22:00
仕事で初めてマサキさんの家に行き、扉が開くとマサキさんは昨日の服を着たままでボサボサの髪にまぶたがぱんぱんに腫れていて昨日見送った人とは別人だった。
マサキさんは俺に話ただ聞いてほしくて呼んでくれたらしいけれど、思い出すたびに涙が溢れてきて全く話が聞けないで何時間も経ってしまった。
俺が思っていた以上にマサキさんはその子の事が好きだったらしく、どうしても今日は仕事に出られるメンタルではなくて従業員に店を任せてしまったらしい。
少し嫌なことがあっても平気と言って、はねのけていたマサキさんが今回だけは本当に自分の選択があってたのか悩むほど落ち込んでいる。
俺は買って来ておいたココアを温めてマサキさんにあげる。
マサキ「あり…、がと。」
マサキさんは鼻をすすりながらココアを少し飲んでまた膝を抱えた。
夏「時間はいっぱいあるからマサキさんが言えそうな時に教えて。」
マサキ「…うん。」
マサキさんは何度もその子と映画館に行ったまで話すけど、その先からが聞けなかった。
きっとその時にマサキさんはその子に嫌われるように頑張って自分を演じだんだろう。
俺は全身でマサキさんを包み込んで少しでも辛いのを取り除こうとするけれど、ただ買われただけの俺にはそんな役目は果たせなくて水分補給と涙を拭いてあげることしか出来ない役立たずな人形でしかなかった。
それから何時間経っただろうか。
ずっと抱きしめていたマサキさんは泣き疲れて寝てしまい、俺の肩を枕代わりにして涙を流したまま寝ている。
この体勢だと寝ても首を痛めてしまいそうだから横にさせてあげようと、そのままベッドに寝転がるとその動きで目を覚ましてしまったマサキさん。
夏「…ごめんね。寝てたから横になろうと思って。」
マサキ「ううん…。ありがとう。」
マサキさんは腫れて開きにくい目を静かに閉じて、映画を見終わったあと何があったかゆっくりと話し始めた。
マサキ「…私が好きな人出来たかをその子に聞いたらね、両手で私の手を掴んで『ずっと姐さんが好き』って言ってくれたの。
その温かい手と少し潤んで寂しそうな目でまっすぐに私のことを見るその子を見て、その子ことをもっと好きになった夜を思い出して私も好きって言っちゃったの。」
目を瞑りながら止めどなくマサキさんは涙を流す。
俺はマサキさんの涙を拾いながら話を静かに聞き続ける。
マサキ「その子、昔の私に似ててどうしても放って置けなくて…。嘘をついちゃうと壊れてしまいそうだったから私の思ってる本音は全部伝えた。けど、そんなことしたら離れてくれないでしょ?」
夏「…うん。そうだね。」
マサキ「だから、自分のけじめって思って最後に嘘ついちゃって、もう会いたくないって突き放してきっちゃった…。」
マサキさんは俺の腕枕にしがみつき、その子ともっと一緒にいたかったと呟く。
夏「もしかしたら会いにくるかもよ?」
マサキ「…私の家は知ってるけど、優しいから来ないと思う。」
夏「お店は?」
マサキ「来るかもしれないけど、私来月から新店舗始めるからそっちによくいるようになる。」
夏「その子にはそのこと黙ってたんだ。」
マサキ「うん。しっかりオープンした時に伝えようと思ったけど、…伝えずに終わっちゃった。」
マサキさんはあの事さえなければ、体の事を隠さずにその子とずっと友達でいれたかもしれないと自分の過去に起きた事件を悔やんでまた涙を流した。
他人の欲求を満たすための道具としてマサキさんは昔扱われて、トラウマになってしまうことをされた。
マサキさんの同意なくされたその行為は今のマサキさんまでずっと傷つけている。
時間が経ってもどうしても消えてくれない傷がその子との関係性を大きく変えてしまった。
どんなに悔やんでもその過去が変えられる訳ではない。
そのまま抱えていくか、捨てるか、塗り替えるか、自分の今の行動でなんとかしないといけないけれど、そんな簡単には出来る訳もなく悩んで涙する。
自分勝手な人間が楽しんで、これだけ優しい人が涙を流すなんてこの世は本当に気色悪い空間だ。
優しい人だけが優しい人と出会えればこんなことにはならなかったのに、人生って残酷だよな。
俺はその子の代わりになれないけど、優しい人はちゃんと大切にするからたくさん頼ってね。
俺はマサキさんの頭を撫で、体を抱きしめながら一緒に眠りについた。
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