12:00
「来週の個人面談までに決めて書いてこいよー。」
と、帰りのHRで栄美先生は口すっぱく進路の話をする。
あと半年で大半の人たちは就職先が決まっているはずの時期。
俺はフリーで活動することは伝えているから栄美先生の話を受け流しながらお客さんとのメッセージを返す。
今日は2人確実に来てくれそうだから予約を合わせて4件。
時間的にお泊りコースはないから朝前には家に帰れる。
俺は普段よりも稼げそうで気分が上がっていると号令がかかり、HRが終わる。
みんながパラパラと教室を去る中でまだ教室にいるつもりなのか、ぼーっと窓の外を見てる悠さんに俺は声をかけた。
夏「悠さん、帰らないの?」
悠「“さん”つけなくていいよ。同い年なのになんでさん付け?」
夏「んー…?」
悠さんはクラスメイトの中でもダントツで落ち着いている雰囲気で、みんなにない大人っぽさを感じたからと正直に言える勇気はない。
夏「あんまり話したことなかったから。」
悠「そう。悠でいいよ。」
夏「分かった。悠は帰らないの?」
悠「…帰ってもつまんないし。」
夏「永海は今日バイトだっけ?」
悠「うん。人足りなくて無理に入れられたんだって。」
夏「そうなんだ。」
悠は外の景色を眺めどこかを見つめ、つまらなそうな顔をしていて何を考えているのか分からない。
でも、この感じはなんだか放っておいてはダメなような気がして俺はご飯に誘ってみることにした。
夏「悠が良かったら昼ご飯一緒に食べない?」
悠「いいよ。どこ行く?」
まさかの即答に俺はびっくりして、どこの店に行くか思うように頭に出てこない。
悠「ハイカラ町にある牛カツ食べない?」
夏「え、あ、うん。行こう。」
意外と乗り気だったのか悠はすぐにカバンを持ち、教室を出る。
俺は悠が案内してくれる初めての牛カツ屋さんに行き、オススメされた定食を注文した。
悠との会話は永海と比べるとだいぶ少なかったけど、お客さんと話すよりもゆっくり流れる時間を感じ、なんだか落ち着く。
悠「夏くんはこの後仕事?」
悠は牛カツの赤身を焼きながら俺に質問してきた。
夏「うん。15時から始まる。」
悠「…そっか。」
悠は俺から鉄板に目線を落として、またどこかを見つめる。
なんでそんな顔をするんだろう。
なんだか毎週のように家出していた莉李みたいだ。
夏「…家に帰りたくないの?」
悠「親いるし、うるさいし、帰ってもやることない。」
夏「…合宿の準備してみたら?」
悠「前日に出来るよ。」
悠は自分の家があんまり好きじゃないらしい。
悠「家に帰りたいと思えるのはもちこだけ。」
と、謎の名前を出された。
夏「もちこ?ペット?」
悠「私の親友。」
と言って、プニプニの柴犬の写真をたくさん見せてくれる。
チャームポイントはお腹にあるブドウくらいある大きさのホクロらしい。
夏「ほっぺたモチモチだね。何才?」
悠「7歳。もうおばあちゃんだよ。」
悠は少し寂しそうな顔をして焼いた牛カツを1口食べる。
夏「会いに帰ればいいじゃん。」
悠「んー…。」
自分で親友と言ったペットがいても家に帰りたくないのか。
夏「悠って温泉とか好き?」
悠「ん?好きだよ。」
夏「3000円で半日だらだら出来る温泉がすぐそばにあるから行ってみたら?」
悠「そんなとこあるんだ。行ってみる。」
それを聞くと少し微笑んで嬉しそうにする悠。
女の子1人でこんなゲロ臭い町にいたら何が起こるか分からない。
だから出来るだけ室内で安全な所を紹介した。
ご飯を食べ終わった後カフェでのんびりと過ごして、俺は温泉施設へ案内して悠と別れた。
→ 華にブルー




