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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
二章 保元元年(一一五六)六〜七月

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術符に込めた祈り(七)




 それはともかく。非力ということを除いても、頑なに私を戦場へと差し向けぬのは、いかなる訳があってのことか。お祖父様に訊ねると、


「そなたは優れた術師よ。季範殿が期待を寄せていたほどのな」

「毘沙門天の気配を感じとれぬ、未熟者でございますが」

「そう卑下することはあるまい。儂とて夢にて御告げがあったゆえ、義平が加護を持って生まれることを知ることができたのだ」

「御神託が……毘沙門天がお護りくださっているのなら、我が家は安泰でございますね」


 ゆえに、お祖父様が難儀な道を進まれる必要はない。私はそう申し上げたかった。だがお祖父様は、


「うむ。それに立派な家督や、そなたのような嫡孫もおる。儂は心置きなく、己の道を行けようぞ」


 と仰った。目には迷いがない。説得は無理か……


「お祖父様……どうあっても、崇徳上皇陛下とともに進まれるのでございますね」

「民のために尽くそうとなさったあの方を、このような形で喪ってはならぬゆえな」


 お祖父様のお考えは理解できる。私がお祖父様の立場であったなら、同じ道を選んだやもしれぬ。愛おしい家族も、それ以外も、己の身を賭すことで護れるのならば……たとえそれが、死出の旅であったとしても──


「私たちも……私も、お祖父様を喪いとうございません。ゆえに、せめて……」


 私は胸元から術符をふたつ取り出した。


「これらをお持ちくださいませ」

「何ぞ」

「こちらは敵の攻撃を防いでくれる札、そしてこちらが、身代わり札でございます」

「これを儂に持てと?」

「はい」

「そなたは、儂の腕を侮っておるのか?」


 お祖父様の……源氏の長の目が鋭くなった。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、7月13日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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