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ラブミーくまどん! ~ある日、クマがうちに住み着いた~  作者: 雫石ぶた丸


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18/25

第18話 つむ丸を有名にしろ

 翌日。


「作戦会議を始める」


 俺が言った。


「何の?」


 りりが聞く。


「つむ丸」


「俺!?」


「そう」


「ついに俺の時代か!」


「違う」


「なんでだ!」


 カラオケ店。


 休憩室。


 テーブルの上には、俺のノートパソコン、スマホ、紙、ペン。


 あと。


 ポテト。


「なんでポテトあるの?」


 りりが聞く。


「会議には必要だろ」


 くまどんが答える。


「初めて聞いた」


「俺も」


「じゃあ食べるなよ」


「それは別」


 くまどんが一本取る。


「で?」


 りりが俺を見る。


「何するの?」


「つむ丸を有名にする」


「おお!」


 つむ丸が立ち上がる。


「もっと言え!」


「つむ丸を有名にする」


「もっと!」


「二回で十分だろ」


「気持ちが足りない!」


「面倒だな」


「クマみたいなこと言うな!」


「最近それ俺の悪口になってない?」


 くまどんが言う。


「違う!」


「ならいいけど」


「いいんだ」


 りりが笑う。


 つむ丸の右手。


 まだ。


 少しだけ薄い。


 昨日より。


 悪くはなっていない。


 でも。


 戻ってもいない。


「まず」


 俺はパソコンを開く。


「今までの動画を見直した」


「全部?」


「だいたい」


「いつ?」


「昨日」


「寝た?」


「寝た」


「何時間?」


「知らない」


「寝てないやつ」


「寝たって」


 りりが少しだけ俺を見る。


「無理しないで」


「してない」


「くまどんにも言われてたじゃん」


「暇だったから」


「出た」


「何が?」


「それ」


 りりが言う。


 俺は無視して。


 画面を見せる。


「今まで反応が良かった動画」


「おう!」


「これ」


 再生する。


 画面の中。


 つむ丸とくまどん。


『生麦生米生卵!』


『はい』


『なまもめなまごめ――』


『もう噛んでる』


『まだ終わってない!』


 動画が止まる。


「これ?」


 りりが聞く。


「これ」


「俺の華麗な早口言葉だな!」


「噛んでるけど」


「演出だ!」


「初耳」


「今決めた!」


 俺は次の動画を見せる。


 クッキーを食べようとして。


 短い腕が届かないつむ丸。


『届かん!』


『腕短いな』


『りりが作ったんだからいいんだ!』


 再生を止める。


「これも」


「…………」


 つむ丸が右手を見る。


 少しだけ。


 薄い手。


「コメント多かった」


 俺が言う。


「悪いやつ?」


 りりが聞く。


「それもある」


「…………」


「でも」


 画面をスクロールする。


『このウサギなんかクセになる』


『腕届かないの笑った』


『必死なのかわいい』


『よく見ると耳の長さ違うの好き』


『りりが作ったってマジ?』


『こいつ何者?』


 りりが。


 画面を見る。


「増えてる」


「うん」


「前からこんなのあった?」


「少なかった」


「じゃあ」


 つむ丸が言う。


「俺はかわいいということか!」


「そこだけ拾う?」


「大事だ!」


「まあ」


 俺は言う。


「多分」


「多分!?」


「見た目が整ってるとかじゃなくて」


「おい!」


「そのままの方が反応ある」


「そのまま?」


「耳とか」


「…………」


「腕とか」


「…………」


「喋り方とか」


「喋り方は完璧だ!」


「うるさいところとか」


「誰がうるさい!」


「それ」


「何だと!」


 りりが吹き出す。


「だから」


 俺は続ける。


「つむ丸を格好よく見せるのはやめる」


「待て!」


「かわいく見せるのもやめる」


「待て待て!」


「そのまま撮る」


「一番雑じゃないか!」


「多分それがいい」


「根拠は!」


「数字」


「数字に負けた!」


 つむ丸が。


 テーブルに膝をつく。


「大丈夫?」


 りりが聞く。


「大丈夫じゃない!」


「元気そう」


「元気だ!」


「じゃあ大丈夫」


「りりまで!」


*


「何撮る?」


 りりが聞く。


「つむ丸だけ」


「俺だけ!?」


「そう」


「りりは?」


「出ない」


「なんで!」


「つむ丸を見てもらうためだから」


「…………」


「嫌?」


「嫌じゃない!」


 即答。


「むしろやる!」


「じゃあ」


 スマホを構える。


「何か喋って」


「任せろ!」


 つむ丸が。


 カメラの前に立つ。


「…………」


 胸を張る。


「…………」


 黙る。


「何か喋れよ」


「今考えてる!」


「任せろって言ったじゃん」


「準備があるんだ!」


「普段あんなに喋るのに」


 りりが言う。


「カメラ向けられると違う!」


「意外」


「うるさい!」


「それでいいんじゃない?」


「何が!」


 俺は録画を止めない。


「今の」


「今の?」


「使う」


「待て!」


「自然だった」


「もっと格好いいやつ撮れ!」


「いらない」


「いる!」


「いらない」


「いる!」


「じゃあ一回だけ」


「よし!」


 つむ丸が。


 姿勢を正す。


「俺の名前はつむ丸!」


「うん」


「りりの!」


「うん」


「最初のファンで!」


「うん」


「将来!」


「…………」


