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ラブミーくまどん! ~ある日、クマがうちに住み着いた~  作者: 雫石ぶた丸


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24/25

第24話 最初のファンは、俺だから

 次の日。


 つむ丸は。

 カラオケに来なかった。


「…………」


 時計を見る。


 十二時。


 来ない。


 十二時半。


 来ない。


 一時。


 来ない。


「遅い」


 りりが言った。


「うん」

「連絡は?」

「してる」

「返事は?」

「ない」


「…………」


 スマホ。


 既読も。

 つかない。


『どこ』

『今日来るんじゃなかったの』

『つむ丸』


 全部。

 未読。


「家は?」


 俺が聞く。


「朝はいなかった」

「いつから?」

「起きた時から」

「昨日帰ってきた?」

「うん」

「見た?」

「見た」

「そのあと?」

「ぼくが寝るまではいた」

「何してた?」

「座ってた」

「どこで?」

「窓のところ」


「…………」


 嫌な感じ。


「くまどんに連絡する」

「うん」


*


『今仕事』

『つむ丸いない』

『どこに』

『分かんない』

『昨日りりの家には帰ってる』

『朝からいない』


 少しして。


『探す』

『仕事は』

『早上がりできるか聞く』


 珍しい。


 返信が。

 早い。


「来るって?」

「多分」

「ぼくも探す」

「仕事は?」

「今日休み」

「そうだった」

「たかしは?」

「休憩終わる」


「…………」


「早退する」

「いいの?」

「多分」

「怒られない?」

「多分」

「多分ばっかり」

「今それ?」

「うん」


 りりが。

 スマホを見る。


「どこ行ったんだろ」

「分かんない」

「昨日」

「うん」

「何か言ってた?」

「考えるって」


「…………」


「一人で歩くって」

「それ止めた?」

「送った」

「家まで?」

「近くまで」


「…………」


「何?」

「別に」

「怒ってる?」

「ちょっと」

「俺に?」

「つむ丸に」

「そっか」

「たかしにも」

「なんで」

「ちゃんと家まで送って」

「ごめん」

「うん」


 即答。


 痛い。


*


 駅前。


 りりと。

 二人。


 つむ丸。


 名前。


 検索。


 投稿。


「これ」


 りりが言う。


『つむ丸見た』


「いつ?」

「三十分前」

「場所」

「商店街」

「近い」

「行く」


 走る。


「りり」

「何?」

「待って」

「なんで?」

「速い」

「遅い」

「俺普通」

「遅い」

「理不尽」


 商店街。


 人。


 多い。


 左右。


 見る。


「つむ丸!」


 りりが呼ぶ。


 返事。

 ない。


「つむ丸!」


 何人か。

 こっちを見る。


「もう少し小さく」

「嫌」

「そう」


 スマホを見る。


 新しい投稿。


『またいた』

『さっきこの辺歩いてた』

『今日一人?』


 写真。


「…………」


 ウサギ。


 前より。

 似ている。


 耳。

 片方長い。


 目。

 高さが違う。


 腕。

 短い。


「これ」


 りりが。

 画面を見る。


「左右」

「合ってる」

「うん」


 昨日まで。

 違っていた。


 今日は。

 合ってる。


「…………」


「たかし」

「何?」

「嫌」

「何が?」

「似てる」

「うん」

「すごく」

「うん」

「嫌」


「…………」


 俺も。

 同じだった。


*


「いた?」


 後ろから。


 声。


「くまどん」

「仕事は?」

「抜けた」

「大丈夫?」

「知らん」

「怒られるよ」

「多分」

「たかしみたい」

「誰が」


 くまどんが。

 俺のスマホを見る。


「これ?」

「うん」

「昨日より近いな」

「何が?」

「つむ丸に」

「やっぱり?」

「多分」

「多分ばっかり」

「知らないからな」


 りりが。

 くまどんを見る。


「どうする?」

「探す」

「それだけ?」

「それしかない」

「マネー見つけたら?」

「近づくな」

「つむ丸だったら?」

「連れて帰る」

「見分けつく?」


「…………」


 くまどんが。

 少し黙る。


「多分」

「また」

「見た目だけなら分からなくなるかもな」


「…………」


「でも」

「何?」

「喋れば」

「分かる?」

「さあな」


「…………」


「だから」


 くまどんが言う。


「一人で近づくな」

「うん」

「特にりり」

「なんで?」

「狙われる可能性ある」

「ぼくが?」

「つむ丸が大事にしてる相手だから」


「…………」


「マネーがどこまで真似できるか分からない」

「うん」

「だから離れるな」

「分かった」

「たかしも」

「うん」

「一人になるな」

「分かった」

「俺も」

「クマも?」

「俺も」

「珍しい」

「うるさい」


*


 それから。


 三人で。

 探した。


 駅前。


 商店街。


 公園。


 カラオケの裏。


 りりの家の近く。


 いない。


「どこ行ったんだよ」


 俺が言う。


「つむ丸!」


 りりは。


 何度も。

