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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
三章 保元元年(一一五六)八月~九月

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寝る童は育つ(二)




「偉いな、今若丸。立派な兄ではないか」

「いまわか、あにうえなる」


 兄上のようになる、と言いたいらしい。


「義平異母兄上か」

「ちがう」

「では、朝長異母兄上か」

「ちがうー」


 小動物の如くふくらむ頬。私が正しい答えを導けぬのが原因だが、こちらの頬は緩みそうになる。


「あにうえ」

「……もしや、私のことか?」


 今若丸の性質は義平異母兄上に近いように思うが。私のようにとは、いかなることか。


「おとわか、いいこいいこする」


 ──良いことをすれば、頭を撫でて褒める。

 日頃、私たちが今若丸にしていることだ。会う回数が多いためか、私のようにと思ったのやもしれぬ。

 今若丸は、己がされて嬉しいことを弟にもしてあげたいらしい。何とやさしい子か。

 先ほど耐えた私の頬は、見事に緩んだ。


「たくさん褒めてやるとよい。きっと今若丸のように、やさしく賢い子になるだろう」

「ん!」


 今若丸は得意げに大きく頷いた。


「では、乙若丸が起きたら何と褒める」

「うーん……」


 今若丸は一人前に腕を組み、考える。少しして思いついたようだ。


「『いっぱいねた』、ほめる」

「それは良きことだ。『寝る童は育つ』という言葉もある。今若丸も昼寝を致せば、さらに大きくなろうぞ」

「あにうえ、いっしょ?」

「私よりも、大きくなるやもしれぬな」

「ねる!」


 今若丸は、己の世話係に布団の催促をした。そして、すでに敷かれていたことに目を輝かせた。

 意気揚々と布団に入ったのはよいが、気合いが入りすぎて眠気が飛んでしまったらしい。


「……あにうえ……」


 これでもかと下がった眉が、今若丸の困りようを伝えてくる。

 私は微笑ましく思いながら、傍に腰をおろした。


「子守唄を歌うか」

「ん!」


 嬉しそうな今若丸。

 その小さな頭を、私はそっと撫でた。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、8月21日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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