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ラブミーくまどん! ~ある日、クマがうちに住み着いた~  作者: 雫石ぶた丸


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23/25

第23話 いらないなんて言っていない

 次の日。


 カラオケ店。


 休憩室。


「今日は撮らない!」


 つむ丸が言った。


「昨日も撮ってないけど」


 俺が言う。


「今日もだ!」

「なんで?」


 りりが聞く。


「なんでも!」

「理由になってない」

「休み!」

「誰が?」

「俺!」

「じゃあ休めば?」

「りりも!」

「なんでぼくまで?」

「今日は歌うな!」


「…………」


 りりが。

 つむ丸を見る。


「なんで?」

「だから!」

「何?」

「今日は休みだ!」

「ぼくは休みじゃない」

「休め!」

「嫌」

「りり!」

「歌う」

「今日はやめろ!」


 休憩室。


 一瞬。

 静かになった。


 昨日まで。


 自分の歌ができるかもしれないと。

 一番喜んでいたのは。


 つむ丸だった。


「つむ丸」


 俺が言う。


「何だ!」

「何かあった?」

「何もない!」

「ならなんで」

「休みたい日くらいある!」

「お前が?」

「ある!」

「昨日まで毎日撮れって言ってたのに」

「昨日と今日は違う!」

「何が?」


「…………」


 つむ丸が。

 黙る。


「マネー?」


 りりが言った。


「…………」


 分かりやすい。


「また見た?」


 俺が聞く。


「見てない!」

「じゃあ何?」


「…………」


「つむ丸」


 りりが呼ぶ。


「何だ!」

「言って」

「何を!」

「考えてること」

「何も考えてない!」

「嘘」

「嘘じゃない!」

「声大きい」

「元からだ!」

「それも知ってる」

「なら言うな!」


 りりが。

 少しだけ。

 息を吐く。


「ぼく、練習行く」

「待て!」

「嫌」

「りり!」

「行く」


 立ち上がる。


 つむ丸が。

 テーブルの端まで走る。


「歌うな!」


 りりの手が。

 止まった。


「…………」


「今日は」


 つむ丸が言う。


「歌うな」

「なんで?」


「…………」


「なんで歌っちゃダメなの?」

「危ないから!」


 やっと。


 出た。


*


「何が危ないの?」


 りりが聞く。


「マネー!」

「ぼく関係ないじゃん」

「ある!」

「なんで?」

「俺がいるから!」


「…………」


 つむ丸が。

 拳を握る。


「俺が目立ったから」

「分かんないでしょ」

「狙われた!」

「多分って言ってた」

「でも来た!」

「うん」

「俺の真似してる!」

「うん」

「もっと来るかもしれない!」

「うん」

「だったら!」


 つむ丸が。

 一度。

 止まる。


「俺が出なきゃいい」


「…………」


 りりの顔が。

 変わった。


「何?」

「動画も」

「何言ってるの?」

「俺は出ない!」

「つむ丸」

「りりのSNSにも!」

「待って」

「ライブの話もしなくていい!」

「待ってって」

「一緒にいなければ!」

「つむ丸!」


 りりの声。


 大きかった。


 つむ丸が。

 止まる。


「勝手に決めないで」

「でも!」

「また?」


「…………」


「何回言えば分かるの?」

「りり」

「ぼくのことは、ぼくが決める」

「でも危ない!」

「だから?」

「だから!」

「ぼくが怖いって言った?」


「…………」


「歌いたくないって言った?」

「言ってない」

「つむ丸と一緒にいたくないって言った?」


「…………」


「言ってない」

「じゃあ」


 りりが言う。


「勝手にいなくならないで」


「…………」


 つむ丸が。

 りりを見る。


「でも」

「何?」

「俺のせいで何かあったら」

「つむ丸のせいじゃない」

「分かんないだろ!」

「分かる」

「なんで!」

「ぼくが決めてるから」


「…………」


「一緒にいるのも」

「…………」

「動画撮るのも」

「…………」

「つむ丸に応援してもらうのも」


 りりが。

 つむ丸を見る。


「ぼくが決めてる」

「でも」

「でもじゃない」

「俺は」

「何?」

「りりの邪魔になりたくない!」


「…………」


「俺がいたら危ないなら!」


 一度。

 息を吸う。


「いない方がいい!」


「…………」


 りりが。

 何も言わなくなった。


*


「それ」


 俺が言う。


「何だ!」

「前も言ってたよな」

「何を!」

「自分はいなくてもいいって」

「違う!」

「何が?」

「今回は危ないからだ!」

「前もりりのためだった」


「…………」


「今も?」

「当たり前だ!」

「じゃあ同じじゃん」

「同じじゃない!」

「何が違うの?」

「今回は!」


 つむ丸が。

 俺を見る。


「本当に危ないんだ!」

「うん」

「俺の偽物がいる!」

「うん」

「何するか分からない!」

「うん」

「だったら離れるだろ!」

「誰が?」

「俺が!」

「なんでりりじゃなくて、お前が決めるの?」


「…………」


 つむ丸が。

 止まる。


「たかし」


 りりが言った。


「いい」

「何が?」

「もういい」


 声。


 低い。


「りり?」


 つむ丸が言う。


「何?」

「怒ってる?」

「怒ってる」


「…………」


「すごく」


「…………」


 珍しい。


 りりが。

 はっきり言った。


