12:00
今日はいいピクニック日和だ。
ミサさんとのんびりと過ごしながらデリバリーサービスで頼んだガパオライスを食べる。
今回はデートだけだから料金はいつもより安いけど、ご飯を食べれて話をするだけでお金が貰えるんだから文句はない。
ミサさんは手を繋ぐこともキスすることもなく、ただ俺と寄り添い過ごす時間を楽しんでくれる。
ミサ「今日は寝不足?」
俺の顔を覗き込む淡い茶色のカラコンが日差しで透けて人形な目のようで少し怖く感じるけれど、まつ毛を見てれば大丈夫。
夏「うん。仕事後に色々やることあって朝になっちゃったんだ。」
ミサ「大変だねぇ…。」
と、何かを考えているのか、向こうにある新緑を眺めながら食べ進めるミサさん。
夏「ミサはお仕事辛くない?大丈夫?」
ミサ「大丈夫。昨日はフルだったけど優治に会えたから幸せー♡」
ミサさんは笑顔を作りながら口の端から少しよだれを垂らす。
夏「口、汚れてるよ。」
俺は弁当が入った袋を漁って紙ナプキンを取り、ミサさんのよだれを拭く。
ミサ「ありがとう!食べた後も拭いてほしいなぁ。」
夏「いいよ。」
そう言うと、嬉しそうに笑ってミサさんはまた食べ始めた。
どうしたらそんなに口元が緩くなるんだろうといつも不思議に思うけど、そんなこと考えたって仕方がないんだよな。
俺はお客さんが楽しく過ごせる時間を作るために派遣されたものだから疑問を持っても意味がない。
考え出したらこんな仕事、俺には出来ない。
ミサさんはご飯を食べ終わるといつものように俺の脚を枕にして昼寝を始めた。
俺は用意しておいた小さいタオルをミサさんの口元に置いて、タイマーを確認する。
あと30分。
この後はしばらく予約が入ってないからフリーのお客さんが来てほしいところだけど、日曜日だから望み薄かな。
ぼーっと公園の木々を眺めながら時間が終わるのを待ち、大あくびをする。
もし、今俺の膝を枕にしているのが俺の恋人だったらこんなに退屈することはないんだろうな。
どんなに寝顔が歪んでいても可愛いと思ったり、さっき食べたご飯だって少し不味くても美味しいと思えるはず。
けど、“恋人が欲しい”って思ったことはない。
一緒にいて幸福感を感じられる人が側にいてくれるなら恋人や友達とかの枠組みじゃなくても俺はいいと思うんだ。
だけど周りの人はちゃんとした名称を欲しがる。
そんな名前が作った信頼関係なんか壊れやすいのに。
俺の“母親”と言う人、“祖父”と言う人。
血縁関係があったとしても、俺のことはまともに人間として扱ってくれないんだから尚更他人に求めても仕方がない気がする。
この仕事は他人が他人の時間を買って好きなように過ごす、“恋人”や“パートナー”と言う名前を借りるためにお金を払ってるみたいなものと俺は思っている。
それをいいようにグレーゾーンを攻めるお客さんは好きじゃないけど、そこには何かしらの自分の欲求があって満たしたいと思って行動に起こしてしまうと瑠愛くんから教えてもらって少し気持ちが楽になった。
気持ちが楽になったからと言って許すことはないけど、俺とは違う欲求がその人にあるだけなんだと解釈出来るようになって泣くことはなくなった。
[ピピピピピピピ…]
セットしておいたアラームが鳴り、ミサさんが起きる。
ミサ「おはよぉ。」
夏「おはよ。お水飲んだら行こうか。」
ミサ「うん。」
濡れたタオルを静かにビニール袋に入れてミサさんと一緒に公園の入り口に向かう。
また莉李みたいに心安らぐ人を見つけられたら、俺はその子を好きになってしまうのかなと少し莉李への気持ちが遠のいてしまうのを寂しく感じながら事務所に戻った。
→ Harder




