7:00
俺は眠りの深い夜を過ごして一夜明けると個室の病室には助けてくれたドライバーのナギタさんが椅子に座って器用に仮眠を取っていた。
俺はナギタさんを起こさないよう静かに起き上がり、1人で悠がいる病室に行く。
すると悠はまだ眠っていた。
夏「…巻き込んでごめん。」
俺がそう呟くと悠の目が開き、俺の手を引いてベッドに座らせた。
悠「夏くんが謝ることなんかないよ。怪我なくてよかった。」
夏「でも、悠の体に傷残っちゃった。」
悠「ちょっとした切り傷だから少ししたら治るよ。」
夏「…治らなかったら?」
悠「気にしないよ。もちこに引っ掻かれた傷の方が大きいもん。」
と言って、腕にある傷を指す悠。
うっすらとだけれど引っかき傷が2つ、手の平にも小さいものが1つあることを教えてくれる。
夏「もちこは怪我させようとしてやったわけじゃないじゃん。」
悠「…もう、気にしないって言ってるじゃん。」
悠は呆れ気味に体を起こして座る。
夏「しかもご飯食べに行く約束破っちゃったし、よく着てたブラウスもボロボロになっちゃったし…。」
俺が申し訳なさで胸がいっぱいになっていると、悠は俺の鼻をつまんで顔を自分に向けた。
悠「じゃあ、お詫びのお出かけ今度してくれる?」
夏「もちろん。どこ行きたい?」
悠は俺のOKを聞くと普段見せない嬉しそうな顔をして、鼻をつまんだ指を離す。
悠「彼氏がドタキャンした京都旅行来てほしい。」
まさかの遠出で俺が言葉を失っていると悠は続けた。
悠「来週の水曜から1泊2日。今キャンセルしちゃうと9割払わないといけないの。」
夏「…永海とかはダメなの?」
悠「バイトあるんだって。」
瑠愛くんとも言えない状況。
でも、自分の命の危険を冒してまで俺のことを優先してくれた悠には恩返しをしたいと思う。
夏「わかっ…、た。でも…」
俺が言葉を繋げようとすると突然ノックもなしに扉が開き、2人で驚くと肉付きのいい少し歳を召した女性が立っていた。
悠「…お母さんか。びっくりした。」
「その子、誰?」
とても機嫌が悪そうに俺のことを睨みつける悠のお母さん。
そんな目で見られて当然だ。
我が子を危険に晒されて怒らない親が…、いるわけないはずなんだ。
俺は自分の母親を一瞬思い出したが記憶をとどめて立ち上がり、悠のお母さんに向かって頭を下げる。
夏「悠さんを危険な目に合わせてしまい、すみません。」
「…あなたなのね?お姉ちゃんを傷モノにしたのは。」
悠「彼方くんのせいじゃないよ。ストーカー女のせい。」
「彼方さんの危機管理能力がないからお姉ちゃんが殺されかけたの。そんな人をかばわないで。」
悠「お母さん、彼方くんも殺されかけたの。責めるのはおかしい。」
夏「いや、俺がもっと注意深く生活してれば…」
「そうよ。あなたの不注意で嫁入り前の娘の肌に傷がついたの。しっかり…」
悠「やめて!お母さん、それ以上言うなら面会も迎えもしなくていい。こんな傷、転んで怪我したのと同じくらいの浅さって先生言ってたじゃん!」
「でも、私もお父さんもリカもお姉ちゃんが心配で…」
悠「1人で帰るからいい。どうせお父さんの車でリカも来るんでしょ?3人でドライブ行けば?」
「ダメよ。一緒に帰るの。家族は大変な時に支え合うのが当たり前なの。」
悠「…あっそ。勝手にして。とりあえず帰る時間までこの部屋には入ってこないで。」
「じゃあ、荷物…」
悠「そんなの自分で持てるから早く出て行って。」
悠のお母さんは何か言いたそうにしていたが、部屋を出て行ってしまう。
俺は悠のお母さんの姿が見えなくなるまで謝罪をし続け、悠に目を向けるとすごい不機嫌な顔をしている。
夏「…ごめん。」
悠「夏くんは悪くないんだから謝らないで。そう言うの嫌い。」
夏「ご…、分かった…。」
俺はまた悠のベッドに座り、謝罪の言葉以外の言葉を探していると悠の肩が俺の肩に触れる。
悠「8月4日、10時の新幹線に乗るから。ちゃんと来てね。」
夏「…うん。遅刻しないようにする。」
悠「私も気をつける。」
俺は悠との次の約束はしっかり守れるように引っ越しをすることに決めた。
→ 黙れ




