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ひと夏の恋  作者: 環流 虹向
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22:00

「見つからないね。」


と、はぐれないように握っていた俺の人差し指を少し強く握る悠。


付かず離れずで見守っていた沙樹と永海だったけど雨が降り出した瞬間、少し目を離してしまったばっかりに見失ってしまった。


夏「祭り最後の日で人が多いし、雨が降って足元悪いから俺たちにみたいにどこかで雨宿りしてるのかも。」


2人で探し回っていたけれど、悠が鼻緒で足を痛めてしまったので木陰にある少し湿った大きい岩のようなベンチに座って人の流れを見ながら沙樹と永海を探す。


俺は雨で少し濡れてしまった浴衣の袖に目を落とし、色落ちしていないか確認する。


せっかく天ちゃんに作ってもらったのに雨ざらしにしちゃって申し訳ないな。


悠「2人、見つからなかったらどうしよう。」


夏「携帯があるはずだからそんなことないと思うけど…。」


けれど、さっきから何度か電話をかけても2人は出ることがない。


それほど何かに気がとられているって事だろう。


俺は買ったサイダーを飲みながらまた人混みに目を戻す。


悠「…夏くんは、好きな子いる?」


と、唐突に悠は恋話を振ってきた。


夏「今のところは…、いないかな。」


突然すぎて俺は正直になれなかった。


悠「会いたいって思う子はいる?」


夏「…いるかな。」


そっか、と言って悠はまだ雨音が少しする葉の天井を見上げる。


悠「会いたいって思ってもなかなか会えないのってなんでだと思う?」


夏「…相手が忙しいとか、連絡が取れないとかかな?」


悠「んー…、私は相手が自分より会いたいって思ってないから会えないと思うんだ。」


このベンチには雨が当たっていないはずなのに、悠の目元には雨粒が付いていて悠が1言放つたびに頬をつたっていく。


悠「忙しいけど会いに来た。携帯無くしちゃって連絡取れなくて焦ったよ。…って言ってほしいけど、そんな言葉1度も貰えないんだ。」


夏「…彼氏さん?」


悠「うん…。このお祭りだって一緒に行きたいってメッセージ送ったけど、今日まで無視されたままだったの。でもちょっとの期待はしちゃうからさ、顔パックも良いトリートメントも体のマッサージも入念にしてきた。けど、やっぱり来れないんだってさ。」


悠の目にいつも綺麗に引かれているアイラインは雨粒で落ちていき、残ったのはマスカラで長くなったまつげだけになってしまった。


夏「なんで別れないの?」


悠「ずっと一緒にいたいねって言ってくれたから信じてる。」


夏「…その時、思っただけじゃない?」


俺は俺らしくない言葉を口走る。

けど、その男の様子だと悠は幸せになれない。


俺の言葉を聞いた悠は大粒の涙を流し始めてしまった。


夏「ご、ごめ…」


悠「うん。…分かってるよ。」


悠が振り絞って声を出す。


その声は悔しそうだったけれど、俺の言葉を信じたくないような感じがした。


悠「…つまんない嘘つく人、嫌いなの。」


夏「…うん。」


悠「上っ面の関係を保つために嘘を言うのも、人と関係を保つために腐った嘘を言うの意味が分からない。」


俺の人差し指を握る悠の手が力強くなる。


悠「嘘つかれるのが嫌だから、…全部信じたいの。」


悠は自分の袖元で涙を拭いて俺と目を合わせる。


悠「たくさんの人が自分に都合のいい嘘を言うのに、なんで夏くんは人のために嘘を言えるの?」


俺はその言葉にすぐには答えられなかった。

自分でもなんでそうしてるか分からない。


でも、自分の言葉や行動で傷つけてしまう人が出てきてしまうのであれば、ちょっとした嘘をついてもいいのかなって思ってしまっている。


悠「…まあ、言いたくないならいいや。」


悠はため息混じりにそう言って涙を止める。


悠「そういう夏くん、私は好きだよ。」


と、言って悠は立ち上がり、少し人混みが収まった祭り会場に足を進めようとする。


そんな悠の腕を俺は引き、その足を止める。


悠「…どうしたの?」


夏「いや…、えっと…。」


俺は今の仕事を始めてからいろんな人たちに関わってきた。


その中で束縛や執着をとても嫌ってお客さんにもある程度の距離感は保ってきた。

それは今の学校生活にも影響していて、沙樹にも愛海にも永海にも、そして目の前にいる悠にも1歩踏み出して言葉をかけることが出来なかった。


けど、みんな自分から俺に歩み寄ってくれていた。


それなのに俺は自分の足を動かそうともせず、近寄ってきてくれたから俺も思っていたことを少し話そうと言う気分になっていた。


だけど、いつもまでもそんなんじゃ莉李と同じようにみんないつかは離れてしまいそうで怖い。


みんな俺のためにたくさん嬉しいことをしてくれているのに、自分は1度だって歩み寄ってくれるのを待っていた。


秘密は秘密。


だから掘り下げる必要もないと思っていたけど、この人をもっと知りたいって気持ちはどこにも捨てられなくて後悔ばかり。


けど、どんな形であれ俺のことを好きと言ってくれる人に出会えたのならその人には踏み込んでみようと今は思うんだ。


夏「…いつでも相談のるから、変な人についていかないで。」


そう言うと、悠は目をまん丸にして驚いた顔で俺を見つめる。


夏「俺でも、瑠愛くんでももっとみんなに頼って。寂しい時は呼んで。」


悠「…いいの?」


夏「いいよ。会いたいって思ったなら連絡ちょうだい。」


悠「うん。そうする。」


悠は嬉しそうに笑いながら俺の手を取り、人混みの中へ俺を連れて行く。


その向かう先には綿菓子屋の下に雨宿りしている沙樹と永海がいた。


俺が気づかない間に悠は見つけてたらしい。


悠は俺が2人を見つけたのを確認すると、手を離し2人の元に駆け寄っていた。


2人を見つけて嬉しそうにする悠だけど、本当は彼氏と祭りに来たかったんだなと思うと俺は胸が痛くなり寂しいと言われたらちゃんと側にいてあげようと決めた。





→ わたがし

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