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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
二章 保元元年(一一五六)六〜七月

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術符に込めた祈り(六)




 目を見て、心を伝えたかった。


「私の思いで止められるのならば、幾日かかろうとも言葉を尽くしましょうぞ」

「ははは。一人前な口を利きおって」


 その笑い声は、いつもと変わりなく。豪胆でやさしい、源のお祖父様のままだった。

 私は続ける。嘘偽りない、心からの言葉を。


「本音を申し上げれば、私はお祖父様に生きていていただきとうこざいます。これよりずっと先も、お祖父様と一緒にいとうございます」

「鬼武者……」

「されど、私とて武士の子でございます。お祖父様が……源氏の長が心を決められたのならば、その誇りに傷をつけるような真似はしたくありませぬ」

「うむ」


 お祖父様は、源氏の長の顔で頷かれた。


「……今の私では、戦で役に立ちませぬ。ゆえに、お祖父様とともに戦(いくさ)場(ば)に立ちたくとも、それは叶いませぬ」


 今の私では、頭数で出陣したとしても、すぐに討たれてしまうだろう。童用の修練刀ですら、重さに振り回されまともに扱えぬのだ。実戦で足手まといになることは目に見えている。祭礼刀ならば、寸法にかかわらず体の一部のように扱えるのだが……


「そなたを戦場になど行かせぬよ。儂も義朝も、そのようなことは許さぬ」

「私が非力であるばかりに、お祖父様のお役に立てぬことが悔しゅうございます」


 鍛錬は欠かさぬのだが、どうもこの体は筋肉がつきにくい。今の暮らしに不満はないが、それだけが難点だ。


「もし、そなたに刀の才があったとしても許しはせぬ」


 お祖父様の思いがけぬ言葉に、私の思考は一瞬停止した。だが、その後すぐに疑問が湧いたゆえ、妙な間を作らずに済んだ。


「刀の才があれば、義平異母兄上のように、元服前からお役に立てたのではございませんか?」

「義平は毘沙門天の加護があるゆえ、早いうちから実戦を経験させたまでのこと」

「毘沙門天……」


 あの恵まれた体躯と身体能力は、御加護もあってのことだったのか。常日頃、努力なさっているのを間近で拝見していたゆえ、自ら手になさった才とばかり思っていた。 

 堂々たる風格も気迫も、さすがは我らの異母兄上と称えるばかりで、毘沙門天の気配を察することができなかった。術師として、大いに恥ずべきところだ。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、7月12日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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