12:00
俺は永海と朝活をした後、愛海に学校に呼び出された。
愛海「昨日ぶりー。」
と、ひらひら手を振りながらハンバーガー片手に貸し出している教室に俺を入れる愛海。
夏「俺、入っていいの?」
貸し出し教室は学校が大切にしている匿名を守るために使われる教室。
長期休み中はいろんな生徒がここを借りて自分の絵に集中し、技術を高める。
だから他人の作品に目を触れてしまう可能性があるから、人を呼ばない決まりがある。
愛海「いいんだよ。今日はデッサンしてただけだし、気にしないし。」
見るとスケッチブックとえんぴつが床に転がっていて、いつもの様子が伺える。
夏「また寝転がって描いてたんだ。」
愛海「集中できるからな。」
愛海は隣の椅子を叩き、俺を座らせてるとアップルパイをくれた。
俺はお礼を言って食べていると愛海は自分のハンバーガーに目線を落としたまま聞いてきた。
愛海「夏って永海とはどうなの?」
俺はその言葉に驚き、口元からあつあつのアップルパイの中身が飛び出そうになる。
夏「…どうもないけど。」
愛海「ふーん。」
愛海は何かを考えながら相槌をする。
愛海「じゃあ、悠は?」
夏「…何もないけど。」
愛海「ふーん。」
愛海は何かに気づいてるのか、それとも気まぐれで聞いているか分からない。
夏「なんで?」
愛海「この間、悠がダサいシャツ着てた時会ってただろ?」
夏「え…?うん。」
あの日のことは瑠愛くんと悠しか知らないはずなんだけどな。
愛海「たまたま見かけただけなんだけどさ。2人が手繋いでたからどうなんだろうって。」
ああ、そうだったんだ。
だったら質問されてもしょうがないか。
夏「手繋いでたっていうか、連れまわされたって感じ。」
愛海「…なるほどなー。今日の朝活は?」
夏「永海と暇電してた時に誘ってくれた。」
愛海には朝活のこともなんでも筒抜けらしい。
夏「沙樹も誘おうと思ったんだけど…」
愛海「気にすることないだろ。誘ったのは永海なんだから。」
俺は愛海の言葉に心の重りが少し軽くなった気がした。
この間から沙樹の事を変に気を回していたからか、気疲れしてる体のだるさを感じていた。
愛海「沙樹が永海の事を好きなのも知ってるし、永海が誰を好きなのかも知ってる。」
夏「え!?そうなの?」
愛海「まあな。けど、その好きな相手ってちょっとした事で変わっていくからどっちにも伝えてない。」
愛海の秘密主義はここまで来たかと尊敬していると、愛海はハンバーガーを食べ終えて残ったポテトをつまむ。
愛海「夏はいろんな人とデートしてるっぽいけど、本命いるのか?」
愛海は俺の目を見て聞いてきた。
夏「デートは元彼としかしてないよ。」
愛海「ん?この間の人とか、たまに街で見かけるのは?」
夏「…え?」
愛海「俺、結構夏のこと見かけるんだよ。俺もいろんな人とデートしに行ってるからさ。だから誰が本命なのか気になって聞いてみた。」
俺が気づいてないだけで愛海は俺の仕事姿を見てたのか。
俺はなんて言葉を作ればいいのか分からなくて悩んでいると、愛海がポテトを俺の口元に近づける。
俺はそのまま食べようとすると、愛海は意地悪をして寸前で手を引き自分の口に放り込む。
愛海「俺の本命は美未。この間、祭りで会った子な。」
夏「…本命がいるのになんで他の人とデートするの?」
愛海「俺が本命でも、美未の本命が俺とは限らないだろ?」
夏「え?美未さんって愛海の彼女じゃ…」
愛海「じゃない。今まで出会ったきた中で1番好きな女ってだけ。」
その言葉に俺は少し寂しく感じた。
愛海「恋人ってさ、『付き合おう』『はい』って契約を交わしてなるわけじゃん。けど世の中には告白はしないでそのまま流れで恋人っぽくになるやつらもいる。」
自分のことを言われているようで少し胸が痛い。
俺は莉李にちゃんとした告白はしたことがなかった。
けど、手を繋いだり、キスもしたり、恋人とすることは大半してきた。
大切と思えるから一緒にいたいってことが多分恋人になる1番の目的なのかなと俺は思っている。
愛海「流れで恋人になると、別れる言葉もないままただいなくなるだけでいいんだよ。
もともと縛りのない付き合いだった訳だし、恋人っていう契約を交わしてる訳じゃないからさ。」
最後に莉李とデートした時、いつもの笑顔をした莉李はそこにはいなくてたくさん遠回りをして家に帰った。
そこで俺は気づくべきだったんだ。
莉李がなにを求めていたのかを。
…いや、俺は気づいていたけど言葉に出すのを辞めたんだ。
その1歩が莉李に嫌われてしまう1歩になってしまうかもしれないと思ってしまって、心の中にとどめてしまった。
いつもそうだから肝心なことは言えず、莉李は俺に愛想をつかしてどこかに行ってしまったんだと思う。
愛海「美未はすごい夢を叶えるために今必死に頑張ってんだ。俺はそういう美未が好きで少しの間でも一緒にいたいと思える。その時間が今の俺の幸せでもあるんだ。」
俺もそうだった。
大切に思ってる莉李と一緒にいられればなんでも楽しかったし、全ての景色が色鮮やかに萌えて新鮮に感じた。
愛海「けど、俺は美未の枷にはなりたくないから想いは伝えない。俺のせいで夢を投げ出したら美未の一生で1回きりの人生後悔させちゃうからさ。」
夏「…でも、愛海は後悔しないの?」
俺の言葉に愛海はびっくりした表情をしたあと、美未さんを思ったのか優しい笑顔になる。
愛海「後悔はする。後悔しない人生を送るなんてこと人間で生きる限り無理だと思う。
だから俺は今この時を1番楽しめればそれでいい。」
俺はその言葉が自分に言われてるようでぐっと心に刺さった。
あの時、あの時間を1番楽しんでいたのは俺と莉李で、その時を楽しむのに一生懸命だった。
あの時、あの瞬間、あの莉李に俺がちゃんと“好き”って言葉を渡せていれば、もしかしたら俺の前からいなくならなかったかもしれないと何度も後悔した。
けど、何度そう考えたって莉李といられた時間は戻ることはないし、莉李とまた会える保証もない。
そんな辛い後悔を受け入れようと考える愛海の本音はどうなんだろう。
そう思うけど、また1歩を踏みだす勇気はない。
また俺は変われない。
夏「…好きって伝えられるうちに言ってあげようよ。」
今の俺が伝えられる最大限の言葉。
愛海「好きは…、美未には言えないかな。」
愛海の笑顔には少し悔しいのと寂しそうな表情が混じっていてどうしても伝えたいと思っていても、美未さんのためを思って言葉を留めていることが分かる。
夏「俺は今でもいっぱい後悔してるから、愛海にはそうなってほしくないなって思っちゃった。」
愛海「…ありがとう。少し、考えてみる。」
俺は仕事に行く時間になり愛海と別れたあと仕事に向かう道すがら、いないはずの莉李の姿を人混みで探してしまった。
→ 琥珀色の素肌




