22:00
3人でご飯の時に悠が俺の源氏名に合わせて『優くん』と瑠愛くんの前で呼んでくれた。
その言い慣れ方がとても自然に感じたのか、瑠愛くんは源氏名の“ゆう”は本名なんだと勘違いするほどだった。
その後、悠と瑠愛くんは意気投合してそのまま2軒目に向かった。
俺は瑠愛くんに悠を出来るだけ1人にしないであげてほしいとお願いして仕事に向かった。
これから向かうのはマサキさんが予約したホテル。
今日はお泊りだからいつもより広いホテルにしたっぽい。
俺はマサキさんが待つ部屋のインターフォンを鳴らして扉を開けてもらう。
マサキ「急だったのに予約取ってくれてありがとう。」
夏「うん。マサキさんとたくさん一緒にいられるの嬉しいよ。」
俺は部屋に入り荷物を置いてマサキさんが買ってきてくれたオレンジジュースとおつまみを食べる。
夏「朝までマサキさんといられるなんて思わなかったなぁ。」
マサキ「…ちょっと相談したいことあって。」
夏「ん?そうなの?」
マサキ「うん…。」
悩み事はたまに聞いていたけど、こんなに改まって言われることは初めてだ。
夏「いつもみたいにマッサージしながら?」
マサキ「んー…、終わってから。」
だいぶマサキさんの顔付きが暗い。
俺はマサキさんの側に寄ってそのままベッドに寝そべり、腕枕をしながら話を聞くことにした。
マサキ「…絶対ね、優くんに相談することじゃないとは思うの。」
夏「俺はなんでも聞くよ。どうしたの?」
俺はマサキさんの手を優しく握り、絡める。
マサキ「あのね…、好きな子がいるの。」
俺はマサキさんの初めての恋話に驚く。
他人の恋を応援する話は色々と聞いていたけどマサキさん自身は初めてだ。
夏「いいね。楽しそう。」
マサキ「でもその子、女の子が好きだから…」
夏「マサキさんも女の子でしょ?」
マサキ「見た目はそうでも、体は違うでしょ?」
夏「…うん、そうだね。」
俺が気にしていなくても、マサキさん自身その事を気にしていてその子に対して素直になれないらしい。
マサキ「その子には絶対に本当の私を知られたくないの。」
夏「…好きなのに?」
マサキ「好きだから私のこと知って離れられたくない。」
マサキさんが目尻から温かい涙を流し、俺の腕に落とす。
その涙は落ちてもずっと温かく感じ、マサキさんの心の粒が流れてしまったかのようだった。
夏「でも俺に相談するってことはなんかあったって事だよね?」
マサキ「…うん。その子にキスされたの。」
夏「…ほっぺ?口?」
マサキ「首。」
首はマサキさんの1番弱い所。
それを知っててその子はやったのか?
夏「その子もマサキさんのこと好きなんだ?」
マサキ「うん。その子いっぱい告白してくれてるけど、頑張って断ってるの。」
俺はその時、ある1人のことを思い出した。
その子も一途に想っているからそんな心配ないと思うんだけどな…。
夏「…一緒にいたいのに断っちゃうの?」
マサキ「だって…、絶対嫌われるもん。」
マサキさんの想いと大粒の涙が溢れ始めてしまい、俺はマサキさんの頭を抱き寄せる。
夏「大丈夫。マサキさんはすごい素敵な人だもん。嫌われないよ。」
マサキ「女の子だと思って脱がしたら男だったって恐怖じゃん…。」
夏「うーん…、びっくりするけど怖くはないよ。」
マサキ「優くん、嘘つき。」
夏「俺と初めて会った時のこと忘れちゃったの?」
マサキ「…覚えてる。」
鼻水をすすり始めたマサキさんの鼻にティッシュを持っていき、鼻水を出させてゴミ箱に投げ捨てる。
夏「俺のことを初指名してくれたマサキさんは会う前から好きだったんだ。あの時、俺が不慣れでカウンセリングシートをまともに見ずに施術入ちゃって、マサキさん脱がせちゃったの本当に反省してる。」
マサキ「いいよ。本当は私、この店使っちゃだめだもん。」
マサキさんは当時のことを思い出したのか、笑顔になる。
夏「マサキさんのような人もこのお店を使ってくれるんだと思って張り切ってやったら、俺の施術で気持ちよさそうにしてくれたのがすごい嬉しかった。」
マサキ「おしゃべりするだけだと思ってたから毛の処理してなかったの恥ずかしかったな。」
夏「気にしないよ。マサキさんが満足してくれるなら呼んでくれる限り、俺はマサキさんの専属マッサージ師になる。」
マサキ「…ありがとう。」
夏「だから俺の時みたいに思い切って脱いでみればいいよ。」
マサキ「えー…?」
さっきの笑顔から一転、不安げな顔をするマサキさん。
夏「それかその子の想いを思い切って断ち切っちゃうか。」
マサキ「んー…。」
夏「そうしないと2人とも苦しいままだよ。好き同士でも一緒にいられない理由があるならそういう巡り合わせだったんだよ。」
なんだか自分で言ってて悲しくなってきた。
莉李とは一緒にいられない理由なんかなかったはずだけどな…。
あの時、莉李は俺の事を好きではなくなってたのかな。
マサキ「…会えなくなるの嫌だな。」
夏「それかその子に別の好きな子を用意しないとだね。」
マサキ「そんな簡単に言わないでよ。」
夏「でも自分のこと知られたくなかったら目を背けてもらうしかないよ。」
マサキ「…そうだね。」
夏「その子とは友達になりたい?恋人になりたい?」
マサキ「…まだ分からない。」
名称だけの関係は人の思いと行動次第で崩れるから、どういう風にこれからもその子と一緒にいたいかを具体的に考えないとダメになってしまう。
人の思いは生きている限り移り変わってしまうものだからしょうがないけれど、一緒にいたい時に一緒にいられればいいなと俺は思うからマサキさんがその子と一緒にいられる方法を見つけられればいいな。
夏「女とか男とか、恋人とか友達とか名前付けしようとするから苦しくなるんだよ。そんなこと考えないで好きだけで一緒にいられればいいのにね。」
マサキ「…何も考えないで一緒にいたい。」
夏「俺は一緒にいるよ。」
マサキ「…ありがと。」
マサキさんは俺を小さく抱き寄せる。
俺はそんなマサキさんをしっかりと抱き寄せ、人肌の温度を感じながら少しの間、眠りについた。
→ 願い




