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ラブミーくまどん! ~ある日、クマがうちに住み着いた~  作者: 雫石ぶた丸


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22/25

第22話 りりの夢

 翌日。


『連絡来た』


 昼休み。


 りりから。

 それだけ。


『事務所?』

『うん』

『何て』

『また話したいって』

『いつ』

『明後日』

『行く?』


 既読。


 少し。

 返事が来ない。


『行く』


 そのあと。


『多分』


「多分なんだ」


 俺は。

 スマホを閉じた。


 昨日。


 もう一人のつむ丸。

 マネー。

 写真。

 声。


『りりならいける』


 気になることは。

 増えている。


 なのに。


 りりの夢の方も。

 待ってはくれない。


*


 明後日。


 前と同じ。

 カフェ。


 俺。

 りり。

 つむ丸。


 今日は。

 くまどんはいない。


 仕事。


「クマは!」


 店に入る前。

 つむ丸が言った。


「仕事」

「大事な話だぞ!」

「本人に言えよ」

「言った!」

「何て?」

「休め!」

「無理だろ」

「断られた!」

「だろうな」


 りりが。

 少し笑う。


「入るよ」

「おう!」


 つむ丸が。

 胸を張る。


「今日は俺がいるからな!」

「何するの?」

「見守る!」

「静かに?」

「…………」

「できる?」

「できる!」

「声」

「…………」


 両手で。

 口を押さえた。


 いつもの。

 つむ丸。


 その姿を見ると。

 少しだけ。

 安心する。


*


「今日はありがとうございます」


 森さんが。

 頭を下げる。


「こちらこそ」


 りりも。

 頭を下げた。


「先日は、こちらから一方的に話してしまった部分もあったので」

「大丈夫です」

「考えていただけましたか?」

「はい」

「所属について」


「…………」


 りりが。

 つむ丸を見る。


 つむ丸も。

 りりを見る。


「まだ」

「はい」

「完全には決めてません」

「分かりました」


 森さんは。

 すぐに頷いた。


「今日は、もう少し具体的なお話をしたくて」

「具体的?」

「はい」


 資料。


 前より。

 少し多い。


「まず」


 森さんが言う。


「りりさんの歌を中心に活動していく方針は変わりません」

「はい」

「ライブ出演」

「はい」

「SNSでの発信」

「はい」

「レッスン」

「はい」

「それから」


 一枚。

 めくる。


「オリジナル楽曲の制作」


 りりが。

 止まった。


「…………」


「以前も少しお話ししましたが」


 森さんが続ける。


「所属していただけるなら、将来的にはオリジナル曲を出すことも考えています」

「ぼくの?」

「りりさんのです」


「…………」


「もちろん」


 森さんが笑う。


「すぐに、というわけではありません」

「はい」

「活動を見ながら」

「はい」

「作家さんと相談して」

「はい」

「りりさんがどういう歌を歌いたいのかも聞いて」

「…………」

「一緒に作っていけたらと思っています」


 りりが。

 資料を見る。


 さっきまでより。

 少し。

 目が違う。


「歌いたい」

「はい」

「自分の歌」

「はい」

「欲しいです」


 早い。


 多分。

 今日一番。

 早かった。


 つむ丸を見る。


「…………」


 静か。


 珍しい。


 でも。

 顔は。

 少し。

 笑っている。


*


「それと」


 森さんが言う。


「SNSについてですが」

「はい」

「最近、かなり反応が増えていますね」

「つむ丸です!」


 つむ丸が言った。


 りりが見る。


「…………」

「すみません」


 つむ丸が。

 小さく座る。


「つむ丸さんの動画」


 森さんが笑う。


「拝見しています」

「ほんとか!」

「はい」

「人気だろ!」

「かなり伸びています」

「ほら!」

「静かに」

「はい!」

「…………」


 静かではない。


「以前」


 森さんが続ける。


「つむ丸さんを前に出しすぎない方がいい、とお話ししました」

「はい」


 りりが答える。


「正直に言うと」

「はい」

「今の反応を見る限り、考え直す必要はあると思っています」


