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『R.I.S.E.:Over the Sky』~銀髪美少女が浪漫を貫くようです~  作者: あらまき
PROJECT: ARC

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『HMM-4E:ラプトル』


 別にあさひだって、これがはじめてというわけではない。


 イクス・ユニットトレーニングセンター――その訓練施設には、幼い頃から通っている。

決して近い場所ではなく、気軽に足を運べる距離でもない。

それでも、ことあるごとに父へせがみ、何度も連れて行ってもらった。


 シミュレーターの訓練という意味なら、呼吸も同然に行って来た。


 それでも、コックピットシートに座ると、心が高揚する。

 テンションが上がり、歌いだしたくなる。

 やっぱり、自分の夢はここにしかないんだと、魂で確認出来る。


 それが、天羽あさひという女であった。


「……燃えるなぁ」

 彼女は、心に炎を宿す行動を心掛けている。

 憧れの人と同じように、いつでも全力が出せるように。


 まあ、ただコックピット内でテンションが上がっているだけと言えばそれまでの話なのだが。


 手慣れた仕草で、作法どおりにロックを解除し、本体電源を起動する。

 直後、正面にモニターが表示された。


 カメラアイがとらえた映像だが、起動プロトコル中であるため古いゲーム機くらいぼやけていた。


 同時に、つらつらと英文が流れていく。


『コックピットロック固定』

『起動シーケンス作動……チェックオールクリア』

『PM(Phase Modulation)エンジン起動』

『AEPならびにアンチAEPフィールド確認ならず』


 あさひは正面に置かれた二つの球体、『エーテルスフィア』に両手を突っ込む。

 ぐにゃりと、スライムのような感触が手をひたすが、実際に濡れているというわけではない。

 この《《疑似》》存在状態を維持している操作空間は『エーテルスフィア』と呼ばれる。

 これがイクス・ユニットの操作パネルであり操縦桿となる。


流体神経接続回路ニューラルサーキット起動』

『神経センサー起動……シナプス認証、神経接続完了』


「えっと、フィールドチェックを飛ばして……後の項目もカット。限定状態になりますがよろしいですか……と、はいよろしいですっと」

 タイピングのようにスフィア内で指を動かし、進めていく。

 あまり好きになれない操作だが、それでももう手慣れと呼ぶ程度にはなじんでいた。


 最低限のチェック項目を完了した後、あさひは即座に設定項目を選び、コンソール変更を指定。

 そしていつもの『タイプC』を選択して、操作システムを変更した。


 エーテルスフィアから手を離すと、ブンっと音を鳴らし、エーテルスフィアは消滅する。

 そしてくるりと台座が入れ替わり、スフィアのあった場所に二本のグリップが現れた。

 トップに赤いボタンを持ち、指先すべてにボタンの内蔵されたレバー形状のグリップ。


 それは、誰が見ても一目でそうだとわかる『操縦桿』であった。

 時間差で、両サイドに二枚ずつ、計四枚のキーボードが現れる。


 四つのキーボードと二本の操縦桿。

 このクラシックスタイルこそが、あさひの考えるベストな操縦スタイルであった。


「これこれ! このまま発進とか言いたいけど……」

 それを叫ぶタイミングは、今日じゃない。


 必ずベストな場所があるはず。

 そう考え、最後の認証を起動する。


『関節ロック解除』


 モニター映像がクリアになった直後、がくんと身体が大きく揺れる。

 まるでエレベーターが頂上から最下層まで落下したと感じるような、車がクラッシュしたかと勘違いするほどの強烈なブレ。

 シートベルトをしていなければ天井に押しつぶされていただろう。


 今まであさひが経験したことのない衝撃だった。


 それはシミュレーションではカットされる部分であり、そしてトレーニングセンターの高品質かつ低衝撃のユニットでは味わえない本物の衝撃。


 だからきっと、これこそが本当の意味でユニットに搭乗するということなのだろう。


 全身に痛みを覚えながらも、あさひは目を閉じ、口を噤み、ぷるぷると歓喜を味わっていた。




 ARCガレージのメインとなる地下階層。

 そこで達臣は、外から彼女の様子を見つめていた。

 正しくは、彼女の乗るその機体の様子を。


 型番号『HMM-4E』。

 名称『ラプトル』。


 五メートル程度というユニットの中でも限りなく小型軽量タイプであり、そして廉価なもの。

 T字形状のボディにゴツく不格好な手足が接続されたその姿は、人と比べて非常に横広く、ユニットというよりも重機を彷彿とさせる。


 それもそのはず。ラプトルを製作している『JPI工業』は、国内の大手重機メーカーである。

 重機が本職だから当然、ユニット製造のノウハウは他社と比べ圧倒的に低い。


 操作性は悪く、耐久性能も低く、そして極めつけはその手。

 関節が少なく可動域は狭く、それでいて腕の形は『C』。

 大昔のコメディ系ロボットアニメみたいなふざけた形状をしていた。


 様々な種類のあるユニットの中でも限りなく異質。

 こんなのでバトルでもしようものなら負けるどころか一瞬で大破する。

 というかそもそも、ユニットだというのにバトルをする用途は最初から考慮されていない。


 それでも、これが現状アークの所有する唯一のユニットであり、更に言えば既にもう一機同型機を購入し、配備予定でさえあった。


