12:00
少し肌寒く感じて目を覚ますと、真っ裸で腕と足を拘束されてしまった俺がいた。
しかも口にガムテープがつけられていて声を出しても外に届きにくくなっている。
俺は布団周りにあった携帯を探すが、ミサさんに盗られてしまったのか見当たらない。
「起きたぁ。」
俺の寝ている布団が擦れる音を聞いて台所からやっててくるミサさん。
その手には丁寧に盛り付けられた肉じゃが定食が乗ったお盆を持っていた。
ミサ「私の手作り。たくさん練習したんだ。」
ミサさんは俺を起こして口につけてたガムテープを外す。
夏「…あの、なんでこんなことするんですか?」
ミサ「優治は私のものだよ。他の女に触れさせない。」
淡い茶色のカラコンをつけた目がとても無機質に俺を見つめてきて恐怖を感じる。
夏「俺…、誰とも付き合ってないです。」
ミサ「今日デートしようとしてたじゃんっ!」
ミサさんは大声をあげてダン!と乱暴にお盆を置き、少し味噌汁が零れてしまう。
デート…?
そんな約束した覚えないんだけどな。
ミサ「優治、最近いろんな女とデートしすぎ。前は金髪のナミちゃんだけだったじゃん。」
…え?
永海のことなんで知ってるんだよ。
ミサ「1人くらいならって我慢してたけど、ここ最近金髪の子も入れて4人会ってたでしょ?ミサがいるのにひどい。」
ミサさんは勝手に泣き始め、煮崩れしていない肉じゃがを箸で自ら潰していく。
夏「…これ、取ってくれたらデート行きます。だから外してください。」
ミサ「…。」
ミサさんは目を赤くしながら俺を睨みつけ、手を動かすのを止めない。
ミサ「…なんで敬語なの?」
その言葉に俺はやらかしたことに気づく。
ミサさんにはいつもタメ語を使って距離を縮めていたんだった。
こんな風にされテンパってしまい、つい敬語で話してしまった。
夏「…知らないミサだったからびっくりしたんだ。ごめんね。」
俺は恐怖で思考がうまく回らない間も、出来るだけミサさんの前で作った俺を取り戻そうとする。
夏「ミサの肉じゃが食べたいな。俺、ほくほくのじゃがいも好きなんだ。」
回らない脳でミサさんと俺の距離を離す言葉を並べ、誘導する。
ミサ「…これしかない。」
ミサさんは自分の手元にある液体化した肉じゃがに目を落とす。
夏「う、うん。ミサの肉じゃがだったらどんなのでもいいよ。」
ミサ「そう?」
ミサさんは嬉し恥ずかしそうに照れる。
ここはいつも通りのミサさんだけど、本当にこの肉じゃが食べても大丈夫なのか?
俺は自分で言ってしまった嘘を後悔する。
ミサ「はい。あーん。」
ミサさんは何も構わず俺の口にドロドロの液体を入れて満足そうな顔をする。
俺は味の濃すぎる液体を吐きそうになりながらも1口食べ終える。
夏「美味しいよ。ミサも一緒に食べよう。」
ミサ「うん♡」
俺は少しでも食べないようにするためにミサさんと分けて食べる。
けど、ミサさんはこの濃い味付けになんの躊躇もなく食べ進めているのできっと味覚も壊れているんだろう。
最後にデザートのオレンジを食べていると、ベッドの下から携帯の着信音が鳴った。
ミサ「そんな所に隠してたんだ。どおりで見つからないわけだよ。」
と、ミサさんはベッドの隙間に手を伸ばし、携帯を取ろうとする。
その時、俺はミサさんの背中をふと見るとスカートのベルトに包丁が差し込まれているのが見えてしまった。
俺が無闇に大声を出して外に助けを求めたり、変な行動をしてたら刺されていたってことか…?
ミサ「んー…、取れないなぁ。」
携帯がベッドの奥に入ってしまってるのか苦戦してるらしい。
そんなことをしていると携帯の着信は消えてしまい、無音の空間になる。
ミサ「優治、立って。マットどかして取るから。」
夏「…う、うん。」
俺はミサさんに無理矢理立たされ不安定のまま、ぐらぐらとバランスを取っているとふと思いつく。
ミサさんがマットを上げる前に俺が寝転べば携帯は取られずに済むんじゃないか?