「…………」


 つむ丸が。

 顔を上げる。


「俺、出ていいのか!」

「企画によっては」

「おお!」

「ただ」


 森さんが言う。


「りりさんの歌を中心にする方針自体は変えません」

「…………」

「つむ丸さんが人気だから、つむ丸さん中心にする、ということではありません」

「分かってる!」

「ほんと?」


 りりが言う。


「分かってる!」

「ならいいけど」

「俺の夢は!」


 一度。

 息を吸う。


「りりを有名にすることだからな!」


「…………」


「俺が有名になることじゃない!」


 森さんが。

 少し驚いた顔をする。


「そうなんですね」

「そうだ!」

「なら」


 森さんが言った。


「りりさんを知ってもらう入口として、一緒に出てもらうことはあるかもしれません」

「入口!」

「はい」

「俺、入口!」

「ドアみたい」


 俺が言う。


「誰がドアだ!」

「入口って言ったの森さん」

「そうだった!」


 りりが。

 少し笑った。


 その時。


 つむ丸の顔が。

 一瞬だけ。

 止まった。


 何か。

 考えたように。


 でも。

 すぐに。


「任せろ!」


 いつもの声。


「俺が入口になる!」

「うるさい入口」

「最強の入口だ!」

「入りづらい」

「たかし!」


*


 話が終わった。


 森さんとは。

 また連絡することになった。


 店を出る。


「りり!」


 つむ丸が言う。


「何?」

「やったな!」

「まだ所属してない」

「でも!」

「うん」

「オリジナル曲!」

「うん」

「作るんだろ!」

「まだ決まってない」

「作れ!」

「ぼくが決める」

「作ってください!」

「急に丁寧」

「お願いします!」

「考える」

「考えるのか!」

「考えるよ」


 りりが。

 前を見る。


「でも」

「何だ!」

「歌いたい」


「…………」


「自分の歌」


 つむ丸が。

 止まる。


「じゃあ歌え!」

「簡単に言うね」

「りりならいける!」


「…………」


 一瞬。


 空気が。

 止まった。


 つむ丸も。

 気づいた。


 昨日。


 同じ言葉を。

 もう一人の何かが。

 口にしていた。


「…………」


「つむ丸」


 りりが呼ぶ。


「何だ!」

「ありがと」


「…………」


「今のは」

「何?」

「つむ丸が言ったやつだから」


「…………」


 つむ丸が。

 りりを見る。


「当たり前だ!」

「うん」

「俺の言葉だ!」

「うん」


 声。


 少しだけ。

 大きい。


*


「腹減った!」


 つむ丸が言った。


「さっきまで静かだったのに」

「話終わった!」

「何食べる?」

「ハンバーグ!」

「最近それ好きだね」

「好きだ!」

「じゃあファミレス?」

「行く!」


 歩く。


 いつもの。

 三人。


 でも。


 つむ丸が。

 少し後ろ。


 俺は。

 歩く速度を落とす。


「何?」


 つむ丸が言う。


「何が?」

「遅い」

「別に」

「腹減ってるんだぞ!」

「俺は減ってない」

「俺が減ってる!」

「知らないよ」

「急げ!」

「嫌」


 少し。

 歩く。


「つむ丸」

「何だ?」

「さっき」

「何?」

「嬉しかった?」

「何が?」

「りりの話」

「当たり前だ!」

「オリジナル曲」

「当たり前だ!」

「そっか」

「りりがずっとやりたかったことだからな!」

「うん」

「有名にもなる!」

「かもね」

「なる!」

「はいはい」

「適当!」


 また。

 少し。

 歩く。


「じゃあ」


 俺は言う。


「なんでそんな顔してるの?」

「どんな顔だ!」

「知らない」

「じゃあ言うな!」

「でも」

「何だ!」

「嬉しいだけじゃないだろ」


「…………」


 つむ丸が。

 止まった。


 りりは。

 少し先。


 スマホを見ながら。

 歩いている。


「俺」


 つむ丸が言う。


 小さい声。


「狙われてるんだろ」

「多分」

「マネーに」

「多分」

「俺が」

「うん」

「もっと有名になったら」


「…………」


「もっと来るのかな」


 初めて。


 つむ丸が。

 それを言った。


「分かんない」

「そうだよな」

「くまどんでも知らないし」

「役立たないクマだ!」

「本人の前で言えよ」

「言う!」

「そう」


「でも」


 つむ丸が。

 前を見る。


 りり。


 少し離れたところ。


