くんの大好きないっくんを待ちわびる。
夏「瑠愛くんの黒髪初めて見た。パーマもちょっと細めにしたの?」
瑠愛「くるるんにしてエアリー感増させたよ♡若干パーマ落ちてたからちょうど良かったんだ。」
瑠愛くんは嬉しそうに髪型の語り始める。
元々は黒髪が好きだったみたいだけど、いろんな色を試してみたらしい。
俺は瑠愛くんの当てたパーマに興味を惹かれていると、瑠愛くんが突然目を輝かせて出入り口に手を振り始めた。
どうやらいっくんが来たらしい。
俺は出入りにいるいっくんと目を合わせると2人して目を見開いて驚く。
瑠愛「いっくん、俺の隣ね。」
「ありがとう。黒髪にしたんだ?清純アイドルみたい。」
瑠愛「ありがと♡」
いっくんは瑠愛くんの隣に座り、真正面にいる俺の顔をじっと見てくる。
「…夏、だよな?」
やっぱりこの人は一くんだ。
だたよく似てる人じゃなかった。
夏「…うん。」
俺はどうにも言い逃れ出来ないと思い、正直に返事をした。
瑠愛「そうだねー。今日は特に夏日って言ってたもん。いっくんはハイボール?」
一「レモンサワーにする。」
瑠愛「珍しいねー?」
一くんのワンオーダー目のテンションが暗いのは俺せいだろうか…?
瑠愛くんは少し不思議そうに一くんの注文に応えて3人分のドリンクや料理を注文する。
手早く来たドリンクの中には生搾りのレモンがあり、瑠愛くんは楽しそうに絞り一くんに作る。
一「ありがとう。」
瑠愛「俺の愛情たっぷりレモンサワーだよ♡」
瑠愛くんが音頭を取り3人で乾杯した後、瑠愛くんは一くんのことを“いちくん”と紹介し、俺のことを“優治”と紹介した。
俺は仕事とプライベートをしっかり分けたかったから一くんに申し訳ないと思いつつ、初めて会ったふりをし続けた。
そうしていると一くんも俺に合わせてくれているのか必要以上の質問はしてこず、瑠愛くんと戯れて遊んでいる。
瑠愛くんは本当に一くんが好きらしくてずっと腕を組みながら酒を飲んだり、つまみを食べたりしてとても楽しそう。
俺といてもこんなに幸せそうな顔をしないから本当に心から好きと思えているんだろうな、と俺は2人を羨ましく思った。
夏「今日は瑠愛くんの会社設立記念日のお祝いなんだ。」
俺は今日集まった趣旨を一くんに伝える。
それを聞くと一くんはとても驚いた顔をして瑠愛くんを見た。
一「え?瑠愛くんって経営者?」
瑠愛「成り立てだよー。」
瑠愛くんは気恥ずかしそうに照れながら笑う。
瑠愛「いっくんにはちゃんと全部終わったら話そうと思ってたんだ。」
一「そうだったんだ。おめでとう。応援するよ。」
瑠愛「ありがとう!…それでいっくんも一緒にやってほしいなぁって思うんだけどどうかな?」
俺は瑠愛くんの言葉に驚き、口から梅酒をこぼしそうになる。
ただ一緒に祝ってほしくて誘っただけだと思ったのに一緒に仕事をしたくてここに呼んだのか?
一「どんな仕事?」
瑠愛「レンタル彼氏的な仕事だよ。今は優くんと俺しかいないんだ。」
瑠愛くんはどうしても入ってほしいのか、一くんの手を握って必死にお願いする。
瑠愛「お願い!銭湯は辞めて俺の所で働かない…?ちゃんとお給料出せるようにするから!」
銭湯…?
俺は休憩室で聞いた話を思い出した。
…まさか、一くんがツツミさんのお気に入りなのか?
