第11話 動画をとろう
「動画を撮るぞ!」
つむ丸が言った。
「急だな」
俺が答える。
「急じゃない!」
「じゃあいつから考えてたの?」
「今!」
「急じゃん」
カラオケ店。
夕方。
俺は受付カウンターの内側。
その向こう側に、りり。
つむ丸。
そして。
「何の動画?」
くまどん。
「りりの動画だ!」
つむ丸が胸を張る。
「みんなにもっとりりを見てもらう!」
「SNS用?」
「そうだ!」
俺はりりを見る。
「やるの?」
「やる」
「即答」
「前から増やしたいと思ってた」
「動画を?」
「うん」
りりがスマホを見せる。
画面には、これまで投稿してきた動画が並んでいる。
歌っているもの。
ライブの告知。
短いコメント。
「歌ばっかりだな」
「歌うから」
「それは知ってる」
「ダメ?」
「ダメじゃない」
俺は画面を眺める。
「でも、似た感じにはなってるな」
「そうなんだよね」
りりも気にしていたらしい。
「歌は続けたい」
「うん」
「でも、それ以外もあった方が見てもらえるかもって」
「なるほど」
つむ丸が横から割って入る。
「だから面白い動画を撮る!」
「例えば?」
「…………」
「考えてないのかよ」
「これから考える!」
「勢いだけじゃん」
「勢いは大事だ!」
「お前ほんと精神論好きだな」
くまどんが笑う。
「クマは黙れ!」
「くまどんな」
「知ってる!」
「やっと覚えたじゃん」
「前から知ってる!」
そこは認めたくないらしい。
*
十分後。
十五号室。
テーブルの上に。
スマホ。
メモ帳。
飲み物。
ポテト。
「なんでポテトあるの?」
「考える時には必要だ」
くまどんが答える。
「何に?」
「頭」
「ポテトで頭回るの?」
「回る」
「初めて聞いた」
俺は椅子に座る。
りりは向かい。
つむ丸はテーブルの上。
くまどんはポテトの横。
「で」
俺は言う。
「何を撮る?」
「歌!」
つむ丸。
「それはもうある」
「新しい歌!」
「結局同じじゃん」
「じゃあ歌ってないりり!」
「何するの?」
「…………」
「また考えてない」
りりが水を飲む。
「普通に喋るとか?」
「誰と?」
「誰でも」
「一人だと喋ることない」
「分かる」
「たかしも?」
「一人で喋ってたら怖いだろ」
「そういう意味じゃない」
くまどんがポテトを食べる。
「俺と喋れば?」
「お前?」
「うん」
りりがくまどんを見る。
「何話すの?」
「知らない」
「なんで提案したの?」
「なんとなく」
「使えない」
「ひどくない?」
俺は少し考える。
「でも」
「何?」
「普通に喋ってるところは、ありかも」
りりが首を傾げる。
「これが?」
「歌ってるところしか知らない人なら、普段どんな感じか分かるし」
「普段ってこんな感じ」
「だから、それを撮る」
「面白い?」
「分からない」
「分からないんだ」
「やってみればいいじゃん」
つむ丸がテーブルを叩く。
「それだ!」
「どれだよ」
「やってみる!」
「最初からその話してる」
*
「じゃあ撮るよ」
俺はスマホを構える。
りりとくまどんが並ぶ。
「なんで俺も?」
「お前が喋るって言ったから」
「軽い気持ちだった」
「責任持て」
「重いな」
りりがカメラを見る。
「どうする?」
「普通でいい」
「普通?」
「普段みたいに」
「何話す?」
「それも普段通り」
「普段そんなに話してないけど」
「じゃあ」
俺は少し考える。
「好きな食べ物」
「急」
「何でもいいから」
りりがくまどんを見る。
「好きな食べ物は?」
「ポテト」
「知ってる」
「りりは?」
「辛いもの」
「意外」
「何が?」
「甘いもの好きそう」
「偏見」
「見た目」
「もっと偏見」
「…………」
俺はスマホ越しに見る。
「そのまま」
「何が?」
「今の感じ」
「こんなのでいいの?」
「多分」
「多分多いね」
「専門家じゃないから」
くまどんがカメラを見る。
「こいつ信用していい?」
「微妙」
「おい」
思わず笑った。
その時。
「りりならいける!」
画面の下から声。
「うわっ」
つむ丸が飛び込んできた。
「何してる!」
「今撮ってる!」
「俺も出る!」
「なんで?」
「りりの動画だから!」
「理由になってない」
つむ丸がりりの前に立つ。
「俺が一番りりを知ってる!」
「画面隠れてる」
「じゃあ横!」
「自由だな」
くまどんがつむ丸を見る。
「邪魔じゃん」
「お前に言われたくない!」
「俺は呼ばれた」
「クマのくせに!」
「くまどんな!」