「俺が出たら」

「うん」

「りりももっと見てもらえる」

「多分」

「なら出る」


「…………」


「決まってる」

「怖くない?」

「怖くない!」


 早い。


 いつも通り。


 声が。

 大きい。


「ほんと?」


「…………」


 つむ丸が。

 少し黙った。


「ちょっと!」

「そっか」

「ちょっとだけだ!」

「うん」

「でも」

「何?」

「りりが歌えるなら」


 つむ丸が言う。


「俺は出る」


「…………」


「逃げない!」

「そっか」

「止めないのか?」

「止めてほしい?」

「違う!」

「じゃあいいじゃん」


「…………」


「でも」


 俺は言う。


「勝手に一人で決めるなよ」

「何を?」

「全部」


「…………」


「りりにも言われてただろ」


 勝手に決めないで。


 ぼくのことだから。


 つむ丸が。

 少しだけ。

 俯く。


「覚えてる」

「なら」

「分かった!」

「声大きい」

「これが普通だ!」

「そうだった」


*


 ファミレス。


「オリジナル曲!」


 つむ丸が。

 ハンバーグの横で叫ぶ。


「まだ言ってる」


 りりが言う。


「タイトル考えるぞ!」

「まだ曲もない」

「先にタイトル!」

「いらない」

「『りりの歌』!」

「却下」

「なんでだ!」

「そのままだから」

「分かりやすい!」

「嫌」

「じゃあ『最強のりり』!」

「嫌」

「『りりならいける』!」


「…………」


 りりが。

 止まる。


 つむ丸も。

 止まる。


「それは」


 りりが言う。


「曲のタイトルにしない」

「なんで?」

「つむ丸の言葉だから」


「…………」


「歌にしたら?」

「嫌」


「…………」


「ぼくだけの言葉じゃないから」


 つむ丸が。

 何も言わない。


「何?」


 りりが聞く。


「別に!」

「声大きい」

「普通だ!」

「ほんと?」

「ほんと!」


 俺は。

 二人を見る。


 マネーは。

 つむ丸の声を真似できる。


 見た目も。

 喋り方も。


 多分。


 これから。

 もっと似ていく。


 でも。


 今の。


『りりならいける』


 同じ言葉でも。


 多分。

 同じじゃない。


「たかし」

「何?」

「何笑ってるの?」

「笑ってない」

「笑ってた」

「気のせい」

「気持ち悪いぞ!」

「お前に言われたくない」

「なんでだ!」


 いつもの。

 声。


 いつもの。

 つむ丸。


 その日は。

 それで終わった。


*


 夜。


 家。


 くまどんは。

 座椅子。


 俺は。

 ベッド。


「りり」

「何?」

「じゃない」


「…………」


 くまどんが。

 こっちを見る。


「何?」

「間違えた」

「誰と?」

「別に」

「気持ち悪いな」

「うるさい」


 天井を見る。


「くまどん」

「何?」

「夢ある?」

「急だな」

「いいから」

「ポテト食い放題」

「真面目に」

「真面目だけど」

「もういい」

「たかしは?」

「何が?」

「夢」


「…………」


「聞いたのそっちだろ」

「ない」

「そう」

「多分」

「そう」

「何?」

「別に」

「腹立つな」


「で」


 くまどんが言う。


「どうしたい?」


「…………」


 また。


 それ。


「分かんない」

「そう」

「でも」

「何?」


 俺は。

 少し考える。


「りりの夢は」

「うん」

「叶ってほしいと思う」

「そう」

「つむ丸も」

「うん」

「消えてほしくない」

「そう」

「それくらい」

「十分じゃない?」

「何が?」

「今は」


「…………」


 くまどんが。

 目を閉じる。


「自分のこと分かんなくても」

「うん」

「誰かにどうなってほしいかは分かってる」


「…………」


「そこからでいいんじゃない?」

「珍しくいいこと言うな」

「俺はいつもいいこと言う」

「それはない」

「なんでだよ」


 静かになる。


 俺は。

 天井を見る。


 りりには。

 歌いたい歌がある。


 つむ丸には。

 叶えたい夢がある。


 俺には。


 まだ。

 ない。


 でも。


 二人の夢が。

 なくなってほしくない。


 それだけは。


 少し。

 分かるようになっていた。

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