12:00
樹璃ちゃんとカラオケ屋に来てから俺はどんなにうるさかろうが眠気には勝てずに固いソファの上で眠りについたが、お尻が痛くて目を覚ます。
すると俺の脚の間に樹璃ちゃんがいて脚の付け根に頭を乗せ枕代わりにしながら、携帯をいじっていた。
夏「…なんで、俺のこと枕にしてるの?」
俺が声を出すと驚いたのか、顔に携帯を落とす樹璃ちゃん。
大丈夫か聞きながら俺は体を起こすけど、樹璃ちゃんはまだ俺の事を枕にする。
樹璃「なんか…、したいなって思って。」
まあ、このくらいはいいかと思いテーブルに置いてある氷が溶けきったオレンジジュースを飲み、水分補給をするとコップに付いていた水滴が樹璃ちゃんの頭に1粒落ちる。
夏「あ、ごめん。びっくりしたよね。」
樹璃「ううん。気にしないです。」
少し気まずい空気が流れ、時間を確認するとお昼を少し過ぎた所。
夏「お金出すからここでご飯食べよっか。」
樹璃「…いいんですか?」
夏「いいよ。好きなの選んで。」
俺はメニュー表を取り、樹璃ちゃん渡すとそのまま食べたい物を選び始める。
しばらくすると樹璃ちゃんは力尽きたようにメニュー表を自分の顔に置き、動かなくなる。
俺は樹璃ちゃんが何をしたいのか分からないでいると、樹璃ちゃんが話し始めた。
樹璃「…夏さん。相談乗ってもらっていいですか?」
夏「え?…いいよ。」
樹璃「今日、好きな人に誕プレ買ったじゃないですか。」
夏「うん。」
樹璃「私の好きな人って、…年上の人で月に数回会う程度の仲なんです。」
夏「学校の人ではないんだ?」
樹璃「…はい。マッチングアプリで出会った大学生です。今は21歳で就職活動始めるらしいです。」
俺はまさかの出会いに驚きながらも話を聞き続けた。
樹璃「出会ってから2年間、映画見たりドラマ見たり、恋人ごっこしたりして過ごしてきたんですけど、ついこの間その人の友達が家に押し入って来ようとして…。」
樹璃ちゃんの声がだんだんと震えて、メニューに触れていた手が力強く握りしめられる。
樹璃「私は部屋の隅に隠れて、その人は慌てて玄関に行って、『妹が来てるから今は遊べない』って言って追い返してたんですよね。」
苦しそうに出来事を吐く樹璃ちゃんは少し息をしずらそうにしている。
樹璃「分かってるんです。高校生と大学生がそういう仲になってるのは犯罪なんだって…。でも、家族には与えてもらえない恋愛上でのその人の優しさが嬉しくて会うたびに好きになっちゃうんです。」
夏「…デートはずっとおうち?」
樹璃「はい。プリクラ撮りたいなってお願いしたり、映画館で映画見たいって言っても『いいよ』とは言ってくれるけど、連れてってはもらえた事ないです。」
夏「そうだよね。バレたらその人捕まっちゃうもん。」
樹璃「それでも、会いたいって言われるのが嬉しいし、一緒にいる時嫌なこと全部忘れられるぐらい幸せなんです。」
でも…、と樹璃ちゃんは小さく呟く。
樹璃「ここ最近、自分と同じようなことしてる人がいるのか聞いてきたり、自分のこと好きなのか聞いてきたりしてずるいんです。」
夏「ずるい?」
樹璃「自分は好きって言わないくせに私だけに好きって言わせるのがです。」
樹璃ちゃんはメニュー表を顔からどけてよれたアイラインを見せてくる。
樹璃「男の人ってなんで女に好きって言わせたいんですか?」
と言われ、俺はいつものようにすぐに答えを返せなかった。
俺は好きと言う言葉が嫌いだ。
俺は相手のことをいいなと思うだけで好きと言う言葉を口に出したことがない。
自分のお気に入りを作るとなくなってしまった時にとても辛くなるから。
だから相手にもあんまり言わせたくなかった。
俺が相手にとって嫌なことをして裏切ってしまうような行動をしてしまった時、その人の好きの言葉は後悔するものになってしまうから。
だから、俺は好きの寄せ集めはしたことがない。
でも、周りの人たちは平然と好きと言えて自分の想いを伝えようと必死になれることが少し羨ましくも思えた。
それだけ相手のことを“好き”でいられるってことはきっと愛があるんだろうと思う。
けど、俺は好きと言われながらも寂しい思いをしてきたから、みんなの好きを上手には受け取れなくて本当に嫌な人間だなって思ってしまう。
だから男も女も関係なく、自分の好きを言わないで相手にだけに言わせるのは俺にとって自分に対する愛を塗り固めようとしてるだけに感じてしまう。
それで自分は満足して相手の“好き”の言葉の破片はそいつの物になって、渡したその人自身はその穴を埋めようにも埋めきれない。
だから俺は好きと言う言葉は嫌いだ。
夏「樹璃ちゃんからの“好き”が欲しいだけで相手はその言葉で自分の心を満たしてるだけだよ。男女関係なく、そういう人はいるよ。」
樹璃「…私も“好き”が欲しいです。」
夏「…辛いこと言うけど、その人から“好き”は貰えないと思う。貰えたとしても、樹璃ちゃんを満たしてくれない“好き”だよ。」
そんな自分本位の人からの好きと言う言葉を貰った所で、もっと泥沼に浸かってしまってなんとか抜け出しても泥は体にへばりついたまま長い間落とせないだろう。
だから好きを貰う前にその人から逃げ出してほしいと思ってしまうけど、好きになってしまったら論理的な話で済む訳がない。
自分でその人から離れようと心に決めないとずっと離れられない。
夏「恋人ごっこは恋人になれないからするんだよ。…もうごっこ遊びやめよう?」
俺は樹璃ちゃんのよれたメイクをハンカチで丁寧に取り、樹璃ちゃんが我慢してたものをたくさん流せるようにする。
樹璃「…寂しい。」
夏「寂しくなったら俺のこと呼んで。ゆっくりその人と離れよう。」
樹璃「…いいんですか?」
夏「俺はプリクラも撮れるし、映画館も一緒に行くよ。友達として。」
樹璃「ありがと…、ございます…。」
俺は涙を流す樹璃ちゃんにハンカチを渡して、思う存分枕代わりをする。
寂しくなるのはどんなに小さい時からあるみんな共通する感情だから、そう思ってしまう時の拠り所に俺はなるべくなってあげたい。
一緒に寂しさの埋め合いをして少しでも自分がなくならないようにするために俺がいる。
樹璃ちゃんの好きのカケラがなくなった寂しさの穴は俺が少しでも埋められるようにするよ。
俺は樹璃ちゃんの気持ちが落ち着くまで一緒にいるのとにした。
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