 呼んでいる。


 返事。

 ない。


 夕方。


 公園。


 ベンチ。


「一回休もう」

「嫌」

「りり」

「まだ探す」

「歩きっぱなし」

「平気」

「平気じゃない」

「平気」

「水」


 くまどんが。

 ペットボトルを渡す。


「…………」


「飲め」

「うん」


 りりが。

 受け取る。


「つむ丸」


 小さい声。


「何やってんの」


「…………」


「昨日」

「うん」

「来るって言ったのに」

「うん」

「嘘つき」


「…………」


「最初のファンなのに」


 その時。


 スマホ。


 通知。


「りり」

「何?」

「これ」


 新しい投稿。


『つむ丸いた』


 動画。


 場所。


「駅の反対側」

「行く」

「待って」

「なんで?」

「動画」


 再生。


 ウサギ。


 歩いてる。


 今までで。

 一番。

 はっきり。


「…………」


 つむ丸。


 ほとんど。

 つむ丸。


「声」


 くまどんが言う。


 音量を。

 上げる。


『りりならいける!』


「…………」


 同じ。


 声。


 高さ。


 勢い。


 ほとんど。

 同じ。


 そのあと。


『俺が一番知ってる!』


「…………」


 つむ丸の。

 よく言う言葉。


 でも。


 何か。

 違う。


「行こう」


 りりが言う。


 立ち上がる。


 今度は。


 誰も。

 止めなかった。


*


 駅の反対側。


 細い道。


 人。


 少ない。


「つむ丸!」


 りりが呼ぶ。


 返事。

 ない。


 少し進む。


「…………」


 いた。


 道の先。


 小さい。


 ウサギ。


「つむ丸!」


 りりが走ろうとする。


「待て」


 くまどんが。

 腕を掴む。


「なんで!」

「見ろ」

「何?」

「よく見ろ」


 ウサギ。


 振り返る。


「…………」


 似ている。


 耳。


 目。


 腕。


 体。


 全部。


 つむ丸。


 でも。


「つむ丸?」


 りりが呼ぶ。


「りり!」


 返ってきた。


 声。


 同じ。


 笑い方も。


「…………」


「りり!」


 もう一度。


「見つけた!」


 こっちに。

 走ってくる。


「止まれ」


 くまどんが言う。


「なんでだ!」


 ウサギが言う。


「つむ丸なら」

「何だ!」

「昨日どこにいた?」

「りりの家だ!」

「その前」

「カラオケ!」

「その前」

「知らん!」


「…………」


「質問多いぞ!」


 声。


 喋り方。


 似てる。


「俺だ!」


 ウサギが言う。


「つむ丸だ!」


「…………」


「りりの最初のファン!」


 りりの顔が。

 止まった。


「…………」


「俺がりりを有名にする!」


「…………」


「りりならいける!」


 同じ。


 全部。


 同じ。


 はずなのに。


「違う」


 りりが言った。


「何が?」


 ウサギが聞く。


「違う」

「何が違うんだ!」

「つむ丸じゃない」

「俺はつむ丸だ!」

「違う」

「なんで!」

「分かんない」

「じゃあ俺だ!」

「違う」


 りりの返事。


 早かった。


「ぼくが違うって思う」


「…………」


 ウサギの顔が。

 止まる。


「りり」

「何?」

「俺だ!」

「違う」

「俺が一番知ってる!」

「違う」

「りりならいける!」


「…………」


「言えるぞ!」


「…………」


「全部!」


 その瞬間。


 後ろ。


「下手くそ!」


「…………」


 聞き慣れた。

 声。


 振り返る。


「つむ丸!」


 いた。


 少し離れた。


 建物の陰。


 息。

 荒い。


「何してんだよ!」


 俺が言う。


「探してた!」

「こっちがだよ!」

「俺も探してた!」

「何を!」

「こいつ!」


 つむ丸が。

 偽物を指す。


「俺の偽物!」

「一人で?」

「そうだ!」

「バカ?」

「違う!」

「バカだろ」

「うるさい!」


 りりが。

 走る。


「つむ丸!」

「りり!」


 つむ丸も。

 走ろうとする。


「待て!」


 くまどんが叫ぶ。


「何だ!」

「そいつから離れろ!」

「分かってる!」

「違う!」


 黒い。

 もの。


 偽物の足元。


 影。


 煙。


 広がる。


「つむ丸!」


 俺が叫ぶ。


 遅い。


 黒い影。


 一気に。

 つむ丸へ。


「うわっ!」


 腕。


 巻きつく。


「離せ!」


 つむ丸が。

 振り払う。


 でも。

 離れない。


「つむ丸!」


 りりが走る。


「来るな!」


 つむ丸が叫ぶ。


「でも!」

「来るな!」


 黒い影。


 腕。


 肩。


 体。


 少しずつ。

 広がる。


「くまどん!」

「分かってる!」


 くまどんが。

 走る。


 俺も。

 走る。


 その前。


 偽物が。

 口を開く。


「りりならいける!」


「…………」


 つむ丸が。

 止まった。


「お前」


 偽物を見る。


「何だ!」

「それ」

「何が!」

「俺の言葉だ!」

「俺も言える!」

「違う!」

「同じだ!」

「違う!」


 黒い影に。