「世界一有名になる!」


「誰が?」


「俺が!」


「りりじゃないんだ」


「違う!」


「撮り直し」


「今のなし!」


 りりが笑う。


「何笑ってる!」


「別に」


「笑ってた!」


「楽しい」


「ならいい!」


「いいんだ」


 くまどんが言う。


「りりが楽しいなら何でもいい!」


「お前ほんと分かりやすいな」


「クマに言われたくない!」


「俺はもっと複雑」


「どこが!」


 また。


 二匹が喧嘩する。


 俺はそのまま。


 録画を続けた。


*


 夜。


 家。


 パソコン。


 画面の中。


 つむ丸。


『俺の名前はつむ丸!』


 カット。


『今考えてる!』


 カット。


『数字に負けた!』


 カット。


『りりが作ったんだからいいんだ!』


 前の動画。


 また。


 新しい動画。


『俺が世界一有名に――違う!』


 カット。


「何それ」


 くまどんが横から見る。


「動画」


「見れば分かる」


「じゃあ聞くな」


「冷たいな」


 俺は。


 短く切る。


 繋げる。


 字幕を入れる。


 消す。


 また入れる。


「たかし」


「何?」


「それ何本目?」


「三本目」


「今日だけで?」


「うん」


「一日にそんな出すの?」


「全部は出さない」


「じゃあ何するの?」


「ストック」


「へえ」


「投稿する時間も変える」


「何時?」


「反応良かった時間」


「へえ」


「文章も」


「へえ」


「お前聞いてないだろ」


「聞いてる」


「じゃあ何て言った?」


「ポテト食いたい」


「言ってない」


「今言った」


「知らない」


 くまどんが冷蔵庫を開ける。


「ない」


「知ってる」


「買ってきて」


「嫌」


「暇なんだろ」


「暇でも嫌」


「暇の使い方下手だな」


「お前に言われたくない」


 スマホが鳴る。


 りり。


『まだやってる?』


 俺は返信する。


『やってる』


 すぐ返ってくる。


『寝て』


『もう少し』


『昨日もそれ』


『今日は早く寝る』


 少し。


 間が空く。


『ありがとう』


 俺は画面を見る。


 何て返すか。


 少し考える。


『別に』


 送る。


 すぐ。


『出た』


 返ってきた。


「何?」


 くまどんが聞く。


「何でもない」


「にやけてる」


「にやけてない」


「気持ち悪いぞ」


「殴るぞ」


「怖」


 パソコンに戻る。


 動画。


 つむ丸。


 また。


 スマホが鳴った。


 今度は。


 つむ丸。


『起きてるか!』


 メッセージ。


『起きてる』


『りり寝た!』


『なんで知ってる』


『同じ家にいるから!』


 そうだった。


『で?』


『動画作ってるんだろ!』


『うん』


 少し。


 返事が来ない。


 つむ丸にしては。


 長い。


『ありがとな!』


「…………」


 俺は。


 画面を見た。


 昨日。


 薄くなった右手。


 りりに抱えられていたつむ丸。


 駅で。


 いつも通り胸を張ったつむ丸。


 思い出す。


『暇だっただけ』


 送る。


 数秒。


『嘘つけ!』


 返ってきた。


『暇』


『ならもっと俺を格好よく編集しろ!』


『無理』


『なんでだ!』


『素材が悪い』


『喧嘩売ってるのか!』


『寝ろ』


『まだ寝ない!』


『りりに怒られるぞ』


 既読。


 返事なし。


 一分。


『寝る!』


「素直」


 俺は。


 少し笑った。


*


 翌朝。


 投稿。


 一本目。


 つむ丸だけの動画。


『俺の名前はつむ丸!』


『りりの最初のファンで!』


『りりを世界一有名にする!』


『今のは合ってる!』


 十三秒。


 短い。


 いつものつむ丸。


 格好よくも。


 かわいくも。


 していない。


 そのまま。


 投稿して。


 大学へ行く。


 昼休み。


 スマホを見る。


 再生数。


 昨日までより。


 少しだけ早い。


 コメント。


『このウサギ単体だとうるさすぎて笑う』


『最初のファンって何?』


『りりが作ったやつ?』


『耳の形かわいい』


『なんか好き』


『もっと見たい』


「…………」


 もっと見たい。


 その文字を。


 俺は。


 少し長く見た。


 その時。


 りりから写真が届く。


 つむ丸。


 右手。


 昨日より。


 ほんの少し。


 透け方が弱くなっていた。


 その下。


『戻ってる』


 俺は。


 写真を見る。


 完全じゃない。


 まだ。


 少し薄い。


 でも。


 確かに。


 昨日とは違った。


『よかった』


 送る。


 すぐに。


 別のメッセージ。


 つむ丸。


『見たか!』


『見た』


『俺の時代だ!』


『まだ早い』


『見る目ないな!』


『昨日より戻ったんだろ』


 少し。


 間。


『おう!』


『よかったな』


『当たり前だ!』


 また。


 間。


『たかし』


『何』


『今日もやるぞ!』


『何を』


『俺を有名にする!』


『自分で言うな』


『お前が言ったんだろ!』


 確かに。


 俺が言った。


 つむ丸を。


 有名にする。


 別に。


 有名になってほしいわけじゃない。


 多分。


 消えてほしくないだけだ。


 でも。


 今は。


 それでいい。


 俺は。


 次に出す動画を考えながら。


 午後の講義へ向かった。

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