12:00
俺は昨日からずっと一緒にいてくれるナギタさんにお礼を言いながら店長にオススメされた物件を見に行く。
夏「家賃高いですね…。」
ナギタ「この仕事してると狙われやすいのでセキュリティがしっかりしてるところがいいと思いますよ。優治さんみたいなアパートに住んでるのは珍しい方です。」
夏「え…、そうなんですか?」
ナギタ「他の方は二重扉、オートロック、受付など結構セキュリティがしっかりしてるところに住んでいたのでこの間行った時はびっくりしました。」
社長に遊び尽くされた後、俺をおぶって家に帰らせてくれたのもナギタさん。
本当にナギタさんには感謝しかない。
夏「まあ、普通のアパートよりも古臭いですもんね。」
ナギタ「大家さんはとても気さくで素敵な方ですけど、簡単に入れてしまう鍵だと危ないですからねー。」
ナギタさんは間取りを見ながら外から見た様子や、セキュリティの確認、ゴミ捨て場まで案内してくれる。
夏「ナギタさんってこのマンションに住んでるんですか?」
ナギタ「住んでませんよー。昔、瑠愛さんとか使ってたので覚えてるんです。」
夏「え!瑠愛くんも使ってたんですか?」
じゃあ、安心して使えるかとここの物件で決まりにしようかなと少し考える。
ナギタ「でも瑠愛さんは3ヶ月くらいでこのマンション出て違うところに拠点移したっぽいんですよね。」
夏「理由とか言ってました?」
ナギタ「気まぐれって僕には言ってましたけど、もしかしたら違う理由があるかもしれませんね。」
と言って、幽霊のポーズをするナギタさん。
夏「そうなんですか…。後で瑠愛くんに聞いてみます。」
ナギタ「そうですね。住んでた人に聞くのが1番いいと思います。」
俺はそのあとも数件見学してみて、いい部屋は3件ほどあったけれど瑠愛くんの話が気になって今日すぐに決めるのはやめた。
その後、8月初旬には引っ越すという約束で瑠愛くんの家に数日泊めてもらうことになった。
俺は瑠愛くんとの電話で言われた通り、指定された駅でナギタさんと別れ電車に乗り、瑠愛くんの家があるという最寄り駅で数日分の服を入れた大きめのカバンを持って瑠愛くんを待つ。
すると暑い中、しろくまの着ぐるみのような部屋着を着た瑠愛くんが俺に手を振りながら歩いてくる。
夏「そのしろくま暑くない?」
瑠愛「…え?あっ!しろくま着てた!」
と、瑠愛くんはここまで来る間気づいていなかったのか、恥ずかしそうに顔になっているフードを深くかぶり、俺の手を引いて少し歩き高級そうなマンションに入っていく。
夏「え?ここなの?」
瑠愛「この奥にある別棟が俺の家。」
瑠愛くんはフロントの人に見られるのも恥ずかしいらしく、フードを抑えて小走りで渡り廊下を通ってエレベーターに乗る。
瑠愛「さっき起きたから寝ぼけてたぁ…。」
フードを下ろすと、恥ずかしさと暑さで真っ赤になった瑠愛くんの顔が現れる。
夏「でも、瑠愛くんなんでも似合うから違和感ないよ。」
瑠愛「おじちゃんがしろくまはきついでしょー。」
夏「瑠愛くんだからきつくないよ。」
瑠愛「んんー♡ありがとっ!」
瑠愛くんは少し照れながらお礼を言い、自分の部屋に案内してくれた。
やっぱり今日見てきた物件と似たようなセキュリティが施されていて自分で身を守ってることを見るだけで教えてくれる。
瑠愛「この部屋、ゲストルームだから好きに使ってね。」
夏「ありがとう!」
俺の部屋より広いゲストルームに驚きながら軽く荷ほどきをして瑠愛くんが待つリビングに行くと、のんびりとバラエティを見る瑠愛くんがソファーで寝転がっていた。
瑠愛「昼ご飯、さきいかとチーかましかないや。ごめんね。」
と、テーブルにそれぞれ2つずつ袋が置かれている。
夏「ううん。ありがとう。」
俺は瑠愛くんが寝ているソファーの前に座り、チーかまをつまむ。
瑠愛「優くんと悠ちゃん無事で良かったよー。本当一方的で極度の愛は怖いね。」
瑠愛くんは俺の肩に腕を回し、生きてる存在を確かめるようにきつく抱きしめる。
瑠愛「そういえば、もう家探しに行ったんだよね?不動産の人?」
夏「ううん。店長がオススメしてくれたとこ見てきた。」
瑠愛「だめ!…俺の知り合いに不動産いるからそっちに聞こ?」
瑠愛は俺の耳元で今日見てきた物件を全力で拒否する。
夏「でも瑠愛くんが少し住んでたとこも紹介されたよ?」
すると瑠愛くんはすごく嫌そうな顔をして出ていった理由を話し始めた。
瑠愛「…店長が紹介するマンション全て、社長の管理してる物件なんだよ。それで働いてるみんな監視してるの。だからあそこに住んじゃダメ。」
夏「え…、そうなの?」
瑠愛「うん。勝手に家入って社長とその知り合いが喰いに来るからやめて。気に入られたら引き抜きに合う。」
瑠愛くんは絶対に紹介された物件には行かないでほしいらしく、俺の体を強く抱きしめてその物件への引っ越しを拒否する。
夏「教えてくれてありがとう。他の所にするね。」
瑠愛「うん。あの店の人には誰にも知られないようにして。みんな社長のスパイって思っといて。」
夏「…なんで瑠愛くんは俺に全部教えてくれるの?」
瑠愛「社長の愚痴を言った子は優くんだけだよ。みんな諦め半分の話ばっかりだからきっと喰われてる。」
夏「そうなんだ…。気をつける。」
瑠愛「うん。…優くんは俺みたいになってほしくないから。俺がちゃんと教えるから、一緒にあそこから逃げようね。」
夏「…うん。」
瑠愛くんに何があったのかは分からないけど、あの店自体を信用していないらしい。
ただの金稼ぎとして通っていただけの場所。
だからドライバーのナギタさんさえ自分の家に近づけたくなかったみたいだ。
あんなに優しいナギタさんでも、社長のコマだとしたら誰も信用出来なくなるよな。
俺は瑠愛くんの知り合いだという不動産屋さんを紹介してもらい、家を選ぶことにした。
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