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ひと夏の恋  作者: 環流 虹向
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12:00

前から沙樹と約束していた日本画の展示会へ行ってきた。


沙樹は前から和物に興味津々な所があると思ったけど、日本画も好きなんだな。


沙樹に色々と絵の説明を受けてると本当に日本画が好きらしく愛があるように感じ取れ、聞いていてとても楽しくなった。


沙樹の1番好きなのは日本画で描かれている植物。

力強さも、儚さも、雄大さも、その1つの植物が入る事でグッと魅力が増すと沙樹は言っていた。


俺もこの展示会で1番いいなと思った金魚の絵にも蓮の葉が描いてあり、もっと覗き込みたいと思うような作品になっていて植物の魅力を知った。


新しいアイデアをもらった俺は沙樹と展示会を後にして、近くのベトナム料理屋さんに入り昼ご飯にすることにした。


沙樹「僕、初めて入る。」


夏「俺も店で食べるのは初めてかも。」


店の中は色がごちゃついていて初め入った時は目が痛かったけど、少しその場で過ごしているととても配色が綺麗な事に気づき、この空間だけ異国の雰囲気になっていた。


沙樹「フォーってやつ有名だよな。」


夏「うどんみたいだよね。」


沙樹はフォー、俺はネムと言う春巻きを頼むことにした。


沙樹はとても楽しみなのかワクワクした表情で店の雰囲気を見回し、目を輝かせる。


沙樹「こういう所入ると海外行ってみたくなるよなー。」


夏「そうだね。沙樹は行ったことある?」


沙樹「飛行機乗って沖縄には行ったことあるけど、海外はないなぁ…。」


夏「俺は飛行機も乗ったことないよ。」


沙樹「そうなの!?修学旅行は?」


夏「行ってない。」


学校での縛り付けられた旅行で行くくらいだったら学費と画材にお金をかけたいと思って行かなかったけれど、今では少し後悔してる。


もしその旅行で莉李と会えたなら、行く価値はあった。


沙樹「じゃあ、僕たちと卒業旅行行こう。」


夏「え?」


沙樹「飛行機乗って安く行ける海外に一緒に行こう。愛海は絶対来てくれるし、英語喋れるからなんとかしてくれそう。」


笑いながらマンゴースムージーを飲み、色々と候補を上げていく沙樹。


その様子は育てのお父さんの熊谷さんのようだった。


俺はどんどん楽しい言葉を出していく沙樹に1つだけ心配事を聞く。


夏「家のこと、大丈夫なの?」


沙樹「来週の合宿がOKなんだから卒業旅行もOKだよ。そんな心配することじゃない。」


そう言って沙樹は俺に優しく微笑んで安心させてくれる。


夏「…そっか。俺、仕事頑張る。」


沙樹「夏は今でも十分頑張ってるからやり過ぎないでよ。」


夏「うん。沙樹もだよ。」


沙樹「はーい。」


沙樹の家はお父さんは早くに亡くなって、お母さんと妹と3人で暮らしてると前に教えてくれた。


沙樹のお母さんは沙樹の行きたい学校に入れさせたいと思って無理して仕事を頑張ってしまったため、今は体を壊して家で治療中らしい。


沙樹は自分がしてもらったことを妹にも出来るようにと、バイトをしてしっかり貯金をしてるという。

妹も沙樹のことを見て、高校1年生からバイトをして家計を助けてくれてるらしい。


お金がなくても信頼関係がしっかり作られてる家があることを沙樹の家の事情を聞いて、俺は初めて知った。


きっと色々思うことがあるはずなのに、誰にも当たらずに子どものために働ける親が存在するんだと知った時、俺は泣いてしまった。


自分の親は自身のことで精一杯で、俺のことは1人の人間が必要な時に連れまわす駒のような扱いをしていたから沙樹の家族がとても羨ましくなった。


そういう嫌な思い出を忘れたくても、どうしてもふとしたきっかけであの人たちの影が俺を襲ってくる。


それが嫌で仕方がない。


俺はその影に飲み込まれないよう必死にただ毎日を過ごすしかなくて、あの時の莉李の存在がどれだけ貴重だったのか俺は1人になって思い知らされた。





→ 帰ろう

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