俺は思い立ったがすぐにベッドに飛び込む。
ミサ「え!?…何してるの?」
夏「ごめん。バランス崩した。」
ミサ「そっか。…まあ、後でいっか。」
ミサさんはそういうと最後のオレンジを自分で食べて食器を片付け始める。
…これからどうしよう。
携帯を取られなかったにしても、腕と脚を拘束された状態で包丁を持ってるミサさんに太刀打ち出来ない。
どうにかしてどちらかの拘束は取ってもらわないと誰かに助けを求めることは出来ない。
俺は皿洗いを終えて携帯で映画を一緒に眺めるミサさんと添い寝しながら考える。
夏「…ミサのこと抱きしめたいな。」
俺は映画に夢中になってるミサに聞いてみる。
ミサ「えー…?でも逃げるでしょ。」
夏「ううん。なんか寂しいなぁって。ミサからしか何も出来ないのって嫌じゃない?」
ミサ「うーん…。そうだけどやっぱりだめ。」
そう言うと、ミサさんはまた映画に目線を移し今の話はなかったことになってしまう。
このまま俺はずっとこの人に飼い殺しされるのか?
そんなの嫌だ。
せっかく熊谷さんが新しい生活の仕方を教えてくれたのに、またあの時の生活に戻るなんて。
俺は昔のことを思い出し、自然と息が荒くなる。
ミサ「…どうしたの?大丈夫?」
夏「…たすけて。ご…、ごめん、ごめんなさい…。」
俺は目をきつく瞑り、過去の記憶を取り除こうと必死に謝っていると口をガムテープで止められる。
俺は言葉を発せなくなったことに驚き、目を開けると包丁片手にミサさんが俺を膝枕して頭を撫でている。
ミサ「私がいるよ。」
お前じゃない。
俺が今1番一緒にいてほしい人は…
[ピンポーン…]
と、俺の部屋のチャイムが鳴る。
[コンコン…]
「夏くーん。寝てるー?」
悠だ。今日の昼にご飯に行く約束していたんだった。
ミサ「…嫌い。」
ミサさんが玄関に向かって足音立てずに向かう。
俺はその後を追うためにベッドから転げ落ち、這って向かう。
静かに開く鍵の音がした瞬間、古い扉が音を立てて勢いよく開き、ミサさんは悠のブラウスを掴んで俺の家に引き込む。
悠「…え?」
ミサ「1番嫌い。」
ミサさんは床に倒れこんだ悠の顔間近に包丁をガン!と勢いよく下ろした。
首を掴まれている悠は恐怖で声が出ない様子。
俺は口にガムテープを貼られた中、必死に声を上げているとミサさんは悠を拘束して部屋の奥に連れてくる。
俺と目があった悠は今にも泣き出しそうだったが必死に抑えている様でミサさんに下手な刺激をしないようにしていた。
ミサ「この子、嫌いなんだけど。」
ミサさんは俺を睨みながら殺意を訴えてくる。
俺は精一杯の声と力でなんとか体を自由にしようともがくが、頑丈に止められてしまった拘束には敵わない。
するとミサさんが俺の唇に人差し指を置き、静かにしろと言ってくる。
俺は叫びもがくのを止めるとミサさんは俺の口にあるガムテープを取り、話が出来るようにしてくれる。
夏「悠は関係ないから帰らせてあげて。」
ミサ「やだ。そんなことしたらミサのことバレるじゃん。」
そう言うとミサさんは持っていた包丁で悠の服を切り裂いていく。
逃げられない格好にして俺たちをずっと閉じ込めておくつもりなのだろうか。
悠の服は下着も切り裂かれて全裸に近い格好になってしまうが、悠はさっきの涙は引っ込み無心の顔をして床を見つめている。
ミサ「お胸も大きくて、くびれにちょこんとホクロがあるなんてアニメの子みたいな体だね。」
ミサさんは悠に話かけるがガムテープを口元に貼られている悠は何も答えず、床を一点に見つめて無視を決め込む。
ミサ「ねぇ…、無視してんじゃねぇよ。」
とんっ、と悠の腹に包丁の切っ先を当てるミサさん。
夏「やめろ!…ミサ、こっち来て。俺と一緒にいたいんでしょ?」
ミサ「けど、この子邪魔なんだもん。」
持っている包丁のドアノブのようにねじり、悠の腹に突き立て傷をつける。
悠は痛みで顔が少し歪み、声を必死に抑えて耐えている。
夏「人に怪我させる人は好きじゃなくなる。ミサはそんなことしないでしょ?」
ミサ「…。」
夏「ミサ、こっち来て。俺の好きなミサでいて。」
ミサ「…うん。」
ミサさんは包丁を背中のベルトに差し込み、俺をベッドに引き上げて一緒に横になる。
夏「一緒にお昼寝しよっか。」
ミサ「うん。」
俺は目を瞑り、ミサさんの呼吸に合わせて寝たふりをしばらくの間することにした。
→ Break My Heart Myself




