7:00
俺は仕事明けに瑠愛くんと一緒に朝ご飯を食べることになり、学校近くのカフェに入ることにした。
夏「口の傷、痛くない?」
瑠愛「痛いよぉ。俺のことなんだと思ってるだろうねー。」
朝、個室で仮眠していた瑠愛くんに会うと唇が切れて頬が少し腫れた顔になっていた。
仕事の手抜きをするためにお客さんの意識を飛ばそうとしたら足で顔を蹴られてしまったらしい。
瑠愛「俺の顔目当ての客いっぱいいるのに。今日は顔と頭冷やせって言われて休みになっちゃった。」
瑠愛くんはしょんぼりしながらちびちびとカステラを食べ進める。
夏「そっか。明日には腫れ引いてるといいね。」
瑠愛「うん!そういえば優くんはサリさんに封筒もらった?」
この間のスーツ代が入った封筒のことを言ってるのだろうか。
夏「うん。その日に行ってきた。」
瑠愛「おー!良かった。サリさんの好きなタイプだと思ったんだ。」
瑠愛くんはさっきの沈んだ表情から一転、普段通り明るく笑う。
夏「そういえば、なんでサリさんは俺を指名してくれたんだろう…。」
瑠愛「俺がオススメしといたよ。」
夏「そうなの!?」
ずっと瑠愛くんが担当していたお客さんなのに、なんで俺なんかに回しちゃったんだろう。
瑠愛「うん。サリさんは今の俺より、優くんみたいな昔の俺が好きだったらしいんだ。」
俺みたいな瑠愛くん…?
全く想像出来ない…。
夏「瑠愛くんはいいの?大事なお客さんだったんでしょ?」
瑠愛「俺の単価は高いし、美味しいご飯やデートもたくさんしたけど、今の俺といても楽しくなさそうなんだ。
…なんだか無理してる気がしたからサリさんのために優くんを紹介したんだ。だからよろしくね。」
瑠愛くんは少し寂しそうに微笑んだ。
夏「…うん。ちゃんと頑張るね。…瑠愛くんって昔俺みたいだったの?」
瑠愛「そうだよー。黒髪でもっと細くて色白で下手したら折れそうな感じだった。」
夏「俺ってそんなに体弱そう?」
瑠愛「体というよりは芯かな。」
…芯?
体幹のことを言ってるんだろうか。
瑠愛「サリさんは俺たちのこと人として扱ってくれる珍しいお客さんだから大丈夫。俺は1回も怖いことされなかったよ。」
夏「そうなんだ。…そう聞いちゃうとなんだか申し訳なくなるな。」
瑠愛「そんなことないよ。本当は俺が変わっちゃったときにサリさんとお別れするはずだったんだから優くんは悪くないよ。」
それでも他のキャストからのお客さんをもらうことはなんだか引け目を感じる。
俺もこの1年以上かけて信頼関係を築いてきた人が数人いるからこそ、そう思ってしまう。
瑠愛「どんな商品にも消費期限があるんだからその時を楽しんでもらえればそれでいいの。楽しんでもらわないと俺らの仕事は成り立たないからね。」
夏「そう…、思うようにする。」
瑠愛「うん!そろそろ行こっか。」
カステラを食べ終えた瑠愛くんは少し痛そうに大あくびをして立ち上がる。
俺はトレイに乗った空の皿とグラスを回収棚において一緒に外に出た。
瑠愛「そういえば、ここら辺に学校あるんだっけ?」
夏「うん。来る?」
瑠愛「おじちゃん入ったら捕まるぅ。」
無邪気に笑いながら駅の方に向かう瑠愛くん。
瑠愛「今度、行事があった時来るよ。」
夏「秋に展覧会あるからその時誘うね。」
瑠愛「そうなんだ!楽しみにしてるっ♡」
バイバイ!と大きく手を振って俺に別れを告げる。
俺はその場で瑠愛くんがいなくなるまで見送り、そのまま学校に向かった。
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