22:00
俺は次の予約客の名前を見て絶望する。
社長のナツメさんからの指名でまたあのマンションに呼び出されてしまった。
俺は昨日のことを思い出し、鳥肌が治らなくて体を抱き込んでソファーに寝ていると額に温かい手が触れられてることに気づく。
目を開けて顔を上げると、瑠愛くんが心配そうな顔で俺のことを見ていた。
瑠愛「どうしたの?調子悪い?」
俺は瑠愛くんに昨日起こったことを説明すると、瑠愛くんは真剣な表情をし始める。
ここの店で社長の話をまともに聞いてくれるのは瑠愛くんしかいないから、こういう時いつも心が救われる。
瑠愛「…多分、バレてるね。」
と、瑠愛くんは眉をひそめ、何か考えながらそう言った。
夏「昼職してるって嘘ついてたのに…。」
瑠愛「しかも就活生だもんね。社長は気に入った子を自分の手元に置きたがるから今日はその日なのかも。」
夏「…そんな怖いこと言わないでよ。」
瑠愛「ごめん。だけどあいつそう言う奴なんだ。」
と、瑠愛くんは先輩の話をしてくれる。
その人はツツミさんと言って今は新事業の店長を任されている経営者になっているらしいけど、その新事業はグレーゾンの銭湯。
俺が合宿でいない間、この店に来て引き抜きに来たらしい。
だから月末に急に辞める先輩3人がHPに載っているんだと瑠愛くんが教えてくれた。
ツツミさんは社長のお気に入りになる前はあまりお客さんを取れないキャストだったらしいけど、社長と出会ってからはだんだんとNGが減っていって最終的にはなんでもこなすスーパーマンになったらしい。
瑠愛くんもそのスーパーマンになろうかなと思ったらしいけど、数年前にツツミさんと社長の交わりを直に見てNG以上のことをしないといけないと分かり、スーパーマンになるのを辞めたと話してくれた。
だから瑠愛くんは、ある程度生活出来るお金を作って店からいなくなる準備を始めてるらしい。
夏「俺もなりたくない。」
俺は小さい声で瑠愛くんだけに届くように言う。
瑠愛「…ここ辞めて別の店、一緒に行く?」
夏「うん…。稼げるとこ、あるかな?」
瑠愛「んー…。社長の顔、広いからこういう系の仕事は見つからないかも。」
夏「…どうしよ。学費もあるし。」
瑠愛「…俺、起業しようかな!」
と、瑠愛くんは突飛なことを満面の笑みで言った。
夏「どんな仕事?」
瑠愛「優くんは稼げるならこういう仕事でもいい?」
夏「嫌なことされないなら、なんでも出来る。」
瑠愛「うん。分かった。…準備出来るまで我慢できそう?」
夏「…どのくらいかかりそう?」
瑠愛「早くて10日、遅くて今月中かな。」
瑠愛くんは話をしながら携帯で何か文字を打ち始めた。
経営について調べものをしているのだろうか。
夏「じゃあ、俺も今月で辞めようかな。」
瑠愛「辞めるんじゃなくてフェードアウトの方がいいよ。変に勘ぐられると面倒臭くない?」
夏「…確かに。」
瑠愛「8月末にはしっかり辞めれるようにするからそこまで頑張って。」
瑠愛くんは立ち上がり、誰かに電話をしに庭に出て行った。
俺は携帯のスケジュール表を見てシフトを削ろうと思い、携帯画面を見ると車が来るまであと5分の時間になっていた。
俺は慌てて準備を始め、終わる頃ちょうど帰ってきた瑠愛くんに別れを告げて社長の待つマンションに連れていかれた。
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