22:00
「またね。」
俺はアカネさんに手を振りながらその背中を見送り、事務所に戻っているととても楽しげなお兄さんたちの声が俺が曲がる予定の角から聞こえる。
俺はダル絡みされないよう、少し先の角に向かおうと足を進めていると目の前に後ろ向きで歩く男性が出てきた。
「「「ハッピーバースデー!!」」」
と、その人めがけて数人がクリームパイを投げ、俺に流れ弾が1つ当たる。
「やっべぇ!お兄さんごめんね!」
「だから言っただろ!?」
「お兄さんマジごめん。俺の肩が狂った。」
「ヒロキ、タツミの替えの服持ってきてただろ?」
「あ、そうだった。」
「え!?俺のは?」
「あとで買いに行くから。」
「ごめんね、これ使って。」
と、本日の主役とデカデカと書かれたシャツを渡される。
夏「…あ、家ここから近いんで大丈夫です。」
「いいんだ、いいんだ。あとクリーニング代、これでで足りるか?」
ぐっとダサいシャツの上に1万円を置かれ、俺の腕を畳む男性。
夏「気にしないでください。」
俺が返そうとすると、残った金で美味いもんでも食って太れと言われ、去って行ってしまった。
俺はため息をつきながら、とりあえず貰ったシャツで顔や服に付いたクリームを取りまた歩き出す。
普通だったらこんなことされたら怒りで腹が煮えくり返って仕方がないと思うけど、今の俺はぐっと寂しさを堪える。
顔にクリームをつけたのはこれで2回目。
莉李の手作りで全く甘くないイチゴの白いケーキを食べさせてくれた時、ふざけてつけられた。
あの日は俺の誕生日で高校近くにあった俺の家に莉李が来てくれた。
俺は家族ではない人から初めてプレゼントを貰ったことが嬉しくて泣いてしまった恥ずかしい日でもある。
あの日、莉李がくれたのはお揃いの時計。
莉李によるとカスタムオーダーをして、裏面に俺の名前を掘ってもらったとのこと。
莉李と俺の秒針は同じ赤色の秒針で、短針は鈴の音が聞こえてきそうな莉李の好きな金色、長針は俺がいつも目を惹かれる星がある場所の銀河をとって銀色にしたという。
その時計には莉李と俺が詰まっているように感じてすごく感激して、毎日つけていた。
けれど、会わなくなってから1ヶ月。
つけていると莉李の事を思い出して涙を流す期間を乗り越えてから、ふと目をやると時計の針はずっと動かないままになっていた。
この間、家の片付けをした時もまだ動かないまま。
ただの電池切れなのかもしれないけれどこの時計が動くのは俺が莉李との思い出を克服出来た時、自分で時計屋に行って直してもらおうと決めている。
今も家の押入れの中でしっかりと貰ったケースに鍵をかけて保管してある。
その様子が昔も今も変わらない莉李への気持ちの表れなんだなと思う。
最近、莉李への思いがぶり返してしまっていて克服どころではないけれど、この気持ちが落ち着く頃にはどこかで出会えたら嬉しいな。
→ Never Grow Up




