22:00
これからお客さんレンさんと4時間のデートをしていく。
俺は連続で待ち合わせギリギリの時間になってしまったため駆け足で駅前に向かい、レンさんを見つけてすぐに声をかける。
夏「おまたせ。」
レン「優くん、おはよー。」
レンさんは俺の顔を見ると嬉しそうにしてくれて、手を繋いで歩きだす。
いつも、レンさんは気分で行きたい場所を変えていくからサプライズ感があって面白い。
今日は映画館か。
レンさんは見たいホラー映画のチケットを取って俺の元に帰ってきた。
夏「ホラー映画好きなんだ?」
レン「苦手だけど、このシリーズは気になっちゃうんだよね。」
そう言うとレンさんは飲み物を買いに行き、ビックサイズのものを1つ買って半分こしようと提案してくれる。
けれど、そのカップの中身を見るとビールだった。
俺は1人気合いを入れ直し、1番上のカップルシートにレンさんと座る。
レンさんはこの映画館に来るといつもこの席を選ぶ。
人目につきにくくてしっかり仕切りがしてあるシートで楽しむのが好きらしい。
映画が始まって、まあまあ怖いシーンになるとレンさんは繋いでいた手を握り締め、少し震える。
俺は腕を回してレンさんと抱きつくような形で映画を見続けていると、レンさんの顔がこちらに向いたのに気づき、耳元で話す。
夏「怖い?」
レン「優くんがいるから大丈夫。」
俺はレンさんの頬にキスをして微笑む。
レンさんはそれだけでも満足そうな顔をしてくれるから嬉しい。
俺はレンさんを抱きしめて映画のスクリーンに目を向けるとちょうどCMで見たラブシーンが始まった。
夏「俺は今から扉を開ける。」
俺はレンさんの耳に唇が触れるほど近づく。
夏「レンは俺が出て行ったらすぐ閉めるんだ。」
映画の字幕を静かに読み上げ、少し遅れてレンさんにスクリーンで見たキスをする。
レン「優くんは俳優さんになれるね。」
夏「レンのおかげ。俺の知らない映画をたくさん紹介してくれるから好き。」
レン「私もアクターな優くん好き。また来ようね。」
夏「うん。」
映画を見終わり、レンさんは近くの公園に行く途中にケバブサンドと紙パックのレモンティーを買った。
2人して初めて行った公園はこの夜でも少しだけ人がいて、俺たちは人目が少ない奥まで歩き乾いた草原の上に俺はしゃがんで、レンさんのためにハンカチを敷く。
夏「どうぞ。」
レン「優くんはいいの?」
夏「1枚しか持ってきてないんだよね。」
レン「んー…」
レンさんは自分だけ座るのに抵抗を感じてるらしい。
夏「俺の膝の上にする?」
レン「…うん!」
レンさんは少し曇らせていた顔を一瞬で晴れさせる。
俺は自分で敷いたハンカチの上に座り、レンさんには俺の脚に座ってもらって1つのケバブサンドを2人で分け合いながら食べる。
なんだか、今日は他国籍料理を食べる日みたいだ。
レン「ここ、お肉多いね。」
夏「初めて食べた。」
レン「そうなんだ!ひどい所だとパンの切れ目3㎝しかない時ある。」
夏「なにそれ、詐欺じゃんか。」
レン「それで500円取られた時、泣いた。」
レンさんは見えない涙を拭き、俺は頭を撫でる。
夏「よしよし。今度からはここでしか買わないようにしようね。」
レン「うん!お茶は?」
夏「欲しい。」
そう言うと、レンさんは紙パックにストローを挿したストレートティーを俺の口元に持ってきてくれる。
俺はストローで少し口に含み、またケバブを食べさせてもらう。
レン「あーんして。」
レンさんの合言葉。
俺は食べかけのまま、口を開けるとレンさんはそのまま口を合わせていつものように器用に食べものを自分の口に入れる。
レン「なんか甘いね。」
夏「お茶、飲んだばっかだもん。」
レン「そっか。」
これが無かったら結構いいお客さんなんだけどな。
まあ、恋人に理解してもらうのはなかなか難しんだろうな。
だから俺の仕事が成り立つんだけど、この人たちは俺のことを人と思ってくれてるのか少し疑問に思うことがたまにある。
けど、そんなこと考えたって仕方がない。
分かってるけど、ふと思ってしまうのはまだこの仕事に慣れきれてないからなんだろうな。
俺はお茶とケバブをレンさんに流し込みながらその考えを放り捨てた。
→ 雫に恋して