「知ってる!」
「じゃあ呼べ!」
「嫌だ!」
また始まった。
「撮ってるからな」
俺が言う。
「え?」
二匹が止まる。
「ずっと?」
「ずっと」
「最初から言え!」
つむ丸が叫ぶ。
「言ったら不自然になるだろ」
「俺はいつでも自然だ!」
「その主張がもう不自然だよ」
りりが笑った。
「これ使えば?」
「今の?」
「うん」
「二匹が喧嘩してるだけだぞ」
「面白い」
「ぼくもそう思う」
本人が言うなら。
まあ。
ありなのかもしれない。
俺は撮った動画を確認する。
りり。
くまどん。
突然入ってくるつむ丸。
二匹の口喧嘩。
その横で笑っているりり。
「…………」
「どう?」
りりが聞く。
「悪くない」
「だろ!」
つむ丸が胸を張る。
「お前は途中から入っただけだろ」
「結果が全てだ!」
「都合いいな」
*
バイトが終わったあと。
俺は自宅の机に座っていた。
目の前。
ノートパソコン。
横。
くまどん。
「まだやるの?」
「あとちょっと」
「さっきからそれ言ってる」
「今何時?」
「十一時半」
「まだ早い」
「大学生怖」
「お前さ」
「何?」
「そこ切って」
「俺?」
「見てるなら意見くらい出せよ」
「編集分からない」
「じゃあ感覚で」
「雑だな」
動画を切る。
長い沈黙。
余計な部分。
最初。
最後。
「ここいる?」
くまどんが画面を指差す。
「どこ?」
「俺がポテト落としてるところ」
「いる」
「なんで?」
「面白いから」
「消せ」
「嫌」
「本人が嫌って言ってる」
「でも面白い」
「最悪」
数分。
また数分。
短くする。
字幕を入れる。
音量を見る。
「こんな感じかな」
再生。
『好きな食べ物は?』
『ポテト』
『知ってる』
『りりは?』
『辛いもの』
少し進んで。
『りりならいける!』
『うわっ』
『俺も出る!』
『邪魔じゃん』
『お前に言われたくない!』
最後。
りりが笑う。
「まあ」
くまどんが言う。
「悪くないんじゃない」
「上からだな」
「俺、出てるから」
「ノーギャラだけど」
「ポテト」
「払っただろ」
スマホが鳴る。
りりから。
『できた?』
俺は動画を送る。
少しして。
『いい』
「短っ」
「りりらしいじゃん」
「そうだけど」
もう一件。
『これ上げる』
「早」
「決めたら早いんだろ」
「そうだった」
俺は時計を見る。
「今上げるの?」
『今でいい?』
ちょうどメッセージが来る。
「待って」
「何?」
「せっかくなら見られやすい時間の方がよくない?」
「そこまでやるの?」
「どうせなら」
スマホで少し調べる。
投稿する時間。
投稿文。
動画の長さ。
「たかし」
「ん?」
「楽しそうだな」
指が止まった。
「何が?」
「それ」
「編集?」
「分かんない」
「じゃあ何だよ」
「さあ」
くまどんがポテトを食べる。
「別に」
「腹立つな」
「お前の真似」
「二回目だぞ」
俺はりりにメッセージを送る。
『少し待って。投稿する時間だけ見てる』
すぐに返事。
『詳しいね』
「…………」
少し考える。
『暇だったから』
送信。
くまどんが画面を覗く。
「暇だったんだ」
「暇だった」
「二時間やってるけど」
「暇だった」
「ふーん」
「何だよ」
「別に」
また。
腹が立つ。
*
翌朝。
目を覚ます。
スマホを見る。
「…………」
昨日の動画。
思っていたより見られている。
いつもの歌の投稿より。
少し反応が多い。
コメントもある。
『クマかわいい』
『ウサギ元気すぎる』
『りり笑ってるのいい』
『この組み合わせ好き』
「…………」
横を見る。
くまどんはまだ寝ている。
「おい」
「…………」
「くまどん」
「……何」
「動画」
「……何時?」
「朝」
「寝ろ」
「反応いい」
「…………」
目が開いた。
「どれくらい?」
「起きるの早っ」
くまどんがスマホを見る。
「お」
「結構いいだろ」
「俺のおかげだな」
「りりだろ」
「俺」
「つむ丸かも」
「それはない」
「本人に言うなよ」
スマホが震える。
つむ丸からメッセージ。
『次は俺がもっと出る!』
「…………」
「何?」
「面倒なの起きた」
くまどんが画面を見る。
「やらない」
「俺も」
もう一件。
『クマより目立つ!』
「…………」
くまどんの目が変わった。
「やる」
「やるんかい」
昨日まで。
次の動画を撮る予定なんてなかった。
でも。
今日。
また撮ることになりそうだ。
しかも。
多分。
昨日より面倒なやつを。