一「俺も辞めたいなって思ってた所なんだけど…」
瑠愛「じゃあ辞めよ!」
瑠愛くんは食い気味に一くんの仕事を辞めさせようとする。
一「けど、そこの店長が元々知り合いで無理に入れてもらったからすぐってのも申し訳ないんだよな。」
瑠愛「…なんて人?」
瑠愛くんは不安げな顔をして一くんに聞く。
俺もその答えを聞こうと騒ついている居酒屋でしっかりと一くんの声に耳をひそめる。
一「店長はツツミさんって人で、社長は枉駕さんって人。」
俺はその2人の名前を聞いて一気に寒気が背中を走り、体の末端まで鳥肌が立つ。
瑠愛くんは今にも泣き出しそうに悔しがりながら俯き、無言で一くんの手を握り続ける。
夏「…掛け持ちしてでも、俺たちと一緒に働いてほしいな。いっくんイケメンだし。」
あの2人に飲まれたら最後、今までのような生活は出来ないだろう。
一くんはただのクラスメイトだったけれど、今はあの2人に飲み込まれそうな同業者。
そんな人が今、目の前にいて手を差し伸べないバカに俺はなりたくない。
瑠愛「…うん。イケメン枠ほしい。」
瑠愛くんは涙を引かせ顔を上げると、笑顔を作って一くんの目をまっすぐに見てお願いし続けると一くんは週2くらいで入ることになった。
瑠愛「ちゃんと稼げるように俺頑張るからその時は銭湯辞めようね。」
一「今より倍稼げるようになったらやめる。」
瑠愛「…頑張る!」
瑠愛くんは10杯近く酒を飲んでいるのにメラメラと目を燃やし、やる気を出す。
俺も新規顧客獲得して一くんが1日でも早く銭湯を辞められるように手伝おう。
俺もこっそりやる気を出していると携帯が鳴り、見てみると沙樹からの電話が来ていた。
夏「ちょっと電話してくるね。」
俺は店の外に出て電話に出ると、泣きじゃくる沙樹の声が聞こえる。
夏「…どうしたの?」
沙樹『ナナさんと出かけることになった…。』
夏「え!?なんで?」
沙樹『一緒に出かけないと秘密にしてること全部バラすって。』
夏「でも、バイトとか面接があるじゃん。」
沙樹『それも休んでデートしろだって…。』
どんだけ自分勝手な人なんだ。
俺は1度しか会ったことないナナさんに苛立ちを覚えながらもなんとか拒否することは出来ないか色々案を出してみるけれど、絶対的にナナさんが断ってくれそうな嘘は出てこない。
沙樹『…僕、もう触られたくない。』
分かる。俺も社長に触られたくないって思う。
触れられるだけで鳥肌が立って全ての嫌な思い出が溢れ返ってくる人とは、触れられたくもないし会いたくもないよな。
夏「俺も一緒に行くよ。いつ?」
沙樹『…え、いいの?』
夏「俺がいればナナさんがちょっかいかけにくいと思うんだ。」
沙樹『でも…、仕事とか…』
夏「大丈夫。いつもよりは減らしてるんだ。」
沙樹『…。』
沙樹はまだ俺に頼りきれないのか、無言が続く。
夏「俺は沙樹の友達だから沙樹が悩んでる時もちゃんと側にいたいんだ。だから俺のこと頼って。」
沙樹『…ありがとう。』
8月1日。
沙樹がサークルの旅行から帰ってきてから次の日。
ナナさんはそれを知ってか知らずか間髪入れずに誘ってきたことに不信感を感じながら沙樹との電話を終え、席に戻ると瑠愛くんは一くんに腕に抱きついて肩に顔を埋めていた。
夏「瑠愛くん酔っちゃった?」
一「酒呑むと甘えたがりになるから通常運転。」
夏「そうなんだ。知らなかった。」
きっと一くんにしか見せない部分なんだろうな。
俺の知らない瑠愛くんを見て少し寂しい気持ちになり、俺は黙ってしまう。
少し変に沈黙が流れてしまったので俺は今日の昼に愛海に相談してみたことを一くんにも質問してみた。
一「向こうはある程度、優治の事を気に入ってるから誘ってくれたんだ。楽しんじゃえばいいじゃん。」
夏「けど…、ちょっと…。」
この夏で悠との起きた事を考えると、楽しむよりも楽しませないとという気持ちが強くなる。
しかも2人きりっていうのが1番気持ちが重いところ。
一「好意を持たれてるんだから有難いと思え。持たれたくて必死に生きてる人間もいるんだからある程度、気を許した仲ならその好意に甘えて楽しめばいいんだよ。」
夏「…そっか。」
俺は断る事を辞めてなんとか旅行を楽しむ事に専念しようと自分で自分を洗脳していると、瑠愛くんが顔をあげてハイボールを一気に飲み干し次の店に移ろうと立ち上がる。
瑠愛くんは2軒目のお気に入りのシネマBARで一くんにたくさん甘え、俺は沙樹と悠の事を考え時間を過ごし、終電を逃した一くんも一緒に瑠愛くんの家に帰った。
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