 掴まれたまま。


 つむ丸が叫ぶ。


「それは!」


 一度。

 息を吸う。


「俺が!」


「…………」


「ずっと!」


「…………」


「りりに言ってきた言葉だ!」


「…………」


「お前が一回言えたからって!」


 黒い影。


 さらに。

 濃くなる。


「お前の言葉にはならない!」


「…………」


 偽物が。

 止まる。


「俺は!」


 つむ丸が叫ぶ。


「りりが誰かに歌を聴いてもらう前から!」


「…………」


「りりが誰にも見つかってない時から!」


「…………」


「ずっと聞いてた!」


 りりが。

 動かなくなる。


「一人で歌ってた時も!」


「…………」


「何回も同じ歌を歌ってた時も!」


「…………」


「俺に歌ってくれた時も!」


「…………」


「全部!」


 つむ丸の声。


 震えてる。


「俺が聞いてた!」


「…………」


「だから!」


 つむ丸が。

 偽物を見る。


「最初のファンは!」


 一度。


 息。


「俺だからな!」


「…………」


 静か。


 偽物。


 何も言わない。


 言えない。


 黒い影。


 一瞬。

 揺れる。


「今!」


 くまどんが叫ぶ。


 俺は。

 つむ丸の腕を掴む。


「離せ!」

「お前が離れろ!」

「俺じゃない!」

「分かってる!」


 引く。


 くまどんも。


 黒い影を。

 押しのける。


「りり!」

「うん!」


 りりが。

 つむ丸の反対側を掴む。


「せーの!」

「待て!」

「待たない!」


 引く。


「うわっ!」


 つむ丸の体が。


 黒い影から。

 抜けた。


 三人。


 そのまま。

 後ろへ。

 転ぶ。


「痛い!」

「重い!」

「誰がだ!」

「お前」

「軽い!」

「今そこ?」

「重要だ!」


「つむ丸!」


 りりが。

 つむ丸を抱える。


「いる?」

「いる!」

「ほんと?」

「いる!」


「…………」


「痛い!」

「我慢して」

「なんでだ!」

「心配した」


「…………」


 つむ丸が。

 黙る。


「ごめん」


「…………」


「何?」

「ごめん!」


 りりの腕。


 少し。

 強くなる。


「うん」


 その時。


「おい」


 くまどん。


 声。


 低い。


 見る。


 偽物。


 まだ。

 いる。


 黒い影。


 その周り。


 薄く。

 揺れてる。


「…………」


 偽物が。

 つむ丸を見る。


「俺は」


 声。


 同じ。


「つむ丸だ」

「違う」


 りりが言う。


「…………」


「違う」


 もう一度。


 偽物。


 動かない。


「りりならいける」


「…………」


「俺が一番知ってる」


「…………」


「俺が」


 一度。

 止まる。


「最初の」


「…………」


 言葉。


 続かない。


 つむ丸が。

 偽物を見る。


「ほらな」


「…………」


「お前」


 一度。

 息を吸う。


「知らないだろ」

「何を」

「りりの歌」

「知ってる」

「違う」


「…………」


「りりが最初に俺に歌った歌」


「…………」


「知らないだろ」


 偽物。


 答えない。


「俺は知ってる」


「…………」


「俺に歌ってくれたからな」


「…………」


「それは」


 つむ丸が。

 胸を張る。


「真似できない!」


 黒い影が。


 大きく。

 揺れた。


 次の瞬間。


 偽物の体が。

 崩れる。


「…………」


 耳。


 腕。


 顔。


 一瞬。


 形が。

 歪む。


「消える?」


 りりが言う。


「違う」


 くまどんが答える。


「まだだ」

「何が?」

「分からない」

「また?」

「でも」


 くまどんが。

 偽物を見る。


「今の接触」


「…………」


「長かった」


 つむ丸の顔が。

 止まる。


「何?」

「昨日より」

「うん」

「今日の方が」


「…………」


「もっと」


 くまどんが。

 言葉を止める。


 偽物の顔。


 戻る。


 つむ丸。


 ほとんど。

 同じ。


「近づいた」


「…………」


 誰も。

 何も言わない。


 その時。


 偽物が。

 笑った。


 つむ丸と。


 同じ顔で。


 同じ声で。


「りり」


「…………」


「次は」


 一度。

 首を傾げる。


「もっと上手くやる」


 黒い影。


 一気に。

 広がる。


「待て!」


 くまどんが叫ぶ。


 でも。

 遅い。


 黒。


 消える。


 偽物も。

 いない。


 残ったのは。


 俺たち。

 四人。


「…………」


 つむ丸が。

 自分の腕を見る。


「つむ丸?」


 りりが呼ぶ。


「いる!」

「うん」

「俺だ!」

「うん」

「俺だからな!」

「分かってる」


「…………」


 りりが。

 つむ丸を見る。


「最初のファン」


「…………」


「つむ丸だから」


 つむ丸が。

 少しだけ。

 俯く。


「当たり前だ!」


 声。


 大きい。


 でも。


 少し。

 震えていた。

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