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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
三章 保元元年(一一五六)八月~九月

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寝る童は育つ(三)




「目を閉じよ」


 私の言葉に従い、素直に目を閉じる愛しき異母弟。


「《……健やかな眠りを》」


 今若丸にのみ聞こえるよう言霊をささやいた。夢がやさしい世界であることを願いつつ。

 腹掛けの上から、今若丸の胸あたりに手を置く。


「♪ねんねんころり ねんころり」


 今様節で、ひたすらゆっくりと歌う。

 とん……とん……

 指の腹で、拍子をそっと伝えながら。


「♪坊やのまぶたは 仲良しぞ」


 子守唄を歌う利点は、必ず眠ってくれることだ。難点は、大人まで眠くなることか。

 女房たちが口元を袖で隠し、あくびを我慢している。今若丸が眠ったら歌うのをやめるゆえ、しばらくおつきあい願いたい。


「♪ゆらりと夢の 訪(おとな)いに」


 今若丸の呼吸が深くなってきた。少しずつ眠りの世界に入っているようだ。


「♪まかせば心地の よかろうぞ」


 唄を二度ほど繰り返す間に、しっかりと寝入ったらしい。


「……ふすー……」


 小さな寝息をたてる今若丸。

 私は目尻を下げつつ、起こさぬよう徐々に手を離していく。膝に手を戻した辺りで空気に温かさを感じ、顔を上げた。

 義母上や女房たちも、私と同じような表情をしていた。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、8月26日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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