「ぼく」


 りりが言う。


「つむ丸に有名になってほしいなんて、一回も言ってない」

「知ってる」

「ぼくのために消えてほしいとも言ってない」

「消えるとは」

「同じ」

「違う!」

「同じだよ」


「…………」


「勝手に」


 りりが。

 拳を握る。


「ぼくのためって決めて」

「…………」

「勝手にいなくなろうとして」

「…………」

「それで、ぼくが喜ぶと思ってる?」


「…………」


 つむ丸が。

 何も言えない。


「つむ丸」

「何だ」


 声が。

 小さい。


「ぼくは」


 一度。


 りりが。

 言葉を止める。


「つむ丸を」


「…………」


「いらないなんて言ってない」


「…………」


 つむ丸が。


 完全に。

 黙った。


*


「俺は」


 少しして。


 つむ丸が言った。


「りりが有名になれば」

「うん」

「それでいい」

「ぼくはよくない」

「なんでだよ」

「つむ丸がいないから」


「…………」


「それじゃ」


 りりが言う。


「意味ない」

「でも夢だろ!」

「そうだよ」

「歌いたいんだろ!」

「歌いたい」

「有名になりたいんだろ!」

「見つけてもらいたい」

「じゃあ!」

「でも」


 りりが。

 つむ丸を見る。


「誰でもいいわけじゃない」

「…………」

「つむ丸がいなくてもいいなんて」

「…………」

「一回も言ってない」


 つむ丸が。

 俯く。


「俺」

「何?」

「分かんない」

「何が?」

「どうすればいいか」


「…………」


「りりを守りたい」

「うん」

「でも」

「うん」

「俺がいると危ないかもしれない」

「うん」

「じゃあ」

「一緒に考える」


「…………」


「勝手に決めない」

「…………」

「ぼくも」

「…………」

「つむ丸も」


 つむ丸が。

 少しだけ。

 顔を上げる。


「それでいい?」


「…………」


「つむ丸?」

「分かんない」

「そっか」

「でも」

「何?」

「ちょっと考える」

「うん」


 りりの声が。

 少しだけ。

 戻った。


*


 その日は。


 結局。

 動画を撮らなかった。


 りりは。

 歌った。


 つむ丸は。

 その日は。

 部屋の中には来なかった。


 休憩室。


 テーブルの上。


 一人。


 俺が。

 休憩に戻る。


「行かないの?」

「どこに?」

「りりのとこ」

「今日はいい」

「なんで?」

「集中したいって」

「それ前の話だろ」

「今日は」

「何?」

「俺が考えたい」

「そっか」


 俺は。

 自販機のコーヒーを開ける。


「たかし」

「何?」

「俺」

「うん」

「間違ってる?」

「知らない」

「そこは答えろ!」

「分かんないから」


「…………」


「でも」

「何?」

「りりは嫌だって言ってた」


「…………」


「お前がいなくなるの」


「…………」


「それは分かる」


 つむ丸が。

 膝を見る。


「俺も」

「何?」

「りりがいなくなるの嫌だ」

「うん」

「だから」

「うん」

「離れた方がいいと思った」


「…………」


「変か?」

「分かんない」

「また!」

「でも」


 俺は。

 コーヒーを飲む。


「俺なら」

「何?」

「嫌かも」

「何が?」

「守るためだからって」

「うん」

「勝手にいなくなられるの」


「…………」


「そっか」


 つむ丸が。

 小さく言った。


*


 夜。


 店を出る。


 りり。

 俺。

 つむ丸。


 三人。


 いつもより。

 少しだけ。

 間がある。


「じゃあ」


 駅前。


 りりが言う。


「また明日」

「おう!」


 つむ丸が答える。


「…………」


 りりが。

 つむ丸を見る。


「来るよね?」


「…………」


「つむ丸」

「行く!」

「うん」


 りりが。

 少し笑った。


「じゃあね」

「おう!」


 りりが。

 歩いていく。


 つむ丸は。

 しばらく。

 その背中を見ていた。


「帰るぞ」


 俺が言う。


「俺、りりの家に帰るんだ!」

「そうだった」

「見る目ないな!」

「それ関係ある?」

「ある!」


 少し。


 いつもの声。


 でも。


 すぐ。

 また静かになった。


「たかし」

「何?」

「先帰ってて」

「なんで?」

「ちょっと」

「何?」

「考える」

「ここで?」

「歩く!」

「一人で?」

「大丈夫だ!」

「マネーいるかもしれないけど」


「…………」


「りりの家まで送る」

「子どもじゃない!」

「ウサギだろ」

「オリジナルだ!」

「知ってる」

「一人で帰れる!」

「ダメ」

「なんでだ!」

「分かんないものは警戒する」

「クマみたいなこと言うな!」

「借りた」

「返せ!」


 結局。


 りりの家の近くまで。

 一緒に歩いた。


「じゃあな」


 俺が言う。


「おう!」

「明日」

「何?」

「来いよ」


「…………」


「カラオケ」

「言われなくても行く!」

「そっか」

「俺は」


 一度。


 つむ丸が止まる。


「りりの最初のファンだからな!」


「知ってる」

「じゃあな!」

「うん」


 つむ丸が。

 走っていく。


 いつもの。

 短い足。


 小さい背中。


 角を曲がる。


 見えなくなる。


 俺は。

 少しだけ。

 その場にいた。


 次の日。


 つむ丸は。


 カラオケに来なかった。

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