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『R.I.S.E.:Over the Sky』~虚弱少女はいかにして浪漫を貫くに至ったか~  作者: あらまき
PROJECT: ARC

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竜胆戒


 関節を再びロックし、システムを停止。

 ラプトルのコックピットハッチが開放され、背面はそのまま地面に降りられるよう階段となる。


 この機構に、あさひは大変感心を覚えた。


 背面から搭乗するのは、あらゆるユニットにおいてデフォルトとなる。

 けれど、普通のユニットは段差や専用の高台を用意してコックピットに乗り込む。


 このようにコックピット背面ハッチそのものが変形して階段となり、直接出入りできる機構は、重機メーカーならではの素晴らしき特性であった。


「この子、このまま放置で良いですか?」

「構わないとも!」

 それだけ言って、なぎさは一足先に階段を上る。


 その時、はじめてあさひは気づいた。

 なぎさが階段を上る時、片足を引きずっているということに。




 三人が上に上がると、ガレージの入口付近で一人の男が待っていた。


 身長は百七十センチ半ばから後半。

 達臣よりは少し低い。

 細身ではあるが、肩幅や手足の太さから大分筋肉質に見える。


 黒っぽい地味な服装はまあ良い。

 センスの良し悪しは別として似合っている。

 だからその分、顔を隠すよう深く被った黒い帽子が、妙に浮いているように見えた。


 藍色のショートカットで中背の細マッチョ。

 そんな彼は、どこか不機嫌そうなむっつり顔をしていた。


「これで二人だ。案外何とかなるような気がしてきたよ! というわけで二人とも、自己紹介をしようか!」

 なぎさがそう言うと、迷わずあさひが声をあげた。


「ロボティクス学科一年の天羽あさひ。好きな言葉は一撃必殺!」

 拳を突き出すポーズを取って、妙に前のめりなあさひ。

 そんなあさひ気圧され、彼は一歩後ろに下がった。


「お、同じく、ロボティクス学科一年のカイだ。好きな言葉は特に……」

「よろしく! それで、好きな機体は? それと好きなアニメは?」

 カイは顔をそらし、ぽつりと呟く。


「どちらも、別に……」

「え? そなの? 箱舟に来たのに?」

 あさひはきょとんとした顔を見せる。

 よほど極まったロボ好きでもない限り、こんなところには来ないだろうと当事者であるあさひさえ思っていた。


「そいつが学費免除してくれるって言うからな」

 カイはなぎさを指差し、そう口にした。

「もしかして……カイ君、あんまりやる気ない感じ?」

「もしかしなくてもそうだな」

「そっか。ま、名前だけでも貸してくれたら助かるよ」

「ああ。と言っても、あんたよりは動ける。賞金を稼ぎたいなら俺を使え。どっちでも良いけどな」


 ぴきっ。


 何か、不思議な音をあさひは聞く。

 それは、自分のこめかみからのものだと気づいたのは、どうしようもない怒りを理解してからだった。


「もしかして……挑発してる?」

 にっこりと威圧的な笑みを浮かべ、あさひは尋ねた。

「単なる事実だ」

「ほ、ほほー。自信たっぷりですなぁ。その根拠は何かしら?」

「あんた、女じゃないか」


 一瞬即発レッドゲージ。

 一発退場の一言にあさひはキレた。


「オーケーぷっつんですわ。シミュレーターで勝負じゃてめぇ! 絶対吠え面かかせてやる!」


 あさひの頭の中にいるカミ〇ユ君が拳を構えていた。


 一瞬ぴくっと反応したカイだが、すぐ元の仏頂面に戻り、興味なさげにあさひから顔をそらした。

「面倒だから嫌だ。お前が自分の方が上だと思うなら、それで構わん。どうでも良い」

「はぁああああああああああああ!? パイロット志望のくせに何そのやる気のなさ! こっちに来い、修正してやる! 暴力以外で」


 女だからという発言よりも、パイロットの癖に我がないことの方にあさひはムカついていた。

 カイは面倒そうに溜息を吐いた後、一枚のカードを見せる。


 それは、正規のPDライセンスだった。


「……え? 何、あんた年上だったの? 留年?」

「いや」

「じゃあなんでもうライセンス持ってんのよ!? 私だってまだなのに!?」


 叫び、ジロジロとカードを見る。

 取得日は今から二年前。

 つまり、高校生の間に。


 ライセンスカードの取得は非常に厳しい。

 そしてその条件の一つに本来なら、『高校卒業』も含まれる。


 だからまだあさひも持っていない。

 とはいえ、あさひも近々取得に乗り出す予定ではあるが。


 にもかかわらず、カイと名乗った男は高校生の時点で取得が完了している。

 それは相当に特別な理由がないと不可能なことだろう。

 普通では、ありえない。


 目を凝らして見て、そこであさひはカイの本名に気づく。


竜胆戒りんどうかい


 さっき名乗らなかったその苗字に、あさひは聞き覚えがあった。


「あのさ……カイ」

「なんだよ?」

「もしかしてあんたの家、あの『竜胆』?」

 カイは否定も肯定もせず、無言となった。


 歴史の浅い興行ロボバトルの『RISE』で、その例えはあまり適切でないだろう。

 けれど、例えとしてはこれ以上ないほどわかりやすいのも事実だった。


『家元』


 イクス・ユニットがその名となる前からずっと第一線で関わり続け、復興・発展に努めながらもライズバトルで一流の成績を維持する。

 竜胆というのは、そういう一族の名であった。


「どうして……竜胆がこんなところに……」

 "こんなところ"なんて言いたくない言葉だが、それでもこれはあさひの心の底からの疑問だった。


 箱舟計画なんて格好付けていても、結局は十年前に失敗した弱小部活の再始動。

 しかも当時のメンバーがいないから、それはもうほとんど単なるファン活動。


 箱舟計画に竜胆の名を持つ男を巻き込む価値はなかった。


 カイは唇の端だけを吊り上げ、笑う。

 まるで、世界を呪うかのような、そんな歪さがそこにあった。


「"こんなところ"に来る程度の才能しかない落ちこぼれだったんだよ、俺は」

「カイは……ユニットが嫌いなの?」

「……いや。嫌いなら来てない」


 ぱぁっと、あさひの表情が明るくなる。

 けれど……。


「嫌いになるほどの興味もない。ユニットなんて……もう、どうでも良い」


 淡々とした表情があまりにも辛そうだったからだろう。

 あさひの中にあった怒りは、いつの間にか消えてしまっていた。


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