「天羽、いけそうか?」

 タブレットで操縦席とリンクし、達臣は尋ねた。

『もち! でもさ先輩。なんか色々ロックかかってるんだけど』

 全体的に速度が遅く、そして足が稼働しない。


 二足ロボだというのに、足裏かかとにあるローラーが回転し、車のように移動していた。


「不満か?」

『これはこれで好きだけど、やっぱり遅すぎてイライラする。解除して』

「駄目だ」

『なんでー!?』

 すっかり敬語を忘れているあさひに、達臣は溜息を吐いた。


「何でも何も、ここはフィールド外だ。フルパワーの機体を使って良いわけがないだろう」


 人型ロボットであるイクス・ユニットが、それも武器を持っていることの多いものの取り扱いが厳しくないわけがない。


 これが、通常ユニットを後回しにしてでもラプトルを入手した理由の一つ。


 ラプトルは資格も許可証もなく、誰でも操作することが許された『特別制限モード』が搭載されている。

 制限モード運転条件は、成人していること。

 そのたった一つだけで、トレーニングセンターに行かずともユニット操縦の練習をすることが可能となる。


 そしてもう一つ、ラプトルを導入した理由は……。


「それでは天羽。そろそろ始めてくれ」

「はぁーい」

 やる気のなさそうな、けだるそうな声で、あさひは正面に見える壊れた棚を器用に持ち上げ、隅の方に運んでいく。


 これがその、もう一つの理由。

 地下階層の、まるで悪の科学者の秘密基地かのような、膨大な超巨大スペース。


 そこには壊れた家財や大型スクラップなど、人の手ではどうしようもない大きなゴミが無数に散乱している。

 十年どころか百年くらい放置されているような、そんなとんでもない汚さだった。


 まず、大型エレベーター周りを片付け、エレベーターを稼働可能状態とする。

 そうしてスクラップ類を外に運び出してから、その後に機材を運び込み、修理や改造、訓練スペースといった設備を設置する。


 それらすべてを業者任せにすれば、時間・予算共にいくらあっても足りない。

 清掃作業をある程度自分で行うことを考えたら、最初のユニットをラプトルにする以外の選択肢はなかった。




 あさひがスクラップを運び出して、既に三十分。

 遅い操作にもたもたローラー移動で、うんざりし集中力を完全に切らしている。


 それでも、操縦に支障をきたしていないのだから、大したものである。

 達臣はラプトルの構造的性能に感心を覚えていた。


 本来ならば戦闘機以上に面倒なユニットの操作を、車のミッションに毛の生えたくらいの難易度に落とし込む。

 それは一途に土木重機を極めて来たJPI工業だからこその結論なのだろう。


『それでさ先輩』

「……今度はなんだ、あさひ」

 三十分、ずっと雑談をしていたからだろうか。

 二人の距離感から、遠慮というものが消失していた。


 同時に、達臣はうんざりした表情を隠しさえしなくなっていたが。


『らぷちゃんってさ、どうやって運び込んだの?』

「らぷちゃんって……。そのラプトルは業者が直接搬入した」

『いや、エレベーター動かないんでしょ?』

「見ての通りだ」

 あさひはエレベーターのある方角を見る。

 搬入口の手前にはまだまだゴミが散乱しており、稼働した痕跡は年単位でない。


『じゃあ、どうやって持ってきたの?』

「普通に階段からだが?」

『ここに来るまでの階段?』

「そうだ」

『曲芸みたいだねぇ。流石プロは違うなぁ』

「プロと言っても工事のプロだったがな」

『JPI工業だっけ? そういうのもあるんだねぇ。ああそうそう。会社で思い出した。私は――』

「『マギア社』のユニットには乗らないだろ?」

 達臣の言葉に面食らい、あさひはぴたりと返事が止まった。


 業界第二位の純国産ユニットメーカー『マギア・コーポレーション』。

 非常に安定した性能を誇り、プロでも愛用ユーザーがいる優れた機体を産出する会社だが、あさひはここの機体にアレルギーがなり乗ることを拒絶していた。


『……あれ? 私言ったっけ?』

 何も言ってないのに先読みされた驚きを込め、あさひは尋ねる。

「いや、あいつが……妹が同じ主義なんだよ。たぶんお前もだって妹から聞いた」

『さすがなぎさ先輩。わかってるー』

 少しだけ機嫌が戻った様子を見て、達臣は溜息を吐いた。


 別にあさひのことが嫌いなわけじゃない。

 ただ、風のように自由な気風を持ちながら、他者との距離をガンガン詰めてくるこの手のタイプが達臣は苦手であった。

 まるで誰かさんみたいで。


 そうこうしているうちに、そのもう一人の苦手な"誰か"さんがやってくる気配を感じ、達臣は顔を顰めた。


 たったたったったたっ。


 階段を下りる妙な不規則な音が、予感を確信へと引き上げる。

 そしてすぐにその彼女、自分の妹である"らしい"なぎさがその姿を見せた。


「おや、片付けかい? ご苦労! やはりあさひちゃんは機体に乗っている時が一番輝いてるね! けれどすまない! 本当にすまない! 二人とも、ちょっと悪いんだが上に来てくれないだろうか?」

「……何かあったのか?」

 達臣は顔を顰め、睨むように尋ねる。

 それは暗に『お前何やった』と聞いていた。


「ご、誤解だ! 今日はまだ何もやっていない! そうじゃなくて、来たんだよ!」

「何がだ?」


 なぎさは会心のどや顔を見せ、言い放った。


「箱舟の、二人目のクルーさ」


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